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香(こう)の話 (香のはじまり・訶梨勒・源氏香)

●香のはじまり

香料の発見は、パミール高原のヒンズー族にはじまるといわれ、インドに香料がもたらされたときは、香気の精神浄化作用を仏教文化に取り入れ、

仏前に焚く「焼香」として、敬虔(けいけん)の念を高めるのに利用されるようになりました。

さらにこれがインドから分かれて、一方はエジプトに流れ、

没薬(もつやく)や肉桂(にっけい)などの香料は、その防腐・殺菌作用によりミイラの製造に利用されました(前25〜前1世紀)。

エジプト文化がギリシア・ローマの時代に移入されるとともに、香料の需要は次第に増し、練香(ねりこう)から、使いやすい液体の香水へと形態をかえていきました。

もう一方は中国にうつり、仏前焼香の他、丁字や肉桂など媚薬としても用いられました。

日本へは、仏教伝来とともに、六世紀ごろ中国から伝えられました。

やがて、八世紀になって、遣唐使などの手によって香木ももたらされ、おおいに広まりました。

寺院で焚くだけでなく、部屋に焚きこめたり、着物に焚きしめたり、また、香をきく(かぐ)香合わせの遊びも流行しました。

『源氏物語』、『枕草子』、『栄華物語』などには、その様子が描かれています。

香合わせも、はじめのうちは二種類の練香の優劣を判じる単純な遊びでしたが、

しだいに香木なども用い、組香といって文学的な遊びにまで発展しました。

やがて室町時代には、三条西実隆、足利義政、宗祇などによって香道にまで高められました。

江戸の元禄期になると、公家や大名だけでなく、庶民の間にももてはやされ、華道、茶道とともに流行しました。

●左画像・・・足利義政好み「訶梨勒」:これは三色の組み紐を使っています。

千家十職の袋師、土田友湖家に伝わる足利義政好みは五色。

白はカリロクの花の色、袋は果実の形、五色の組み紐は陰陽五行、四つの編み目は四季を象徴しているそうです。

(これに四つの編み目はありません)・・下記「訶梨勒」参照

(画像をクリックしてください)

 

●訶梨勒(かりろく)

新年や慶事の席の床に「訶梨勒」という袋物が飾られることがあります。

室町幕府八代将軍・足利義政に仕えた同朋衆が記したといわれる『御餝書(おかざりしょ)』に「一かりろくとて柱飾なり」とあるように、

室町頃にはすでに書院の柱飾りとなっていました。

邪気を払うといわれ、現在では匂い袋の一つにもなっていますが、じつはこの訶梨勒は、奈良時代に鑑真和上が将来した、インド伝来の秘薬にルーツがあります。

訶梨勒とは、インド原産のシクンシ科ミロバランの果実で、樹高は30メートルに達します。

鑑真和上は五度目の渡海のときに海南島へ漂着し、広州の寺へ立ち寄った際、カリロクの木を発見したといわれ、

正倉院には和上がもたらしたと伝えられる訶梨勒が一個だけ残っています。記録によると関白道長もたびたび持ち出したようです。

文化二年(1806)の奥書のある『懸物図鏡』には懸物としての「訶梨勒」について

「慈照院(足利義政)のお好みで作らせた物で、霊綿綏(れいしさい)ともいう。

訶梨勒は水毒を避け緒病を治す。これを粉末にして酒に入れて飲むと気を鎮める。

昔は訶梨勒を糸でつないだだけのものを使っていたが、義正の時から袋の中に納めるようになった。」と書かれています。

いずれにしろ、古来、薬用の実として大切に保存されていた訶梨勒が、しだいに形を替え、

緒病を治す霊力を尊ばれて床飾りにまでなったものと考えられます。

袋の中には訶梨勒の実(訶子ともいう)が入っています。その数12,これを閏年には13個にすると言い伝えられてきました。

現在では、訶梨勒の実がとても手に入りにくいものになりましたので、

(昭和30年代頃までは、漢方薬屋に漢方薬として売られていたようです)香袋を入れて匂いを楽しんだりしています。

●右画像・・・蝉の「訶梨勒」:せみは脱皮するので縁起がいいとされています。季節はいつでも掛けられます

 (画像をクリックしてください)

 

●源氏香

江戸時代、最も親しまれた香合わせの一つが源氏香でした。

これは香をきく数名の客が、香元から出された香が同じ種類か別のものかを当てる遊びです。それを五本の線で図示します。

五本の縦線を、右から一炉の香、二炉の香・・・、そして最も左が五炉でたかれた香を意味します。

このうち同じ香と思うものの上を横線で結ぶのです。

例えば浮舟の図柄は、一炉と五炉、三炉と四炉の香が同じで、三種類の香が焼かれたことを意味します。

こうして五十二通りの図が可能になります。

五十二という数から香人は源氏五十四帖を連想したのでしょう。

初巻「桐壺」と最終巻「夢浮橋」を除いた「帚木」から「手習」までにあてはめたものを「源氏香之図」と呼びます。

巻名と図柄の関係は不明です。説明を試みた人はいるようですが、定説はありません。古文書にも見あたりません。

源氏香之図の図柄ほど簡潔で優美で奥行きの深い図柄はありません。

きものの柄から蒔絵の文様、家紋、投扇興などの遊戯具、菓子の焼き印・型、はては会社の商標にまで、幅広く利用されています。

ここで、源氏香之図のそれぞれの名前と、簡単なあらすじを紹介させていただきます。

◆源氏香之図◆ 

(1)第一帖〜第十八帖(2)第十九帖〜第三十六帖◆(3)第三十七帖〜第五十四帖

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