スタッフN村による着物コラム

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二月の初め、東京が雪に覆われた翌々日、着物で文楽鑑賞に出かけました。

国立劇場の再建はいまだに入札もできていないそうで、

古典芸能継承者たちが異例の抗議会見を開いていましたね。

私が生きているうちに完成するかどうかも怪しいモンですが、そんなわけで流浪の旅に出た文楽一座。

今回は神宮外苑(このあたりもいろいろ物議を醸していますがw)にある日本青年館での公演です。

艶容女舞衣のお園のポスターと記念撮影。

今回は微塵格子の紬に母のお下がりの村山大島の羽織と、織の名古屋帯(もちろん二部式w)。

あちこちに雪の残る寒い日だったので、

羽織の下には知り合いに作ってもらったフリースのちゃんちゃんこを仕込んでます。

ネル裏保多織の足袋に、ヒートテックのタイツも着用、無論襦袢の下にもヒートテック。

コートもストールもなしですが、十分すぎるほどの防寒対策でした。

 

119. 二月の文楽鑑賞『艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)』

能登半島大地震の被災者の力になろうと、あちこちのイベント会場で募金活動が行われています。

先月の大相撲初場所でもささやかに協力しましたが、ここ文楽の会場でも演者自らロビーに立って呼びかけ。

人間国宝の桐竹勘十郎さんは、子供の人形を遣いながら、募金した人との記念撮影に応じています。

私もほんの心ばかりを募金箱に入れて、ちゃっかり国宝と一緒にカメラに納まらせていただきました。

客席に入ると、やはり今までの国立小劇場とは比べ物にならないほど広い。

両脇や後方は空席も目立ちます。

小劇場はいつも完売で、チケットは争奪戦だったんですが、日本青年館を満員にするほどではなかったか…。

590席の国立小劇場と、1249席の日本青年館では倍以上の開きがあるとはいえ、チトサビシイ。

そのぶんチケットが入手しやすくなるのなら、文楽ファンの裾野を広げる意味はあるかもしれない…

などとつい流浪の一座の心配をしてしまいますが、

真のホームグラウンドは大阪の国立文楽劇場ですから余計なお世話ですね。

さて演目は『艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)』と『戻駕色相肩(もどりかごいろにあいかた)』。

艶容…はずいぶん前に、吉田簑助のお園で観たことがあり、今回は愛弟子・桐竹勘十郎が遣います。

大阪の酒屋・茜屋、主の女房と少々足りない丁稚が店番をしていると、

幼子を抱えた頭巾姿の女が酒を買いに来る。

酒樽を丁稚に持たせ、女が出ていくと、店の主人・半兵衛が町年寄五人組とともに代官所から戻って来た。。

倅の半七が人殺し、だの勘当だのと不穏な会話がかわされる中、

丁稚が酒樽を手に、幼子を背負って泣きながら帰ってくる。

女はしばらく子供を抱いていてほしいと頼んで姿を消したという。

酒樽に貼られた書付を見て、半兵衛はこれは茜屋をたのんでの捨て子だと察する。

五人組が帰ると、倅半七の嫁・お園と、その父の宗岸が訪ねて来る。

半七はお園が嫁ぐ前から芸者の三勝と深い仲で、子までもうけていた。

家も妻も顧みない半七を見限り、宗岸はお園を実家に連れ帰っていた。

しかし夫を慕って泣き暮らすお園を案じて、もう一度嫁として迎え入れてほしいと詫びる宗岸。

半兵衛は、半七は勘当したのでいまさら嫁も何もないと断るが、

宗岸はそれならなぜ代官所で半七の代わりに縄にかかったのかと問う。

驚いた女房が半兵衛の上着を脱がすと、なんと縄で縛られている。

半七は贋金を掴まされたことから三勝に横恋慕する善右衛門を殺めて逃亡中、

その罪を半兵衛が代わりに引き受けたのだ。

その親心に打たれた宗岸は、一旦は嫁入りさせた者、

半七が嫌うならお園を尼にしてでも半兵衛夫婦の跡を弔わせて欲しいと泣き崩れる。

半兵衛も、若いお園を後家にするのが不憫で、再び嫁として迎えることが出来なかったと答える。

お園の前では話しにくいこともあると、半兵衛夫婦と宗岸が奥へ入ると、ひとり残されたお園の独白が始まる。

ここがこの演目の見どころで「今頃は半七さん、どこにどうしてござろうぞ」、

と夫を案じ、

自分という者さえいなければ、子供に免じて舅も三勝との仲を許して、半七さんの身持ちも直り、勘当もあるまいに、

去年の秋私が病に伏した時、あのまま死んでしまえばこんなことにはならなかったのに、

気に入らぬ嫁で、添い臥ししたことすらないのに、未練がましくお側にいたのが御身の仇…

と、半七三勝を恨むでもなく、ひたすら我が身を責めるお園の前に、最前の幼子が這い出てくる。

お園はその子が半七と三勝の娘・お通だと気づく。

酒を買いに来た女は三勝で、子供を半七の実家に預けに来たのだ。

お通を抱き上げるお園の前に、奥にいた半兵衛夫婦と宗岸がまろび出て、お通の懐に半七の書き置きを発見。

両親への感謝、不孝の詫び、お通を頼む、

来世では必ずお園と夫婦になる、と綴られた手紙を読んで、悲しみに沈む一同。

半七と三勝は心中する覚悟で、店の門口で中を伺う。乳を欲しがるお通にひと目会いたいと伸び上がる三勝。

半七は父の縄を一刻も早く解かねばと、三勝を促し死出の旅へと急ぐのだった…。

前半の親たちのああだこうだはちょっと退屈で時々寝落ちしてましたが、

お園の口説きからは呂勢太夫・清治の床とあって、俄然覚醒(笑)。

人形もお園を遣う勘十郎の独擅場です。

師匠の蓑助は後ろ振りの反り返りも派手で、色っぽい若妻風でしたが、

勘十郎はむしろ控えめに、どうやら処女妻らしいお園を楚々と遣っています。

ちなみにさっきロビーで勘十郎が持っていたのはお通の人形でした。

このお園役は、女形人形の最終目標とされる役だそうで、お園は究極の貞女として今に伝えられる存在なんだとか。

しかしイヤホンガイドを聞きながら見ていた初心者の友人が、えーこんなのありえない!と猛反発。

そう言われてみれば、現代の感覚では考えられない心情。

そんなもんかなと思って見ていた私は目から鱗がバラバラ落ちました(笑)。

そこで私は考えた。お園は156の娘っ子で、半七さん大好きの少々ぶっ飛んだ女の子ではないかと。

半七は年の離れた憧れのお兄さんで、子までなした恋人がいても、あたしは半七さんのお嫁さんになれるだけで幸せ。

半七からしてみれば、妹のような幼いお園に手を出す気にもならず、どうせ親が決めた縁組と、三勝に入れ込みっぱなし。

その三勝の取り合いで殺人まで犯してしまう半七に、

お園はどうしよう、あたしのせいで大好きな半七さんを人殺しにしちゃった。

あたしなんか去年病気になったときに死んじゃえばよかったのよ、そしたら半七さんは三勝さんと幸せになれたのに…。

でも書き置きでは、来世では必ず本当の夫婦になってくれるって約束してくれた。

それを楽しみにあたしは生きていきます…

お園はお通の顔を見て半七の娘だと気づくくらいですから、三勝半七お通の暮らしを何度も覗き見に行っているはずです。

そこで嫉妬に狂うでもなく、幸せそうな三人に、なんてステキな家族かしらと憧れを抱いていたのではないかと。

乳を求めて泣くお通に、乳をやりたい、乳が張る、と乳房を握りしめる三勝のリアリズムとはえらい違いです。

この解釈を鑑賞後の飲み会で披露したところ、友人も賛同してくれました。

そうすると勘十郎の遣うお園が、控えめで楚々とした印象だったのは、お園がおぼこい少女だという解釈なのかも。

演者の意図を正しく受け止めることが出来たのだとしたらこの上ない幸せ。素朴な疑問を提示してくれた友人に感謝です。

このあとの『戻駕色相肩』はいわゆる「景事」で、歌舞伎の舞踊を人形浄瑠璃に逆輸入したもの。

初演は江戸時代の名手で落語でも有名な中村仲蔵だそうですが、歌舞伎でも舞踊は苦手な私。

ま、いっか、というところです(笑)。

今回は『艶容女舞衣』を自分なりに解釈したことで大満足。

テレビドラマにしてみても面白いんじゃないかと勝手に配役を妄想したり、ちょっと今までと違う文楽体験でした。

 

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