スタッフN村による着物コラム

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元日から大変なニュースが飛び込み、波乱の年明けとなりました。

能登半島地震の犠牲者のご冥福をお祈りするとともに、いまだ困難な状況にある被災者の皆様が、

一日も早く日常を取り戻されることを願ってやみません。

平穏な新年を迎えることができた自分は幸運なのだと、

この日常を大切に生きようと、気を引き締める今日このごろです。

 

普段とさして変わらないおひとりさまの正月ですが、せめて気分だけでもと、新年最初の落語会は着物を着ました。

着物はどこかのバーゲンで買った紬ですが、カジュアルな格子柄が気に入ってます。

羽織は祖父の百年ものの村山大島、晏オリジナルの木綿半幅帯に、足袋はネル裏の別珍で、とてもあったか。

バッグは亡き叔母が刺繍した布を、姉が別珍の布に縫い付けてバッグに仕立ててくれたものです。

叔母が遺した刺繍糸で、私も真似事をしてみましたが、とてもこんな複雑な刺繍はできません。

改めて天国の叔母に尊敬と感謝を。

 

118.立川と渋谷で新春落語

新年そうそうイベント続きで、11日には立川で落語会、16日には大相撲初場所観戦、18日には渋谷で落語会と大忙し。

大相撲は三場所ぶりに横綱照ノ富士が出場し、横綱土俵入りも見ることができました。

その時点でまさか優勝するとは思ってませんでしたが。

相撲話は大方の皆様にはご退屈かと思いますので、

まずは立川の「新春たちかわ寄席 気になる春の三人会」からご報告します。

春風亭小朝、柳家喬太郎、そして小朝の弟子で一昨年真打ちに昇進した蝶花楼桃花の三人会。

昨年ご紹介した立川小春志もそうですが、桃花は近年増えてきた女性の真打ちの一人です。

開口一番は前座の柳家小じか『金明竹』。

早口関西弁の言い立てに拍手が来るのは、まあよくできましたというところか。

続いては、おや、小朝からですか。釈台が出たから喬太郎かと思った。

演目は『扇の的』となってましたが、『源平盛衰記』の一部ですね。地噺と呼ばれるジャンルで、講談や漫談に近いもの。

壇ノ浦の源平合戦の話に時事ネタを織り交ぜて笑いをとりますが、小朝っていつからこんな芸風になったんだろう。

若い頃は志ん朝の再来とか言われて、明るく綺麗な古典落語を聞かせてたのに、なんだか漫談家になったみたい。

年齢はそろそろ大御所と呼ばれてもいい域ですが、これでいいのか春風亭小朝。

ちょっと残念。

続いては蝶花楼桃花。二つ目時代は春風亭ぴっかり☆の名で、追っかけが出るほどの落語界のアイドル的存在。

…と、噂では聞いていましたが、高座を見るのは初めてです。確かに可愛い。

42歳だそうですが、30そこそこにしか見えません。

たまたま早朝にテレビを付けたら、NHK解説室「究極の男社会でも自然体で」というテーマで話していて、思わず見てしまいました。

落語界はまさに究極の男社会で、その中で女性落語家としてどう存在感を発揮していくか、さまざまな取り組みをしているようです。

落語協会には女性真打ちが10人、芸術協会や立川流、上方も合わせれば30人にものぼるそうな。

女物の着物にお太鼓を締める人、袴を付ける人、男物の着物で見た目はまったく男性という人、高座着もさまざまです。

芸風も女性主人公の新作落語、女性目線に改作した古典落語、ガチンコの古典落語など、人それぞれ工夫を凝らしている模様。

桃花はこの日は袴姿で、吸血コウモリが女の子に化けて、居酒屋主人に恩返しするという新作落語でした。

見た目の可愛いさもしっかり武器にしているようで、昔「ポスト宮崎あおい」と呼ばれてたと言い出したのにはおいおい、と思いましたが、

師匠が大河ドラマ『篤姫』に出演していた時に付き人をしていて、

宮崎あおいにファンレターを届ける役目としてそう呼ばれていたというオチ。

しかしなまじ可愛いので、そうやって下げても、同性の私にはいささかイヤミに感じてしまうのはヒガミですかそうですか(笑)。

個人的には男姿にガチンコ古典で勝負している立川小春志のほうを応援したいかなあ。

古いやつだとお思いでしょうが、こういう古いやつの頭を踏み越えて行くことが彼女たちの挑戦。

婆さんは遠くから見守っています。

その5日後、相撲観戦に行ったら、砂かぶりの落語協会指定席で桃花発見。

男仕立てのピンクのアンサンブルに、さすがに雪駄ではなく女物の草履を履いてました。

お連れは湘南乃風の若旦那という人だそうな。

この日に見てなかったら発見できなかったかも。ご縁がありましたね。

トリは喬太郎。一昨年、膝を痛めて正座ができないと、

講談で使う釈台を置いているのを初めて見ましたが、今日も釈台が出て来た。

歩くには問題ないとのことですが、昔、座布団の上で飛んだりはねたりしていたのが良くなかったのか。

横浜生まれながら江戸前にこだわる人ですから、忸怩たる思いがあるのか、今回もしきりに恐縮していました。

桃花がマクラで学校公演の話をしていたのを受けて、

自分も学校公演では一日二ヶ所回るとか、地方公演も今日びは日帰りだとか、

帯広のビジネスホテルでJアラートに出くわした話はどこかで聞いたなと思ったら、一昨年まさにこのRISURUホールで。

演目はかぶってないけど、マクラかぶりもちょっと勘弁してね(笑)。

タクシーの話から、駕籠かきの話になり、昔はあまり柄のよろしくない職業だったらしい、と振って、噺は『抜け雀』。

一文無しの若い旅の絵師が、宿代がわりに描いていった屏風の雀が、毎朝絵を抜け出て飛び回る。

それが評判となって大盛況の旅籠に、絵を見たいといってやってきた老人が、この絵には抜かりがある、と指摘する。

とまり木が描いてないから、いずれ雀は疲れて死ぬぞ、と老人は屏風に鳥籠を描き足す。

雀は喜んで籠に入り、朝になると籠を出て飛び回る。さらに評判は高まり、ある日雀を描いた絵師が再び訪れる。

宿の主人に話を聞いて、絵師は屏風の前ではらはらと涙を流す。

籠を描いた老人は自分の父親だ、私はなんという親不孝者か、と。

主人がどうして親不孝なのかと尋ねると、「大事な父親を籠描き(駕籠かき)にした」がサゲ。

喬太郎の鉄板ネタのひとつで、私は何度か聴いていてますが、

気弱な主人と気丈な女房、傲岸不遜な絵師とのやり取りがいつ聴いてもおかしい。

墨を擂らされる主人の「あ、この墨いい匂いがする」というつぶやきが、絵師のただ者でなさを思わせ、

老人も同じように墨を擂らせると、また「この墨、いい匂いがしますね」というリフレインが老人と絵師の関係を匂わせる。

主人の素直な人柄とともに、墨の爽やかな香りがしてくるようで、好きな演出です。

マクラで振っておかないとサゲの意味がわかりにくいところはありますが、安定の面白さ。

やっぱりキョンキョン好きだー!

 

一週間後、今度は渋谷PARCO劇場で「志の輔らくごin PARCO」です。

なかなか取れないプラチナチケットですが、友人が開演時間を間違えて取ったのを譲ってくれました。

この公演は、前座は出さず、志の輔が三席みっちり語り、幕間に毎回趣向をこらしたゲストが出るというスタイル。

果たして今回はどんなサプライズゲストかな? 長唄連中のオープニング囃子に続いて志の輔登場。

まずは富山出身とあって、のっけからお願いで申し訳ございませんと断り、

北陸に励ましの拍手を、とお願い。万雷の拍手の中、深々と頭を下げ、客席に礼を述べる志の輔。

大御所と呼ばれるようになっても、こういう謙虚さがいいなあと思います。

一席目は新作。定年を迎えた二人のサラリーマンが、二人だけの送別会をしようと蕎麦屋を訪れる。

店の老主人に、実は初任給をもらった日にここで祝杯をあげたと話す二人。

昔の店の写真で、若き日の主人が出前のせいろを高々とかついで自転車に乗る写真を見て大いに昔話で盛り上がる。

店の跡継ぎの若者に、昔はまず水と灰皿が出てきたもんだとか、電車はおろか飛行機の中もタバコが吸えたとか、

いちいちウッソー!と叫ぶ若者の反応を楽しみ、二人は小さな花束を交換する。

しかしカミさんにあらぬ誤解を受けてもと、今日でそば打ちを引退するという主人に花束を進呈する。

感激する主人に、この長寿庵の暖簾がこれからも長く続くように、と言うと「長寿庵は向かいの店です」がサゲ。

志の輔の新作落語は何本も聴いてきましたが、これはお初。新作なのかな?まずは軽めのジャブというところ。

二席目は、おっと傑作『モモリン』だ! モモリンというご当地キャラが人気の桃の名産地。

夕方のニュースショーで5分だけ中継が入るその日、

市長とモモリンのツーショットが予定されるも、モモリンの中の人がなかなか来ない。

待ち時間にふとした出来心で、市長がモモリンの被り物をかぶってみると、ファスナーが噛んで脱げなくなる。

観光課の職員があわてて業者を呼ぶが、

これはもうハサミで切るしかないと言われ、やむなく市長はそのままステージに上がる。

ここで大問題、モモリンの売り物は「モモリンフラッシュ」というバック転。

モモリンファンのコールが高まる中、市長は絶体絶命…

という、志の輔得意の「小役人もの」。市長は小役人じゃないかもだけど、地方都市の職員が右往左往する噺はどれも傑作。

『歓喜の歌』や『大河への道』は映画にもなっています。これも映画化してモモリンのビジュアルをぜひ見せていただきたい。

幕間にステージのスクリーンには、電車の灰皿、せいろを高々と担ぐ出前持、

赤電話や缶ピースや、太陽の塔やケロリン人形や、昭和な写真がずらり。

さっきの『送別会』の流れです。そして志の輔が登場し、本日のゲストを呼び入れる。

く、く、くまモンだあーっ!! そうか、それで噺がモモリンだったのか!

全国津津浦浦、ご当地キャラのない自治体はほとんどないのではと思われますが、

いまだにくまモンを凌駕するキャラはない、と私は思ってます。

モモリンもくまモンみたいに全身一体型なら、市長の悲劇もなかったのではと思いますが…(笑)。

くまモンがスクリーンを指すと、「志の輔師匠、70歳おめでとうだモン」のメッセージが。そうか志の輔もう古稀なのか…。

そして、スクリーンに映された昭和グッズが、なにか一つでもおうちにあるという方は、くまモンとハイタッチできるというサービスが。

うーん、残念、どれもない、と思っていると、太陽の塔の写真でもいいか、という女性が二人手を挙げる。

苦笑しながら志の輔が一人ずつステージに呼んでくまモンとハイタッチ。

しかし二人目の女性は太陽の塔の内部に入ったことがあるとスマホの写真を志の輔に見せ、くまモンと二人で感心。

結果的に珍しいものを見せていただいたと大感謝。

そしてくまモンは、モモリンフラッシュをやってみせるモンと宣言。

ステージ後方から助走をつけるも、当然ベチャッっと大コケ。もうキュン死しそうに可愛かったです。

休憩時間にロビーへ出ると、入場時には影も形もなかったくまモン関連のオブジェやグッズでいっぱい。

やはりサプライズゲストなので、極秘裏に準備が進められているんですね。

熊本県のアンテナショップ・銀座熊本館に出張中らしく、そこからPARCO劇場へ通っているようです。

なんせ正規の熊本県庁職員で、知事直属の宣伝部長なんだそうで、モモリン市長とどっこいのお偉いさんですからね(笑)。

休憩後の三席めはぐっとしっとり、古典の『しじみ売り』。

年端も行かぬしじみ売りの少年が、料理屋の主人に邪険にされているのを見た客の男が、しじみを買い取って川に放してやれと言う。

聞けば病の母と姉を養うために、毎朝冷たい川でしじみを取って売っているという。

姉は元芸者で、大店の若旦那と駆け落ち、旅先でいかさま博打に引っかかり、

大借金を抱えてしまう。

それを行きずりの旅人が小判包を投げ出して助けてくれた、までは良かったが、

その小判には刻印があり、さる大名屋敷から盗まれたものと判明。若旦那は囚われ、伝馬町の牢に入れられた。

しかし若旦那は助けられたことを恩に着て、決して行きずりの旅人のことを白状しない。

それを気に病んで姉も病に倒れたという。聞けば聞くほど客の男は焦燥していく。

男の正体は、ねずみ小僧次郎吉で、大名屋敷から盗んだ金を若旦那に与えたが、刻印のことは気がついていなかった。

良かれと思ってしたことが災いとなり、口を割らない若旦那の心意気にも打たれた男は、自首の決意を固める。

少年に、もう少ししたら、おめえにもいい知らせが届く、しじみを売らなくてもよくなるから、と語りかける男。

それじゃあおじさんに悪いや、なんでだ? だっておじさんがおいらの代わりにしじみ売ってくれるんでしょ? がサゲ。

もとは講談ネタで、いろいろな演じ方があるようですが、志の輔は「新版」と銘打って独自の演出をしています。

サゲも志の輔独特です。少しこましゃくれた、健気な少年が可愛くて、次郎吉ならずともなんとかしてやりたい。

まして少年一家の苦難の原因が、善意でやったとはいえ、それが盗んだ金であったこと。

「義賊」と讃えられるねずみ小僧の、矛盾、皮肉、葛藤があの渋い声で絞り出される。

その大人の葛藤をあっけらかんとスルーする、少年の可愛らしい発想のサゲ。

お見事です。

寒い真冬に聴いてこそ、しんしんと心に染み渡る人情噺の一席。たっぷり3時間の志の輔ワールド、堪能しました。

お土産は師匠とくまモンのツーショット写真カードと千社札入りの大入り袋。ありがとう志の輔師匠、そしてくまモン!

 

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