スタッフN村による着物コラム

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昨年もここでご紹介した地元・青梅の吹上菖蒲園に今年もでかけました。

今年は桜から始まっていろいろな花の開花時期が早いようで、花菖蒲のピークはいささか過ぎていました。

そこでさらに車で6〜7分のところにある塩船観音寺に足を延ばしたところ、

紫陽花がちょうど見頃で、今年はこちらをご紹介。

塩船観音寺はツツジが有名で、GW頃にはよくTVのニュースでも取り上げられますが、紫陽花もみごとです。

  

寺域の端のなだらかな斜面に、ガクアジサイや西洋アジサイ、カシワバアジサイなど、品種も色もさまざま。

ツツジの頃は入園料がかかりますが、今の所紫陽花は無料です。

どんどん植え広げているようなので、いずれは有料になるかも。

おすすめの穴場です。今のうちにお楽しみください(笑)。

 

13. さらば国立劇場

国立劇場および国立演芸場が建設から55年を経て、老朽化のため建て替えるんだそうです。

中野サンプラザも50年で建て替え、鉄筋コンクリートの耐久年数って、

私の人生より短いんだなと妙な感慨を覚えますね。

国立劇場は中学だか高校の時(ほぼ50年前)に、

古典芸能鑑賞会に連れて行かれたのが最初だったような気がします。

たぶん文楽で、たぶん『俊寛』だったような気がするんですが、

たぶん爆睡していて何の記憶も残っていません(笑)。

あの時一緒に爆睡したであろう同級生の中に、その後一度でも文楽を見に行った人がいるかどうか。

古典芸能にハマるきっかけは人それぞれですが、

あの学校鑑賞会がきっかけになったという人は稀でしょうね。

国立劇場は日本の伝統芸能の保存と普及を目指して設立され、

商業的に難しい芸能の上演や、歌舞伎や文楽の研修生の育成も担っています。

しかし昨今は観客が高齢化して若者の足は遠のき、伝統芸能志望者の減少も悩みのタネらしい。

文楽研修生の応募が今年はゼロだったとかで、それは文楽ファンとしても憂慮すべき現状です。

新しく建て直す国立劇場は、ホテルやレストランを併設したり、

フリー入場できるロビーを設けたり、若者を呼び込むあの手この手を考えているとか。

しかしなあ、隣が最高裁という官庁街で、

歌舞伎座みたいに観劇後に食事や買い物するスポットもないあの殺風景な立地。

そもそもなんでこんなところに娯楽施設を作ったのか。

あ、そうか、伝統芸能は娯楽じゃない、というお役人感覚なのか。

それじゃあ若者を呼び込もうったって無理がある。

いっそ新宿歌舞伎町のど真ん中に作るくらいの度量が欲しかったですね。

というわけで、初代国立劇場さよなら公演と銘打ち、

昨年秋から一年がかりで国立にしては(笑)派手な出し物をやっています。

文楽は、二回に分けて『菅原伝授手習鑑』の通し上演。

五月は初段から二段目、九月に三段目から五段目。

三部公演で、なぜか夜の第三部はまったく関係ない『夏祭浪花鑑』。我々は第二部の二段目を選択しました。

五月のよく晴れた日で、日差しはほぼ夏。

迷わず単の紬に決めて、襦袢も保多織のうそつきです。

温暖化気候の昨今、私は勝手に五月は単、と決めています。

帯は赤黒の笹蔓紋の二部式。これ、赤黒反転のリバーシブルです。

さすがに赤地の方は派手になってきたので黒地に赤い模様にしました。

バッグは鎌倉で買った久留米絣のトートです。

袷の久米島紬に絹の襦袢で来た友人が暑い暑いと嘆くので、

今度晏の東京展においでよと誘っておきました。

木綿の襦袢に興味津津の様子。

さて、文楽。『菅原伝授手習鑑』は、政敵の陰謀により太宰府へ流罪となった菅原道真(菅丞相)と、

その周囲の人々の悲劇を描いた大作にして名作。

いくつかの脇筋があり、それぞれに「車引」「寺子屋」「道明寺」「佐太村」などの名場面が、

文楽でも歌舞伎でもしばしば単独で上演されますが、

全五段の通し上演は51年ぶりだそうで、まさにさよなら公演にふさわしい大盤振る舞いです。

第一部で菅丞相が陥れられるきっかけとなった、

斎世親王と丞相の養女・苅屋姫の駆け落ち事件が起きます。

それにより、丞相が養女を親王の后に立てて皇位を簒奪しようとしたという濡れ衣を着せられ、

太宰府へ流罪と決まります

第二部は姫と親王の仲を取り持った舎人の桜丸が、飴売りに身をやつし、

二人を守りながら姫の実家へと向かう「道行詞の甘替」から。

飴を買った親子から、菅丞相が流罪となり、

今は摂津国安井に留まっていると聞いた三人はその地を目指します。

次の「安井汐待の段」はめったに上演されず、国立劇場ではまさに51年ぶりだとか。

この場があることで、次の段が大変わかりやすくなります。

安井港では丞相を送る船が待機し、護送役の判官代照国が警護中。

姫と親王は自分たちのせいで丞相が罪せられたと聞き、丞相との対面を懇願。

しかし照国はこれを断り、娘を后に立てようとした疑いで丞相が罪せられたのだから、

親王が姫と縁を切って、帝に丞相の潔白を説くべきだと諭す。

泣く泣く姫に別れを告げる親王。

そこへ、丞相の伯母で姫の実母・覚寿の娘(姫の実姉)立田の前がやってくる。

覚寿一家への暇乞いのために、丞相を土師の里へ一泊させてほしいとの頼みを照国は快諾。

姫も同行を願うが、立田は突き放す。

丞相の心中を慮って、照国は桜丸に御所まで親王の供を命じ、

立田の前には姫を覚寿に預けることを命じる。

この後が一般的に「道明寺」と呼ばれる場で、歌舞伎でも何度か観たことがありますが、

なるほどなるほど、この段があるとないとじゃ大違いです。

なんせ姫はいきなり母に折檻されるし、照国は突然丞相を迎えに来るしで、

イマイチ事情がわかってなかったんですが、そういうことなのね。

照国の人柄もよくわかるし、歌舞伎で「道明寺」をやる時も、ぜひこの「安井汐待」をつけるべきです。

この段の太夫は若手の睦太夫。チャリ場なんかは楽しく語る人ですが、こういうシリアスな場面はちょっと軽いな。

続いて「杖折檻の段」。屋敷の一間に姫を匿った立田の前は、丞相に会わせてやろうと部屋を連れ出す。

しかし母の覚寿が杖を振り上げて立ちはだかり、丞相への義理を思って姫を打ち据える。

その時障子の陰から姫と対面するという丞相の声が。

襖を開けるとそこには丞相が形見にと自らの姿を彫った木像があるばかり。

そこへ立田の夫・宿禰太郎とその父・土師兵衛が、丞相の出立を手伝うと言ってやってくる。

杖を振り回す気丈な覚寿は、歌舞伎でも重い役ですが、遣い手は吉田和生。

こういう品格と気迫を併せ持つ役は、やっぱりこの人でないと。

続く「東天紅」の段。

宿禰父子は実は丞相の政敵・藤原時平の命を受け、丞相暗殺を企てている。

小細工で鶏を早い時刻に鳴かせ、偽の迎えを仕立てて菅丞相を引き取り、

暗殺するという打ち合わせを立田の前が立ち聞き。

夫を改心させようと説得する立田を、太郎は騙し討ちで斬り捨て、池に投げ込む。

土師兵衛は箱の蓋に鶏を乗せて池に浮かべる。

死骸のあるところでは鶏が鳴くとの言い伝え通り、鶏は偽の夜明けを告げる。

…と言いつつ、この段は完全に寝落ちしてました。さっさと次へ行きましょう。

偽の護送役が太郎の先導でやって来る。

覚寿は丞相との別れを惜しむが、立田の前がいないので屋敷の捜索を命じる。

遺骸が池の底で発見され、

太郎は発見者の奴を下手人と決めつけて成敗しようとするが、覚寿は自ら手にかけると申し出る。

刀を抜いた覚寿は奴ではなく太郎を刺す。

立田の遺骸が太郎の着物の切れ端を噛み締めていたのを見て、真犯人を見抜いていたのだ。

そこへ照国が丞相の迎えにやって来る。

はて、丞相はすでに出立しているはず…ここまでが「宿禰太郎詮議の段」。

太夫は中堅の実力者・呂勢太夫、三味線は人間国宝吉田清治。

久しぶりにこのコンビが聴けるとあって、眠気も吹っ飛びました。

呂勢太夫の朗々たる美声に、切っ先鋭い清治の三味線、

和生の遣う堂々たる覚寿の奮闘、本日のメインイベントです。

そして大詰め「丞相名残の段」、

ここは切り場語り(落語で言えば大トリ)に昇格した千歳太夫に豊沢富助の三味線。

どうやら丞相が偽の迎えに連れ去られたらしいと聞き、

駆け出そうとする照国の前に、奥の一間から菅丞相が現れる。

そこへ先程の偽迎えの一行が戻ってきたので、丞相と照国が物陰に潜むと、

偽役人は覚寿に、輿に乗っていたのは丞相の木像だと食って掛かる。

しかし輿の中からは菅丞相の優美な姿が現れる。

混乱した偽役人が屋敷のうちに踏み込むと、そこには瀕死の宿禰太郎。

それを見た父の土師兵衛は覚寿に襲いかかるが、照国に取り押さえられ、一味は散り散りに逃げ去る。

この混乱にさぞお気詰まりかと覚寿が輿の戸を開けると、そこにはあの木像が鎮座している。

驚く覚寿に奥の間から「伯母御、騒がせ給うな」と菅丞相が声をかける。

偽迎えに応じたのは丞相手彫りの木像だったという奇跡が起きたのだ。

しかし娘を失った覚寿の悲しみは深く、太郎に止めを刺したその刀で、自ら髻を切って出家する。

照国も感じ入って悪の根源たる土師兵衛の首を刎ね、いよいよ本当の出立の時を迎える。

覚寿は伏籠の中に苅屋姫を隠し、ひと目丞相と対面させようとするが、丞相はこれをやんわりと退ける。

堪えきれずにわっと泣き伏す姫の声に、ただ一度振り返った丞相、それが親子の永の別れとなるのだった…

菅丞相を遣うのは二代目吉田玉男。

世話物なんかではやや大味に感じることもありますが、スケールの大きい歴史物はよく似合う。

しかしやっぱりこの通称「道明寺」の主役は覚寿だよね。なんせ菅丞相の出番の半分は木像なわけで。

歌舞伎ではこの木像と本物の演じ分けが肝で、当代では片岡仁左衛門の独擅場。

文楽では人形が木像を演じるという何が何やらの展開ですが(笑)。

五月公演はここまで。九月には第一部で「車曳」「佐太村」「天拝山」、第二部が「寺子屋」「大内天変」。

このうち菅丞相本人が出てくるのは「天拝山」だけ。

まあ、『義経千本桜』でも義経はほぼ脇役ですから、文楽ってそういうもんです。

私は第二部鑑賞予定。それが現国立劇場とのお別れになるでしょう。

新劇場の完成は2029年とのこと。それまで文楽の演者も観客も元気でいたいものです。

やれやれ、先は長い…。

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