スタッフN村による着物コラム

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初場所に続いてまた行っちゃいましたよ五月場所。

というのも、四場所ぶりに出場する横綱照ノ富士。

両膝の大手術を乗り越えて久々の出場ですが、今場所の成績いかんでは引退の危機。

照ノ富士の横綱土俵入りが見られるラストチャンスかもしれない…

というので押っ取り刀で駆けつけましたが、そんな心配をよそに、終わってみればぶっちぎりの優勝(涙)。

ケガと病気で大関から序二段まで番付を下げながら、

横綱にまで上り詰めた照ノ富士、その覚悟と矜持は我々凡人の思いもよらぬ高みにありました。

今場所はどんぐりの背比べといわれた関脇の中から、

霧馬山が一歩抜け出して大関昇進を決め、二代目霧島となりました。

他の三人の関脇は来場所王手、私のイチオシ若元春もその一人。

次は名古屋場所ですからテレビ桟敷ですが、9月は国技館なので今から観戦計画中。

国技館には和装デーというのがあって、

その日に着物で来た人には北の富士カレーのプレゼントとか、いろいろな特典があります。

次はぜひ和装デーを狙って、国技館着物デビューを果たしたいものです。

若元春、それまでに大関になっとけよー(笑)。

 

112.志の輔と清水ミチコ

表題の二人になにか関係があるかと問われれば、

たまたま私が立て続けに二人のステージを観た、というだけのことですいません。

まず4月に『志の輔最後のサンプラザ』。

中野サンプラザホールが50年の節目で建て替え工事に入る前に、志の輔の高座が実現しました。

チケットのためにあらゆるプレイガイドを網羅する友人が、

ダブって取れたというのでちゃっかり譲ってもらいました。

中野サンプラザといえば、私が初めて外タレコンサートを見た思い出の場所。

中学3年生で、スージー・クアトロ(知ってる?)でした。

そうか、私が中3ってことは50年前だから、完成した年だったんだ。

そして最後の年に志の輔か。なにか感慨深いものがあります。

他にもジャクソン・ブラウンや、確かライ・クーダーもここで見たな。

あれ?サンプラザで落語会ってこれまであったかな?

後ろの席のお客さんも、

「志の輔最後のサンプラザ、って、ここで志の輔の落語会あったっけ?」と話しています。

ともあれ、このチラシを見てください。わかる人なら思わずニヤリとするデザイン。

ザ・バンドの解散コンサートを撮った映画『THE LAST WALTZ』のロゴをもじったもの。

ALZしか合ってませんが(笑)。

ほほう、志の輔、ザ・バンドのファンなのか? 

と、幕の前に椅子とギターと譜面台が置かれ、弾き語りコンサートのようなしつらえ。

そこへ洋服姿の志の輔がハンドマイクで登場し、10代からの音楽体験を語り始めます。

最初はベンチャーズ、それからグループサウンズ、ビートルズという王道の履歴。

その後ピンク・フロイドやコルトレーンへと迷走(笑)。

富山の少年が東京の大学生になり、まさに50年前できたばかりのサンプラザで、

最後のGSといわれたモップスの解散コンサートを見たと言います。

志の輔は山下達郎と仲がよく(明大の同窓だからか?)、

達郎によるとここのホールは日本一音響がいいホールなんですと。

ホールの最後の日は達郎のコンサートがあり、

それ以外にもびっしりスケジュールが埋まっているのに、この424日だけぽかっと空いていた。

そこで急遽志の輔落語会をねじ込んだんだが、

後にも先にもこのホールで落語会が行われたことはないんだとか。

尊敬する山下達郎が絶賛する中野サンプラザホールで、

達郎がステージから見る光景や音響を体験してみたい、とこの公演を受けたんだそうな。

達郎の曲とともに志の輔退場。結局ギターには手も触れませんでした(笑)。

 

着物に着替えて一席目は『たけのこ』。とある武家屋敷で、隣家のたけのこが庭に生えた。

家来が掘りとって主人の昼餉のおかずにしようとすると、主人は一応隣家に挨拶してこいという。

「不埒にもご当家のたけのこが我が家の庭に忍び込みましたので、

無礼千万と手討ちにいたしました」と教わった通りに口上を述べると、

隣家の主人に「お手討はやむをえぬところだが、遺骸はこちらにお下げ渡し願いたい」と返される。

主人に話すと「不埒なたけのこは当家で手討ちにし、遺骸は手厚く腹の内に葬ります。

これは彼の生前の衣服でござる、と言って、皮をばらまいて来い」

と命じられ、隣家の玄関にたけのこ皮をばらまく家来。

屁理屈のやりとりと、右往左往する家来がおかしくもかわいい。

新作かと思ったら、ちゃんと落語事典に載っている上方落語でした。

志の輔がやると古典も志の輔らくごになっちゃうんだなあ。

 

中入りあって、幕が開くと、三味線奏者が二人。

何の自己紹介もMCもなく、いきなり津軽蛇味線の連れ弾きが始まります。

志の輔の独演会は、よく違うジャンルの芸人がゲストに出ますが、

笑いを交えない純粋な演奏のみというのは初めて見ました。

笛との合奏もあり、太棹三味線の弦の唸りが、音響日本一のホールに満ち溢れます。

結局どこのどなたかわからないまま、颯爽と舞台をあとにする二人。

 

二席目は志の輔鉄板ネタの『八五郎出世』。

鉄板と言いつつ、私はなかなか機会がなくて初めてです。嬉しい!

もとは『妾馬』という噺ですが、タイトルの由来である後半をカットすると意味不明なので、

八五郎出世の演題で演る人が多いそうな。

老母と長屋に暮らす八五郎、妹のおつるが大名の側室となり、めでたく男子を出産。

おつるの方となった妹が兄に会いたいと使いを寄越す。

なにせガサツこの上ない八五郎、大家は紋付き裃を貸してくれて、

言葉に「お」と「奉る」をつけて丁寧に喋るようにと助言する。

お屋敷に上がり、殿様の前でヘンテコな敬語を喋る八五郎、

それを面白がった殿が無礼講を許すと、酔っ払って大胡座。

俄然タメ口でぽんぽん喋りだし、おつるの方には、

おふくろがせっかく生まれた初孫を抱くこともできないと嘆いてる、と話してほろりとさせる。

この八五郎を大いに気に入った殿様が、

家来に取り立てて武士の身分を与えて…と後半に続くのが本来の『妾馬』。

しかし志の輔版ではそれを頑として断る八五郎。

妹も兄は一本気な性格でございますから、どうかお聞き届けくださいと口添えする。

では今の話はなしじゃ、とあっさり撤回する殿様に、

そう簡単に引っ込めるのが気に入らねえと八五郎がからむと、殿様、

「お前の妹の名はつる、これが本当の鶴の一声じゃ」がサゲ。

これは志の輔のオリジナルで、八五郎は結局出世しない。

なので一時は『八五郎出世せず』という演題でやっていたこともあるそうです。

ヘンテコ敬語から酔ってべらんめえになっていく八五郎と、

家臣の三太夫とのやり取りが志の輔ならではのおかしさ。

おつるの方となった妹には、綺麗になったなあ、よかったなあ、

でもおふくろが泣くんだよ、初孫を抱いてやりてえってよ、としんみり、ほろり。

一度は聴いてみたかった『八五郎出世』に大満足。

終演後はおそらくこのホールでは最初で最後の三本締め。

最初と最後づくしの中野サンプラザの夜でした。

 

それからほぼ一ヶ月後の立川たましんRISURUホール。

今度は清水ミチコリサイタル『カニカマの夕べ〜おかわり』です。

タイトルのカニカマ、とはカニになりたいけどなれない、

清水ミチコが演じるユーミンならぬユーミソのことらしい。

本人が出てくる前に、延々スクリーンで見せるのは、

ユーミソがカニカマメーカー・スギヨのCMソングをプロデュースするドキュメンタリー風映像。

今年はユーミンのデビュー50周年であり、

カニカマも発売50周年を迎え(いろんなものが50周年なんだな笑)それを記念した曲を作りましたと、

スギヨの本社まで乗り込んで売り込むも、あえなく却下。

その幻のCMソング(いかにもユーミン風な)が流れてやっと本人登場。

そこからはピアノ弾きまくりモノマネしまくり、

さらに映像作品も交えての怒涛の展開で、ひたすら笑いっぱなしの2時間強。

あまりに盛りだくさんで、いちいちネタを書き出したらキリがないんですが、

凡百のモノマネと一線を画すのは、対象の頭の中まで踏み込んでるってこと。

昔、タモリと団しん也が寺山修司や野坂昭如や岡本太郎などの文化人に扮し、

丁々発止の対談をやったのを見たことがあります。

口調はもちろん、いかにもその人達が言いそうなことを当意即妙に対話する、

まさに才人ならではの芸ですが、それに似てると思いました。

瀬戸内寂聴(ミッちゃんは瀬戸内さんが降りてくる、と言ってた)の源氏物語論あたりにその片鱗を見ましたが、

圧倒的なのは「作曲法」コーナー。

「小田和正作曲法」から始まり、吉田拓郎、Official髭男dismB’zの4つのパターンを、

ピアノの弾き語りで歌い分けてみせる。

それぞれの曲の癖や特徴を、

いかにも彼らの書きそうなフレーズとメロディ(少しずつズラしてある)で解き明かしているんです。

髭男は1、2曲しか聴いたことのない私でも頷けるし、

小田、拓郎、B’zに至っては激しく同意!と叫びたくなる分析力。

一応小田和正には許諾を求めたそうですが、

本人が、ああ、僕の曲ってそうだね、と納得したそうです(笑)。

冒頭のユーミソのスギヨCMソングといい、

「頭の中を似せる」という、もうカニカマというよりほぼカニの境地です。

清水ミチコ恐るべし、音楽的素養に裏付けられたその芸は、ある意味タモリを凌ぐかもしれません。

他に印象に残ったのは、朝ドラ『舞い上がれ!』の高畑淳子、

それからフォークソングの名曲『500マイル』の弾き語りモノマネメドレー。

一番を中島みゆき、二番を森山良子、三番をなんと忌野清志郎のマネで歌いましたが、

清志郎のところで思わずグッときました。

清志郎さんをやるとなんだかしんみりしますねと本人も言ってました。

一番似てるのはやっぱり「相棒」と呼ぶ森山良子ですが(笑)。

十年ほど前に一度清水ミチコのリサイタル(古風な言い方!)を見たことがありますが、

技術も内容も一段と奥行きを増したと思います。

まあ、小難しいことを考えずとも、

ただただ笑って楽しめます(やたら拍手を要求されて、久々に手のひらが痛くなりましたが)。

もうカニじゃなくていい、カニカマがいい、

と思える二時間強のパフォーマンスでした。機会があったら是非!

 

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