スタッフN村による着物コラム
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前回お伝えした岡山旅行の続きです。
帰路、姫路で途中下車して、世界遺産の姫路城を訪れました。
駅のホームからすでに白亜の美しい城が望めて、駅前通りをまっすぐ歩くとずんずんお城が近づいてくる。
駅のホームから見えて、歩いていけるお城って、他にあったかな、福山城くらいかな?
姫路城はもちろん素晴らしかったんですが、姫路でもうひとつ、私的には意外な発見をしました。
テレビCMでもおなじみの子供服チェーンの西松屋、本店は姫路の大きな呉服屋さんなんですね。
駅前通りの大きなビルで、見たところ確かに呉服屋さんなんですが、ビルの横に見慣れた西松屋のウサギのマーク。
調べてみたら明治時代創業の老舗呉服屋さんで、産着や七五三の衣装から、子供服販売に展開していったようです。
今回ゲットした旅トリビアのひとつです。関西圏の人には今さらなことかもしれませんけどね(笑)。
111.改築後の初歌舞伎座
G.W.も過ぎたのにまだ二月の話で恐縮です。
当コラムでもおなじみの着物仲間・Tさんから歌舞伎のお誘いがありました。
片岡仁左衛門一世一代の『霊験亀山鉾』、桟敷席が取れたのに、連れが行けなくなったので、私にどうかとのお誘い。
改築してからの歌舞伎座はまだ行ったことがないし、
仁左衛門だし、何と言っても桟敷に座ったことないし、二つ返事でOKです。
その上、我が家の野菜で幕の内弁当を作ってきてくれたらチケ代はおごりだというので、
張り切って朝から作りましたよ。
筑前煮、ネギとしらすの卵焼き、大根餅、ポテトサラダ、ゆず大根、
ヤーコンのきんぴらにしらすゆかりごはんの7品をお重に詰めて。
米と卵と鶏肉としらす以外はほぼ自家栽培なので、材料費はタダみたいなものです(笑)。
着物は久々の歌舞伎座なので、ちょっと頑張って柔らかものの小紋にしました。
変わり縮緬地に白ぼかしと銀糸で桜の花びらの刺繍入り。
ちょっと気が早いけど、よーく見ないと桜とはわからないからまあいいや。
帯は袋帯地で作った二部式名古屋、一張羅の羽織を着て出来上がり。
歌舞伎座は新開場十周年なんだそうで、ってことは私はもう十年以上足が遠のいていたことになります。
その間歌舞伎を見なかったわけじゃないんですが、もっぱら料金のお安い国立劇場専門です。
仁左衛門を最後にナマで観たのも2017年の国立での亀山鉾だから、それ以来、かれこれ6年ぶりであります。
話には聞いていましたが、東銀座の駅に降りてまずびっくり。駅から直に歌舞伎座の地下に入れるんですね。
地下には歌舞伎グッズや和装小物、土産物屋にセブンイレブンも。舞台写真売り場もあります。
観劇前ですが、二度も観た芝居なので、各場面はわかっています。
仁左衛門のかっこいい写真を二枚買って、タリーズコーヒーで一服。
エスカレーターで地上に上がると、懐かしい劇場前の人混み風景。ちょうどT
さんもタクシーで乗り付けたので合流し、いざ桟敷席へ。
見渡したところ客席の印象は、改築前とそんなに変わりませんが、幾分ゆったりめになったでしょうか。
開演前に我々もお弁当を広げようとしたところ、案内係のお姉さんが紙袋の中の缶ビールを目ざとく発見。
「申し訳ございません、アルコールのお持込はちょっと…」なるほど、
客席での飲食は解禁でも、アルコールはまだダメなのか、残念。
しかしまあそこは蛇の道は蛇、とばかりにTさんがペットボトルに入った透明な液体を取り出します。
いや、水だよ、水ですとも(笑)。
歌舞伎座の桟敷席で手製弁当って、贅沢なのかビンボ臭いのかわからないと言ったら、
何いってんの、最高の贅沢よとお褒めの言葉。グッジョブ、自分。
『霊験亀山鉾』は吉右衛門が国立劇場で復活狂言として上演した後、
仁左衛門が国立で二度、大阪松竹座で一度上演したきりの狂言です。
歌舞伎座では初演なのにいきなり一世一代かい、
そもそもそんな大げさに銘打つほどの芝居かなあ、とちょっと首をひねりました。
仁左衛門が演じるのは藤田水右衛門という侍と、それに瓜二つという設定の、古手屋八郎兵衛という町人。
この水右衛門と言う男がとにかく卑劣で残忍無比な悪党。
石井右内を闇討ちにして、神影流の秘伝書「鵜丸の一巻」を奪うと、
兄の仇討に挑む弟の石井兵介を毒殺。兵介は若党の金六へ、
右内の養子・源之丞に仇討ちと秘伝書の奪還、石井家再興の願いを託してこと切れる。
源之丞は香具屋に身をやつし、水右衛門と昵懇の揚屋・丹波屋に入り込み、機会を窺う。
芸者おつまの献身により、仇を探り当てた源之丞だが、またしても水右衛門の奸計にはまり、金六とともに命を落とす。
どうです、ひどいでしょ(笑)。見た目は仁木弾正と民谷伊右衛門を足して2で割ったような白塗りの色悪風なんだけど、
弾正のカリスマ性も伊右衛門のニヒルさもなく、ただただ卑怯な人殺し。
また石井家の人達も次々とやられっぱなしで芸がない。
源之丞は中村芝翫。これがまた、故郷に隠し妻と二人の子がありながら、
探索に潜入した色街の芸者おつまとデキてしまい、妊娠までさせている。
この芝翫の芝居が軽くて、仇持ちの切実さが感じられない。
その上風邪でも引いてるのか、声が割れてセリフが聞き取りにくい。
声といえば仁左衛門もかつての朗々とした美声が影を潜め、なんだかハリがない。
お年もお年だから仕方ないのかな。
まあ二人とも、年甲斐もないおイタで週刊誌を賑わしてますが、
私生活が舞台の上まで影響の出ないように、しっかりしていただきたい。
それに較べて、女形陣は実に充実。まず、芸者おつまの中村雀右衛門。
雀右衛門と言うと先代のほうが馴染みがある私はすでにオールドファンですか(笑)。
ちょっとベタッとした印象の先代よりも清潔感があって、
源之丞に尽くして挙げ句は水右衛門に惨殺される、健気で哀れな女を好演。
おつまと源之丞を争い、その実水右衛門一派の悪女・丹波屋おりきは上村吉弥。
松嶋屋の弟子筋で、貴重な脇役でしたが、いまや立派な悪婆役者。
松嶋屋随一の女形・片岡秀太郎亡き後、特に上方歌舞伎ではもうなくてはならない存在です。
クールな美貌は悪役だといっそうハマります。
源之丞の隠し妻・お松は片岡孝太郎。正式な嫁とは認められず、
夫は留守がち、子供は難病という状況の中、機織りをしながら夫を待つ気丈な賢妻。
雀右衛門ほど華やかさはないけど、こういう地味めな役がよく似合う。
結局このお松が息子の源次郎と共に水右衛門を討ち果たすので儲け役ではあります。
ストーリーは当コラム66で、前回2017年の国立劇場版に細かく書いています。
今読み返したら、私、この時すでに歌舞伎卒業宣言してたんですね(笑)。
当時はちょっと負け惜しみ的な気持ちもあったような気がします。
しかし今回改めて、うん、歌舞伎はいい時にいいものをたくさん見せてもらったな、もう十分だな、と思いました。
何年かおきに観ると、役者の成長ぶりや衰退ぶりがはっきりわかって、それはそれで興味深くはあります。
今回見たかったのは、芝居というより劇場そのものだったので、目的は果たしました。
次に観たいと思うのは誰のどんな芝居か、楽しみに待とうと思います。
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