スタッフN村による着物コラム

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岡山へ旅行に行ってきました。昨年の福井に続く「行ったことない県に行ってみようツアー」第二弾です。

厳密に言うと倉敷には行ったことがあるのですが、その時も岡山市はスルーしていたので(笑)。

岡山駅前にホテルを取って、初日は岡山市観光、

二日目は倉敷と、ジーンズの聖地・児島をめぐり、三日目は帰りがけに姫路城見学。

いや、岡山って便利ですね。新幹線のぞみで東京からは三時間ちょっと、

そこを拠点に四国や山陰にも行けるし、倉敷は在来線で20分くらい。

新装なった岡山城は、大きな川のほとりに建ち、歴史家の磯田道史氏が監修した展示が楽しく、

火縄銃を構えたり、駕籠に乗ったり軍馬に跨ったりの体験も。

そしてなんといっても人混みと無縁(笑)。さすがに倉敷は修学旅行生でごった返してましたが、

岡山城公園と隣接する後楽園は気持ちいいほど空いてます。

偶然見つけた居酒屋も大満足の味とホスピタリティ。

チンチン電車の走る数少ない都市でもあります。

朝ドラ『カムカムエブリバディ』の痕跡すらないのもいっそすがすがしい。岡山、いいよ!

 

110.二月の落語会二つ

二月は近くの会場で二回落語会の機会に恵まれました。一つめは青梅の市民センターで行われた都民寄席。

市の広報で抽選の募集があって、毎回応募するんですが当たったためしがない。

たまたま応募した姉の方に当選通知が来たのはビギナーズラックでしょうか。

顔付けは先般十代目を襲名したばかりの入船亭扇橋、三笑亭夢丸、柳亭市馬。

先代の扇橋は青梅の出身なので、当地ゆかりの噺家です。

会場は、ご多分に漏れず企業名の愛称・ネッツたまぐーセンター(変な名前w)ですが、

正式には青梅市文化交流センターというらしい。

市民会館が老朽化したため、解体跡地に新しく建てたもので、ホールは低い舞台に平場でパイプ椅子。

敷地が狭く、市民会館としては再建できなかったとはいえ、

いまだに代替地に市民会館が建つという話は聞こえてきません。

隣のあきる野市や飯能市は立派なホールを持ち、

大看板の落語会がしばしば行われているというのに何やってんだ。

決して貧乏な自治体ではないはずなんですが、

まったく文化果つるところだと、市民として情けない思いです。

ま、東京都のご招待で無料で見られるんですから文句ばかり言ってもバチが当たりますね。

一番手は若き扇橋。やはり先代の思い出話から入ります。

ここでも何度か触れたかと思いますが、先代の出身は青梅の中でもさらに私の住む旧成木村。

叔母の同級生で私の同級生の叔父さんでもある、最大の地元有名人(笑)。

当代は先代の孫弟子に当たる(先代の弟子・扇辰の弟子)んだそうです。

先代のお墓がその成木地区の古刹・安楽寺にあるというのは初めて知りました。

一門でお墓参りに来たそうですが、予想通りそのド田舎ぶりをイジってきます。

「今日おいでのお客さんはご存知だと思いますが」と言うので

(いや、青梅市民でもみんなが知ってるところじゃないぞ)と心でツッコミ。

「JR青梅線と、西武池袋線の飯能駅のちょうど中間くらいで、どちらからも遠い!」

(うんうん、そうそう)と心でうなずく。

落語会で自分の地元がネタになるなんてことは空前絶後なので、おかしいやらくすぐったいやら。

それもまた先代の遺徳ということで、噺の方は『道具や』。

三十路になってもぼんやりした与太郎の先行きを案じた伯父さんが、露天の道具屋を始めさせる。

客と与太郎のトンチンカンなやり取りがおかしいおなじみの噺。

与太郎が可愛らしく、きちんとした芸です。頑張れ十代目。

次は三笑亭夢丸。テレビのリポーターでお馴染みだった先代(亡くなったんですね)の弟子の二代目だそうです。

なんだかがちゃがちゃと騒がしく、騒がしいのに寝落ちしてしまうという不思議な体験をしました(笑)。

中入りあって、解説として落語評論家の矢野誠一さんが舞台に上がりましたが、これはいただけない。

聞き取りにくくダラダラ長い。

矢野さんの本にはずいぶんお世話になってますが、ご自分でお話されるのは、失礼ながらいかがなものかと。

お話は先代扇橋が主催していた俳句会についてで、なかなか興味深くはあったんですがね。

気を取り直して膝代わりの太神楽。丸一小助・小時というコンビは初見ですが、オーソドックスな茶碗や傘の曲芸。

テレビじゃ海老一染之助・染太郎のようににぎやかでないともたないかもしれないけど、

ライブならひとつひとつの動作に歓声と拍手が沸き起こります。

若手の誠実な太神楽もいいもんですね。

さて、トリは落語協会会長の柳亭市馬。美声で歌上手で、歌だけのCDも出しています。

何年か前、青梅商店街のイベントに歌手として来たこともあり、飛んでいってかぶりつきで聴かせてもらいました。

今回はもちろん本業の落語。

ネタは『宿屋の仇討』。客引きで賑やかな神奈川宿の旅籠に、年の頃三十二、三の侍が訪れ、静かな部屋を頼むという。

前夜の小田原宿で、周りがうるさくて眠れなかったという侍は、宿の若い者、伊八の案内で投宿する。

その後にやってきたのがにぎやかな江戸っ子三人連れ。

魚河岸者とあって大声で騒ぎながら侍の隣の部屋へ入り、酒と肴と芸者を注文。

さっそく始まるどんちゃん騒ぎにたまらず、侍は伊八を呼びつけ、静かな部屋をと申したはず、とおかんむり。

しかしすでに満室で部屋は替われない。

こわごわ静かにしてくれと伊八が頼みに行くと、威勢よく凄まれるが、

隣は侍だと告げるとすごすごおとなしくなり、三人は布団に潜り込む。

しかし今度は相撲の話で盛り上がり、相撲甚句は歌い出す(ここが市馬の聴きどころw)、

しまいにゃ布団の上でどったんばったん相撲を取り始める。

侍がまた伊八を呼び、静かな部屋をと申したはず、昨夜小田原の宿では…と抗議を繰り返す。

伊八がまた頼みに行くといったんはおとなしくなる三人。

すると今度は、色ごと自慢が始まる。

源八という男が、三年前脚気の養生で川越に行き、親戚の小間物屋を手伝っていた時のこと。

石坂という侍の御新造とわりない仲になり、当主の留守に上がりこんだところに、

弟の大介が刀を抜いて追ってきたので返り討ちにすると、

御新造が五十両差し出して一緒に逃げてくれと言うので、

足手まといとばかりにこれも刺し殺し、五十両奪って逃げたがこの三年捕まらないと言う。

あとの二人は大喜びで「げーんちゃんは色事師♪」と手を叩いて囃し立てる。

再び侍が伊八を呼びつけると、今度はいささか様子が違う。

実は自分は川越藩の石坂段右衛門、三年前に妻と弟を殺され、

その仇を探していたが、今日ここでその仇に巡り合った。

三人を縛り付けておけ、明日宿はずれにて成敗いたす、

逃せば宿の者も同罪として全員の血煙を覚悟せよ、と言う。

震え上がった伊八は、さっきの話は人から聞いた話で、

俺たちは何もしていないと訴える三人を縛り上げ、宿じゅうの者が夜っぴて見張り番。

翌朝、気持ちよく目覚めた侍に、伊八が三人を引きあわせ、

真ん中にいるのが仇の源兵衛ですと言うと、ああ、あれは座興じゃ、と笑う。

「あれぐらい申しておかんとな、拙者が夜っぴて寝られない」がサゲ。

市馬は体格もよく、先代小さんの剣道の相手として入門したというくらいですから、侍言葉もよく似合います。

もちろん相撲甚句には盛大な拍手。特別イマドキ風なくすぐりもギャグもないけれど、

古典落語をきちっと語って大いに楽しませてくれる。

いわゆる本寸法、ってやつですか。落語協会会長の肩書は伊達じゃない。

帰りの車の中で、市馬は初見の姉が、

「市馬さんって公明党の山口代表に似てない?」と言い出したのには思わず我が意を得たり!と手を打ちました。

山口代表が角刈りにして着物着たら市馬だよなあと前から思ってたんですが、

落語仲間の賛同は得られなかったのに、こんなところに賛同者がいたとは!

顔や体付きが似てると声も似るそうですが、声も口跡も似てるよねとうなずき合いました。

機会があったら較べてみてください。

 

二回目はお隣の入間市産業文化センターで行われたいるま二八落語会、桃月庵白酒・三遊亭兼好二人会です。

入間市にも市民会館とこの産業文化センターがあって、

定期的に落語会が開かれている模様。まったく青梅市ときたら…以下略(笑)。

我が家で着付けや手芸を教えあっている友人と一緒で、今回はそれぞれの連れ合いもお出まし。

そのうちの一人は今やカミさん以上に着物に興味津々で、この日が着物お出かけデビューとなりました。

どうです、なかなかサマになってますよね。

悪目立ちしないように、私も着物でお付き合いしました。

まるでこっちが夫婦みたいだとからかわれ、友人には申し訳ないような妙な気分。

ちなみに写真ではわかりませんが、私の帯留めは、

国技館で買った相撲協会公式キャラのひよの山ピンバッジです(笑)。

さて落語会は、中堅実力派の白酒・兼好に江戸家小猫というなかなかの豪華(?)顔付け。

落語初心者の友人たちにはこれは見なきゃ損だと吹きまくりました。

427ある客席は満席とはいきませんが、笑点メンバーもいない地方の落語会ならまずまずの入りと言えるでしょう。

席は中央4列目とベストに近い距離。

開口一番は林家三平の弟子だというたたみ。

師匠の名前を聞いた瞬間の予感は当たり、まあこんなもんかという出来でした。

続いて三遊亭兼好。東京郊外のホールではお約束の、開催地の微妙な都心からの距離感イジり。

西武池袋線の特急ラビューに乗って来たそうな。

車体も黄色で座席も黄色、窓が床のすぐ上から天井近くまでのガラス張りで、

車窓の風景を楽しめるのが売りなのに、入間市駅までは非常に退屈な風景。

私もつい最近乗ったばかりなので、爆笑とともに激しく同意。噺のほうは『短命』です。

伊勢屋の入婿が次々と早死にしてこれで三人目の葬式だという八っつぁん、

何でこうなるのかとご隠居に尋ねると、家付き娘がいい女すぎるからだという。

「奥でふたりきり、ご飯をよそって渡すと手と手が触れる、

顔を見るとふるいつきたくなるようないい女…なあ、短命だろう?」

いくら聞いてもピンとこない八っつぁんと、「なあ、短命だろう?」とねっとり繰り返すご隠居。

兼好の器用な顔芸と派手なアクションで、客席は爆笑の渦。

ようやくその意味を理解した八っつぁん、家に帰り、我が女房にご飯をよそって手渡してくれと頼み込む。

何事かと呆れる女房だがだんだんノッてくる。

「なーに、なんのイベント?あたしもなんだか楽しくなって来ちゃった」と、

一緒にノッてくる女房が兼好独特で、実に可愛らしい。

「茶碗を渡す、手と手が触れる、顔を見ると………ああ、俺は長命だ」でサゲ。

色んな人でこの『短命』は聴いてますが、涙が出るほど笑ったのはこれが初めてです。

この顔芸とスピード感は病みつきになりそう。

中入りあって色物は江戸家小猫の動物ものまね。

子猫は近々五代目江戸家猫八を襲名することを発表したばかり。

江戸家猫八というと私なんかは彼の祖父・先々代の三代目を思い浮かべてしまいます

(お父さんの四代目はそれこそ短命だったので)。

古典芸能ファンは「先代はね」という話ができて一人前だとか言いますが、

先々代の話が出てくるようではもはや年寄りの繰り言かと我ながら苦笑。

品のいい江戸前の芸だった三代目、ちょっとスタイリッシュな四代目とも違い、

もうすぐ五代目はなんともトボけた風貌と語り口です。

江戸家伝統の鶯は小手調べ。

普通聞いたこともないような動物の鳴き声(カバとかアルパカとかフクロテナガザルとか)を聴かせ、笑わせます。

動物園で一日じゅう観察したり、果てはアフリカのサバンナまで出向いて、

生の声を採集するんだそうで、研究はおさおさ怠りないようです。

襲名披露公演の宣伝もちゃっかりしてましたが、行ってみたくなる面白さ。立派な五代目が誕生しそうです。

トリは桃月庵白酒。

中堅どころでは声も口跡も噺のキレもトップクラスだとかねがね思っていて、

友人たちにも吹聴したんですが、あれ?なんか違うぞ。

声にハリがないし、マクラも冗長で面白くない。

ネタは私は初見の『佐々木政談』で、さっきの『短命』に比べて圧倒的に不利。

南町奉行の佐々木信濃守がお忍びの市中視察中に子供たちのお白州ごっこに出くわす。

そこで佐々木奉行役の四郎吉が実に頓智の効いたお裁きをする。

感心した奉行は四郎吉を奉行所に呼び、あれこれ問答をするとことごとく論破。

その頓智頓才を賞され、四郎吉は奉行の家来に取り立てられる…

という噺で、四郎吉は小生意気で可愛くないし、セリフは噛むし、なんか思ってたのと全然違う出来にがっかり。

友人たちはもう兼好と小猫に夢中で、白酒は眼中にない様子。

こんなはずじゃないと、落語仲間にメールで最近の白酒どうよと問い合わせたほど。

すると「たまたま調子悪かったんじゃない?」との返事。

そうか、そうだよな。とにかく今回は兼好が一人で場を攫っちまったの一言に尽きます。

これから兼好の出演を軸に落語会をセレクトしていくことになりそう。

とりあえず喬太郎、歌武蔵との「落語教育委員会」を追っかけようっと。

 

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