スタッフN村による着物コラム

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2023年最初のコラムですが、レポートの内容は昨年11月ですみません。どうぞ今年もよろしくお願いいたします。

11月といえば昨年コロナ第7波がペースダウンした間隙を縫って、福井・金沢北陸旅行に行ってきました。

天気も気候も良好で、久しぶりの旅気分を満喫。

福井県に足を踏み入れたのは初めてですが、とてもいいところでした。

写真は永平寺と東尋坊です。

 

水が豊かで農地も広くて、海も豊かで、なんといってもお酒が美味しい。今のところ私的日本酒ランキング一位です(笑)。

金沢もまた、京都とは違う武家の文化が息づき、独特の華やぎがありました。

好天に恵まれ、水面に映る逆さ兼六園が見事でしょ(笑)

京都から来たという女性の三人連れとバス停で会話しましたが、京都は旅行支援でごった返し、金沢に避難してきたとのこと。

なんだかお気の毒です。

旅行支援の割引もクーポンもがっつり使い倒して、春になったら今度は岡山旅行を計画中。

京都はスルーするつもりです(笑)。

 

108.「円楽師匠ありがとう! 特選たちかわ寄席」

いささか旧聞に属しますが、昨年11月、いつものたましんRISURUホールで行われた「特選たちかわ寄席」に出かけました。

この会のチケットが発売された時点では、柳家花緑・柳家喬太郎二人会に三遊亭円楽がゲスト出演、という告知でした。

そのチラシがこちら。

しかし、円楽師匠が急逝され、会は円楽師匠追悼の色合いとなり、ゲストは立川志らくに。

「円楽師匠ありがとう!」 の言葉を冠して開催されました。

円楽一門は立川流と同じく落語協会・落語芸術協会に属さず、独自の展開をしているため、

私はあまりご縁がなく、円楽師匠も笑点やプレバトで見るばかり。

笑点での腹黒キャラや、林家たい平とのやり取りを楽しく拝見していました。

落語家としては早世の72歳。ご冥福をお祈りします。

 

前座は一之輔の弟子の貫いちで『鷺とり』。前座噺としては珍しい。

私は上方落語で聞いたことがあります。

続いてゲストの立川志らく登場。

以前聴いたときは師匠・談志の話ばかりでちょっとげんなりしましたが、さすがにこの日は円楽のエピソード。

プレバト! の俳句バトルでも火花を散らしていたけれど、円楽師匠にはあんパンの恩がある、と語ります。

志らくはかねがね「笑点」に反発し、著書でもあんなものなくしてしまえ!と公言していたところ、

たまたま新幹線で笑点御一行と同乗することに。

笑点メンバーから無視され、針のむしろの思いでいたところ、円楽師匠がおいしいあんパンを皆に配り始め、

志らく、お前も食えよ、と渡してくれた、

その優しさが忘れられないと。

実際円楽師匠は気配りの人だったようで、落語界全体を考える、広い視野の持ち主だったそうです。

早世が惜しまれます。

噺の方は『親子酒』。大店の旦那と若旦那は親子揃って大酒飲み。

これではいかんと二人で禁酒を始めるが、若旦那が商用で外出すると、旦那はもうそわそわ。

女房を拝み倒し、一杯だけ、もう一杯だけとなんだかんだ理屈をつけてとうとうへべれけ。

このなんだかんだの理屈が演者の個性の見せ所。

志らくはテレビでおなじみの屁理屈で、一杯だけでは最初に飲んだ一杯が寂しがるとか、

この一杯の酒だって道端の石ころだって何かの役に立ってるんだ、

と、映画マニアの志らくならではのくすぐり。

後者はフェリーニの名作『道』の名セリフで、思わずニヤリ。わかるやつだけわかればいいって構えです。

やがて若旦那が帰宅、旦那は大慌てであたりを片付け、しらふのフリをするが、

若旦那も出先で酒を勧められ、べろんべろんの大酔っぱらい。

旦那がお前の顔が3つも4つもあるぞ、そんな化け物にこの家は譲れん、と怒ると、

若旦那もこんなぐるぐる回る家なんかいらない、というのがサゲ。

久しぶりに志らくの高座を見ましたが、いい意味で脂っけが抜けて楽しめました。

時々談志口調になるのはまあ、ご愛嬌かな(笑)。

 

続いては柳家喬太郎。この顔付けだと、

一番年下の花緑が真打ちになった順番は一番早い(香盤が上、といいます)ので、トリは花緑。

舞台上に講談の釈台のようなものが置かれて、何が始まるのかと思っていたら、

喬太郎がよっこらしょと座っていきなり謝罪。

膝を痛めて正座ができないらしい。かねて太り過ぎを心配していましたが、

あの体で座布団の上を飛んだり跳ねたりしてたら、そりゃあ膝も痛めるでしょう。

上方落語ではよく使われるこの台、膝隠しというらしいですが、しきりに恐縮する喬太郎。

江戸前を自認する以上、みっともないという意識があるようで。

この頃、北朝鮮がミサイルを頻繁に発射して、

東北や北海道にJアラートが発出されて大騒ぎになったことがありました。

喬太郎、あの日に帯広(旭川だったかな?)にいたんですと。

で、地下街や丈夫な建物に避難しろと言われてもご当地にはに地下街なんかない。

ホテルにいたけどミサイルに耐えられるようなビジネスホテルなんかあるわけない。

パンツ一丁の姿で瓦礫の中から遺体で発見されたらどうしようと、本気で心配したそうです。

あと、コロナ禍以降よくやる「濃厚接触ってこういうことでしょ」マクラはやったと思う。

2021年1月の当コラム93.で詳しく書いているので割愛しますが、非常に喬太郎らしい、くっだらない小咄です(笑)。

噺のほうは、あれ、聞いたことない噺だぞ。

身なりのいい侍が墓参の帰りに古道具屋へ立ち寄り、煙管をくゆらしながら掛け物を褒めている。

うーんと感心した拍子に火玉が袴の裾に落ちた。

「殿様、お袴に火玉が!」と慌てる主人に「大事ない、これはいささか普段の袴である」と鷹揚に答える。

これを見ていた八五郎、そのあまりのカッコよさに、自分もやってみようと借り物の袴で古道具屋へやってくる。

はい、おなじみ「鸚鵡返し」のパターン。

「子ほめ」や「青菜」みたいに、たいていとんちんかんなやり取りになって失敗するやつ。

そしてそのおっちょこちょいは八割方八五郎。

古道具屋の主人相手に、くだんの侍の口真似で掛け軸を褒め、自分の煙管をふかすが、ヤニがつまっていて火玉が出ない。

思い切り吹くと火玉がぽーんと飛び出して自分の頭に。「あなた頭に火玉が!」

「なに大事ない、こいつは普段の頭だ」がサゲ。

初めて聴いた噺だったので、帰ってから落語事典で調べたところ、

やはりあまり演る人がいなかったようで、先代小さんと先代正蔵くらいだったみたい。

喬太郎はこういう埋もれた噺を復刻するのが好きで、時々出くわすんですが、ちょっと当たり外れがあります。

これもまあ、ふうん、という感じでした。

とにかく養生して、膝隠しを使わずに高座に上がってほしいです。

再びコロッケそばに乗せられたコロッケの気持ちを演じられるように(笑)。 

 

トリは花緑。祖父の先代柳家小さんが落語協会の会長の時、真打ち昇進を巡って三遊亭円生と対立し、

結果的に円生一門の脱退となったいきさつがあり、

後に円生の弟子の五代目円楽、そして六代目円楽が率いた一門とはやはり距離がありそう。

特筆するようなエピソードはなかった模様。

噺はおっと大ネタの『文七元結』。

花緑ももう五十を過ぎて、若手という年齢ではなくなりましたが、見た目が若いせいか、私的にはまだ若僧認識。

こういう大ネタをかまされると、ついついアラ探しをしてしまいます。うーん、長兵衛も佐野鎚の女将もなんだか軽いなあ。

『文七元結』は、当コラム63.で詳しくレポした、20179月の立川談春の高座が私にとっては今んとこベストなので、どうしても較べてしまいます。

詳しいストーリーはそちらに書いたのでこれも割愛しますが、

博打で身を滅ぼしかけた男と、それを諭す人生経験豊かな妓楼の女将のリアルが足りない。

そして本来育ちも行儀もいい花緑が、喬太郎や昇太のような現代風の人物描写を混ぜてくるのが、これまたこなれてなくて居心地が悪い。

洋服と椅子で落語を演じてみたり、他ジャンルとのコラボなど、新しい取り組みも色々しているようですが、なんだか中途半端な気がしてならない。

若くして真打ちになり、師匠も祖父だからとうに亡くなって、歌舞伎で言えば團十郎を襲名した海老蔵みたいな迷えるエリートの匂いがします。

もっとサラブレッドとしてどっしり構えて、古今亭志ん朝のような存在を目指すのもいいんじゃないかなと、老婆の老婆心(笑)。

ガンバレ花緑。あれ、前回もガンバレ菊之助、って言ったかな。エラソーにどうもすいません(笑)。

 

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