スタッフN村による着物コラム
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私の部屋の下にある土手は、夏になると雑草が猛威を振るい、いつも知り合いに刈ってもらっていましたが、
去年思い切って蓄電池式の草刈り機を購入。
自分でやることにしたのですが、暑いしめんどくさいしで放置していたら、人の背丈ほどに伸びてしまいました。
どうせ冬には枯れるんだからと更に放置を続けたら、
秋の声を聴いて、一斉に花が咲き、一面お花畑になりました。
石垣を這い登ってきた蔓草は、真っ白なレースのような花をつけています。
ググってみたら、仙人草というんだそう。ほのかに甘い香りもします。
手入れの悪い庭や山にはびこる草で、あまり威張れたものではありませんが、
きれいだからいいじゃんと開き直っています(笑)。
毎年種がこぼれて咲いてくれるオシロイバナや、どこから種が飛んできたのか、
野生の萩も咲きました。
まだまだ暑い日もありますが、季節は確実に先へ、先へと進んでいるようです。
105.春風亭一之輔のドッサりまわるぜ2022 in 立川
例年夏から秋にかけて全国を回る一之輔のドッサりツアー、今年も立川にやって来ました。
もう10年目だそうです(私は3回目ですがw)。
新型コロナ第6波がなんとなく落ち着いて、晏の展示会もなんとかやれたし、
8月は余裕だろうと思っていたらあれよあれよの第7波。
4回目のワクチンもオミクロン株の予防効果があるんだかないんだか、
まあ、御札代わりに接種して、おっかなびっくり出かけましたよ8月14日。
世間様はお盆期間の真っ最中のようですが、私の住む地域では新暦なので、
7月にお墓参りも施餓鬼供養も終わっていて、お盆休み?ナニソレって感覚。
久々の立川の街はソレナリに賑わっていますが、猛暑の中マスクを外してる人は見かけません。
そういえば青梅線に、横田基地の米兵らしき人々がにぎやかに乗ってきたけど、
きっちり不織布マスクをつけていました。
郷に入らば郷に従ってくれています。
欧米人がマスク着けないというのは偏見だな、と思いましたよ。
会場はおなじみたましんRISURUホール。
今回はディスタンス市松席ではなく、フルで発売しているので、さすがに満員御礼ではありません。
大相撲の名古屋場所も、空席が目立っていたし、まだまださあ全面開放!
という人は、テレビの報道ほどは多くないようです。
暑い中、爽やかに着物を着こなしている人もちらほらいますが、
私は今回単独行動なのでパス。今年も夏着物の出番はないなあ…。
いつものようにTシャツに短パンのラフスタイルで一之輔登場、
ハンドマイクで舞台を歩き回りながらのフリートークです。
今回は、弟弟子の春風亭一蔵が来月真打ち襲名披露ということで、ほぼ一蔵の話。
グッズ売り場で披露興行のチケットを手売りしているが、今の所8枚(笑)。
今日の入りは800人だから10人に1人しか買っていない。
(このホールのキャパは1200人だから、空席が多いのもここで納得)
師匠に一蔵が入門してきた時、ピアスしてヴィトンのセカンドバッグ小脇に抱えてたとか、
打ち上げでの仕切りぶりとか、エピソードがどうもヤンキー臭い。
このあと一蔵自身が高座に上がって襲名披露のプロモーションやりますから、
中入りの休憩時間にぜひチケット買ってやってくださいと、
一之輔流に弟弟子思いなところを見せて選手交代。
いつもの会ならここで前座の開口一番が、予告通りまもなく真打ちの一蔵。
プレッシャーかかりますよねーと始めた演目は、お、『短命』か。
伊勢屋の婿養子が次々と亡くなり、ついに三人目も。
不思議がる八つぁんに、隠居は婿取りの娘がいい女すぎるから短命なんだと噛み砕いて説明してやる。
ようやく納得して家に帰った八つぁん、無理やり給仕をさせた女房の顔を見て、
ああ、俺は長命だ、というアレです。
隠居に対する八つぁんのセリフが早口すぎて聞き取れないし、声はやたらとデカい。
この一門はみな声がデカいのか?
師匠の一朝は時代劇の江戸弁指南も勤める江戸マイスターだけど、
こんなに早口じゃないし、むしろ小声な方なんだけどなあ。
一蔵のプロモーション(?)高座が終わると一之輔登場。
夫婦でオミクロン株陽性が出たので、子供たちとは家庭内隔離をして、
食事は高校生の長男が作ってくれたんだそうな。
最初はまともなものを作ってくれたのだが、だんだんぞんざいになって、
適当な水加減のご飯に出汁をとってない味噌汁をドアの外に置き、
メシだぞ、さっさと食え!と言われたとぼやくのだが、
今どきご飯と味噌汁を作ってくれる息子なんて、なんていい子なんだと私は思うなあ。
まあ、枕なんて盛ってるのが当たり前で、このまずいご飯話は本編の前フリなんでしょう。
演目が『鰻の幇間』だったもんで。
炎天下、いい客を見つけて飯にありつこうとうろつく幇間の一八、
見覚えはあるが名前も住まいも知らない浴衣姿の男をつかまえて、鰻屋の二階に供をする。
お世辞たらたら、香の物をつまみに酒の酌をするが、男は厠に立ったまま戻ってこない。
女中に聞くと先に帰ったという。
きっと代済で、芸人を喜ばせる粋な計らいだろうと独り合点の一八だが、
運ばれてきた鰻はゴムタイヤのように硬く、タレはしょっぱいばかりのひどい代物。
よく見れば店は畳は毛羽立ち、ちゃぶ台はホコリだらけ、
女中はしわくちゃの婆さんで、一八のボヤキは止まらない。
帰ろうとすると、お代は二階の羽織を着た旦那が払うと聞いている、と女中に言われ、
男が持って帰った三人前の土産のぶんまで払う羽目になる。
泣く泣く帰ろうとすると下駄が出ていない。
おろしたての柾目の下駄だ、と怒る一八に「あれはお供の方が履いて帰られました」
普通はこれがサゲなんだけれど、一之輔はここで終わらず、
泣く泣く帰宅した一八の家の戸口に、あのマズい鰻が三人前置いてある、というサゲ。
なんかシュールですよね。このサゲだと、男の意図が違ってくる。
芸人を騙して下駄と鰻をせしめたのなら、悪賢いやつがいるもんだ、で終わるけど、
噛み切れないほど硬くてマズい鰻が三人前置いてあるとなると、これはもう徹底した意地悪。
またそのマズさをこれでもかとばかりに描写してあるし(笑)。
この噺は結構いろんな人で聴いてるけど、このサゲは初めてだな。
ちなみに私のベストは早世した柳家喜多八。一八のボヤきっぷりが最高におかしかった。
一之輔は威勢がいいので、ボヤいてるというより怒って当たり散らしてるように見えました。
まあ、そこは芸風の違いなんだけど。
中入りあって、一之輔の二席目。
さきほどのプロモーションの甲斐あってか、一蔵のチケットは中入り中に10枚売れたそうな(笑)。
噺の方は『らくだ』、なかなかの大ネタです。私は生で聴くのは初めてかも。
酒乱で乱暴者で長屋じゅうの嫌われ者、あだ名をらくだと言う男が、フグの毒に当たって死んだ。
発見したのは訪ねてきた兄貴分の丁の目の半次。
半次は通りかかった気の弱い屑屋を捕まえて、らくだの葬式を出すから、
月番のところへ行って、長屋の皆から香典を集めて来いと言う。
商売道具の笊と秤を取り上げられた屑屋が泣く泣く言うとおりにすると、次は大家のところから酒や煮しめを出させろと言う。
嫌だと言うなららくだの死骸を持ち込んでカンカンノウを踊らせると脅す半次、
店賃も払わなかったらくだの葬式などとんでもないと大家が拒否すると、
屑屋に死骸を背負わせて乗り込み、本当にカンカンノウを踊らせる。震え上がった大家は酒と煮しめを差し出す。
さらに半次は八百屋を脅し、漬物樽をせしめて棺桶にすると、屑屋と二人で酒盛りを始める。
仕事があるからと固辞する屑屋に、半次は無理やり飲ませる。
もともと嫌いな方じゃない屑屋、飲むほどに威勢がよくなり、次第に半次を圧倒するほどの大トラと化す。
半次がもう酒がないと言うと屑屋は、酒屋に行ってもらってこい、つべこべ言うなら死骸にカンカンノウを踊らせるぞ!がサゲ。
上方落語の元ネタは『らくだの葬礼』といって、このあと遺体を詰め込んだ樽を二人で焼き場へ担いでいき、また一騒動あるのですが、
やや冗長のきらいもあり、サゲもイマイチなので、東京ではここでサゲるのが普通なようです。
こういうちょっとガラの悪い人物や、凄みをきかせる噺は一之輔の真骨頂ですね。
声はデカいし、眼光は鋭いし、スキンヘッドだし(笑)。
同じ屑屋が右往左往する『井戸の茶碗』は意地っ張りな善人ばかり出てくる噺で、一之輔は『井戸の茶碗』は好きじゃないとどこかで言ってました。
確かに一之輔には『らくだ』のほうが似合ってると思います。
でもこの人の切れ味の鋭さが私にはちょっとtoo muchで、やっぱり年に一回くらいでいいや。
って実は3月に秋川キララホールでも聴いていて、今年二回目(笑)。
田舎のホールにもちゃんと来てくれる、とてもありがたい噺家さんなんですけどね。