スタッフN村による着物コラム
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11月の初め、鎌倉文学館で、澁澤龍彦の『高丘親王航海記』展があるというので出かけました。
近藤ようこさんの原画展示もあります。
近藤さんによる『高丘親王航海記』の漫画化は大きな話題を呼びました。
会場では小説と漫画の原稿の同箇所がセットで展示され、興味深いものでした。
会期は12月23日までなので、関心のある方はぜひお出かけください。
鎌倉文学館は旧前田侯爵家の別邸だそうで、重厚で趣のある建築。
よくドラマの撮影にも使われるそうで、どこかで見たことのある絵面です。
小町通りのショップで、久留米絣のバッグを発見。
paypay払いなら20%オフとのことで迷わずゲット。ちょっと大きめで使い勝手が良さそうです。
鎌倉は大河ドラマで盛り上がっているようで、鶴岡八幡宮や鎌倉大仏は修学旅行の中高生で溢れかえっていました。
ちょっとだけ、コロナ禍のことを忘れそうになりましたが、全員がマスクをつけているのはやっぱりコロナ前とは違う風景ですね。
107.国立劇場は今日も雨
9月、10月と三宅坂の国立劇場に三回出かけましたが、なぜか三回とも雨。
おかげで単衣のお召も塩沢も出番なしと相成りました。
一回目は前回の文楽公演、二回目は、ここでもよく登場するTさんの、
会社の先輩(男性)が長唄の会に出るというので、ご招待頂きました。
T さんも国立小劇場で日本舞踊の舞台に立ったことがあるのですが、こちらは大劇場。
しかもソロの長唄ですから声が通るのか、ハラハラドキドキです。
予報が雨だったので、パールトーン加工した紬の単衣を準備したんですが、
当日は土砂降りで、とても着物で出かける気になれず断念。
この会は、その方の師匠の七代目杵屋和吉襲名披露公演で、
ゲストは京舞の井上八千代、歌舞伎の中村壱太郎、狂言の野村萬斎という豪華版。
午前11時から夜9時頃まで、御一門のお弟子さんや豪華ゲストがずらり居並ぶ中に、
長唄歴二年の先輩も堂々晴れ舞台というわけです。
客席は各出演者の関係者が出たり入ったりの自由席。
プログラムを見るといろんな流派の社中や、赤坂芸者さんと思しき名前も見られます。
いやあ、ほんっっっっっとに着物着て行かなくてよかったです。
出演者はもとより、客席の皆様もきっちり格調高い訪問着に袋帯。外は土砂降りなのに。
しかも9月ですから単衣に絽。失礼ながら皆様、単衣の訪問着と絽の袋帯をお持ちですか?
もちろん私は持ってません。
日本舞踊習ってるTさんもたぶん持ってないでしょう。
じっさい、着物着てこなくてよかった、と言ってたし(笑)。
それなりに着物のTPOは心得て、場数も踏んだつもりでしたが、
こんな世界もあるんですね、着物の道も奥が深いなあ…。
舞台には先輩が登場し、黒紋付仙台平の囃子方の真ん中で、渋いお召の着物に茶色の袴。
朗々と大劇場に声が響き、堂々たる舞台姿。
後半やや息切れ気味ではありましたが、最後まで立派に勤められました。
その後は知らない演者が続くので、井上八千代の登場までロビーに出て美術鑑賞。
大劇場二階ロビーには錚々たる日本画家の作品が展示されていて、
ちょっとした美術館並み。私はここで鏑木清方の「野崎村」を見るのが楽しみなんです。
一階には平櫛田中作、六代目菊五郎の鏡獅子像が鎮座しています。
その前で舞台を終えたばかりの先輩がお客様と談笑中。
我々もご挨拶に行き、お衣装は黒紋付ではないんですね、とお聞きすると、
黒紋付は杵屋〇〇とお名前を頂いているプロの方しか着られないんだとか。
アマチュアの先輩はここぞとばかりお召を新調したんだそうな。
奥さんには内緒でね、とお茶目なオジサマです。
さてそろそろ井上八千代登場の時間なので客席に戻ります。
シンプルな舞台装置に、黒留袖の衣装の人間国宝が舞い始めると、その小柄な体が大きな舞台を支配していく。
私は生の京舞を観るのは初めてですが、なんと凛としてカッコいいんでしょう。
歌舞伎役者や藤間、花柳などの日本舞踊はたくさん見たけど、ぜんぜん違う。
なんというか、クネクネしてない(笑)。
京舞井上流は能がかりだと聞いたことがありますが、確かに能の仕舞を見ているような感覚でした。
あとの豪華ゲストは夜の部なので、我々はここまで。いやあ、いいもの見せていただきました。
三回目は歌舞伎・義経千本桜です。十月に入ったので、袷の着物に帯付きと考えてましたが、またもや雨。
今回は尾上菊之助が渡海屋、鮓屋、四の切と、違う役柄に挑戦する3つのプログラムですが、
私は四の切を見たことがないのでこれを選択。
先代の猿之助が宙乗りで大当たりをとった演目なので、宙乗りを間近に見ようと敢えて二階席を取りました。
雨だし、国立の二階だし、カジュアルでよかろう、と木綿を選択。
なんとなく歌舞伎座より国立劇場のほうが緊張しない気がします。立地のせいかな(笑)。
ウール混の阿波木綿に、先日リサイクルショップでゲットした八寸改造の半幅帯、
姉のお下がりを単衣に仕立て直した村山大島の羽織。
帯留めは見えにくいですが、箱根細工のブローチ、手提げは改造帯の余り布に、
刺繍した紗の帯地を貼り付けた手作りです。持ち手は太めの帯締め。
写真を撮った時間帯は雨もやんで晴れ間が覗きましたが、ほんとに雨に祟られっぱなしの秋でした。
さて、久しぶりの歌舞伎なんですが、なんだか気合が入ってません。
しばらく遠ざかっていたせいなのか、仁左衛門が出ていないせいなのか。
その仁左衛門も老いらくのおイタで叩かれてるし(笑)、
世紀の團十郎襲名もなにかと楽屋裏が騒がしいし、歌舞伎熱はずいぶん下がってしまったなあ。
気を取り直して、『義経千本桜』について。
タイトルロールは義経ですが、義経の逃亡の旅に関わる人々の異なるストーリーが各段で展開します。
今回選択した通称四の切、と呼ばれる河連法眼館の段は、
狐の子が義経の家臣・佐藤忠信に化けて静御前のお供をしているというややファンタジックな話。
四の切の前に道行初音旅という舞踊があります。
川連法眼館に匿われている義経を追って、静御前が花道に登場。
時蔵は相変わらず美しく、なんだか安心。
狐忠信の菊之助も現れ、二人の道行きを邪魔しに来た逸見藤太は坂東彦三郎。
え、彦三郎ってもっとおじいちゃんじゃなかったっけ?
と思ったら、長男の亀三郎が襲名して、先代彦三郎は坂東楽膳と名前が変わってました。
いやいや、回る回るよ時代は回る、ですね。
どうも昔から所作事や舞踊は苦手で、ところどころ寝落ちしながら、舞台は四の切へ。
義経の潜伏先・河連法眼館へ、忠臣の佐藤忠信が訪ねてくる。
忠信は菊之助の二役で、凛々しい武士の姿。義経はその父・菊五郎。
何故か歌舞伎で義経と言うとエリマキトカゲみたいな衣装で出てくるのが毎度おかしい。
河連法眼は元彦三郎の楽膳、妻飛鳥は上村吉弥。いい婆さん役者になったなあ。
義経に静御前の様子を尋ねられた忠信は、自分は病で故郷へ帰っていたので、
静と行動を共にしていないと困惑。
そこへ、静御前と佐藤忠信が到着したとの知らせ。
義経との再会を喜ぶ静は、忠信がその場に先に来ているのを訝しむ。
どうもおかしいと家臣が様子を見に行くと、静と同行していた忠信の姿がない。
この忠信とあの忠信はどうやら別人らしい。
あの忠信は、静が義経から預かった初音の鼓を打つと必ず現れるというので、
義経は静に短刀を渡し、呼び出して怪しければ斬れと命じる。
鼓を打つとあの忠信が現れ、静が斬りかかると、狐の正体を顕す。
自分は生き皮を剥がれてその鼓にされた狐夫婦の子で、源九郎狐と名乗る。
忠信に化ければ親狐の皮が張られた初音の鼓のそばにいられると思い、今日まで来たが、
鼓の響きの中に古巣へ帰れという親の声が聞こえたと、姿を消す。
話を聞いた義経は、肉親の縁が薄い自らの境遇を重ねて涙し、
静に鼓を打たせて呼び出そうとするが、何故か鼓は鳴らない。
と、天井の欄間から突然、真っ白いもふもふの源九郎狐が現れる。
義経は親を思うその心と、これまで静の護衛を勤めてくれた褒美に初音の鼓を与える。
大喜びの源九郎狐は鼓にじゃれまくり、
お返しに吉野山の悪僧たちが義経一行を夜討ちする計画があることを伝え、鼓とともに古巣へ帰っていく…
ここで源九郎狐が宙乗りすると思っていたんですが、上手の桜の木に登るだけでおしまい。
そういや「宙乗り相勤め候」とはチラシに書いてなかった(笑)。
菊之助は武士姿は凛々しく、もふもふ狐は可愛らしい。
でもどっちかというとクールな美貌で、私には女形のイメージがまだ強いなあ。
女性の役でなくても、弁天小僧とかお嬢吉三とか、女装の美少年という役どころ。
父の菊五郎の狐忠信にはまだまだ及ばない、とは菊五郎贔屓のTさんの弁。
いずれは八代目菊五郎として音羽屋一門の総帥となる菊之助、
岳父の吉右衛門の芸も継承して行かなければならず、その肩にかかる重責ははかりしれません。
音羽屋と播磨屋を担うってことは、成田屋の團十郎より遥かに広い芸域をカバーすることになります。
ガンバレ菊之助。
さて、早いもので今年も残すところあと僅かとなりました。
コロナ禍で我慢の続く日々も、少しずつ緩和され、エンタメ業界も活気を取り戻しつつあります。
恐る恐るではありますが、機会を捕らえてあちこちに出かけられるようになりました。
来年も私のささやかな見聞をお伝えしていきたいと思います。
どうぞ皆様もおすこやかに、そして世界の人に平和と食糧が行き渡ることを願ってやみません。
良いお年を。
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