スタッフN村による着物コラム
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前回は桜満開の風景をお届けしましたが、はや6月。今年は桜も藤も牡丹もあっという間に駆け抜けていってしまいましたね。
道端で引っこ抜いてきて、庭に植えたホタルブクロが咲きました。華やかな園芸種の花もいいですが、私はこんな野生種の控えめな色合いが好きです。
この花の中にホタルを入れたことはありませんが、もしこの中で光っていたらきれいだろうなあ、という想像が楽しいネーミングですよね。
96.手作り紅茶体験記
すっかりご無沙汰してしまい、恐縮です。
なんせ4月に予定していた柳家小三治一門会は国宝の体調不良で中止、5月の文楽はコロナで中止と、レポするネタがないんですよ。
バイトも辞めてしまったので、漢字パズルと農作業に明け暮れる日々、もう2ヶ月も電車に乗っていません(笑)。
そんな中、高校時代の友人たちとのLINEで、お茶摘みの誘いがありました。友人の実家が瑞穂町のお茶農家で、手摘みさせていただけるというのです。
友人たちは先に緑茶作りを体験したようで、なかなか大変な作業らしく、私は比較的簡単だという紅茶づくりにチャレンジすることに。
同じくヒマを持て余している姉と一緒に、車で友人の実家に出かけました。当日は小雨模様の肌寒い日で、全員雨合羽を着込んでのお茶摘みです。
手入れの行き届いた茶畑の新芽は青く瑞々しく、「一針二葉」といって針のように細い新芽とその下の開いた二枚目までを摘むようアドバイスが。
鋏も使わず力も入れず、柔らかい新芽は面白いように摘めます。アクもなく、指が黒ずんだりすることもありません。
それぞれ手持ちの籠にいっぱい摘んで、このへんでよかろうというところで雨も本降りになり、この日は解散。
茶葉は放っておくとすぐに発酵してしまうので、緑茶派の友人Aは帰ってすぐに蒸しと手もみの作業にかかるといいます。
私が作る紅茶は、一昼夜放置してしんなりさせてから揉み、それを発酵させてから加熱して発酵を止め、乾燥させます。
茶葉を洗ってザルに広げ、一晩放置しましたが、雨続きで湿度が高く、気温も低く、あんまりしんなりしていない。でも明らかに緑茶とは違う香りもします。
なんにせよ初めてなので、要領がよくわからないまま、姉と二人で力任せに揉み始めましたが、揉み進むと指の間から青い汁がにじみ出る。
これは水分が多すぎるんじゃないだろうか? 参考にしたサイトによると、30分ほど揉んだら、密封袋に入れて3〜4時間放置して発酵させるとある。
夕方になってしまったので姉と茶葉を半分こして、それぞれで乾燥させることにしました。同じサイトによれば120℃のオーブンで様子を見ながら数十分。
10分ごとにオーブンを開けてかき混ぜながら様子を見ますが、量が多いのか、水分が多いのか、なかなか乾燥してくれません。
姉とLINEで経過報告しながら、結局二人とも乾燥するまで1時間近くかかってしまいました。でも見た目はなかなか紅茶っぽい。
さっそくポットに少し多めの茶葉を入れ、熱湯を注いで待つこと3分、白いカップに注いでみましたが…うーん、色が薄い。
味も紅茶というよりは、台湾でいただいたことがある、凍頂烏龍茶のような軽い味です。マズイわけじゃないんですが、なんとも中途半端。
姉の感想もほぼ同じで、乾燥方法に違いがあったわけではないようです。
緑茶派の友人Aからはすでに昨日、美しい水色(すいしょく、と読みます。淹れたお茶の色をこういうそうです)の写真が送られてきました。
紅茶作りを同時進行でやっている友人Bには、少し発酵時間を長くしたほうが
良さそうだとアドバイスしたところ、私よりは紅茶らしくなったみたい。
まあ、初めての試みで、そうそううまくは行かないよね、となんだかモヤモヤしていたところ、友人から再チャレンジの提案が来ました。
なんでも、一番茶を摘み取ったあとの二番茶のほうが紅茶には適しているらしいというのです。そこで別の手作り紅茶サイトをググると、ありました。
紅茶は主にセカンドフラッシュといって、5月から7月の茶葉を使うそうで、我々が摘んだ茶葉は、日本茶に適したファーストフラッシュだったようです。
さらに、茶葉の発酵には25℃ほどの温度と90%の湿度が必要とのことで、先日の肌寒い日の室温では十分に発酵しなかったこともわかりました。
ちなみに、お茶の製法について簡単に説明すると、日本茶は全く発酵させない無発酵、紅茶は茶葉自体の酵母で発酵させたもの。
烏龍茶はその中間で発酵を止めたもの、プーアル茶はさらに乳酸菌などを加えて後発酵させたもの、という違いで、元は同じ茶葉なんですね。
気温が低くて発酵が十分でなかった私のお茶が、烏龍茶みたいな色と味だったのも納得です。
新たな知識も仕入れ、再茶レンジ(笑)の日は天気も上々、気温も先日より5℃ほど高い25℃。各自お弁当を持ち寄り、ピクニック気分で出かけました。
なるほど、一週間ほど経った茶畑は、さらに新芽が伸びて(多摩方言では「ほきて」といいます)、緑がいっそう濃くなっています。
前回は欲張ってたくさん摘んでしまい、揉むのに一苦労したので、今回はやや控えめに。それから茶畑の隣にある公園のベンチでお弁当交換会です。
食事の後は里山ウォーキングで腹ごなしして解散。緑茶派のAは飛んで帰って茶揉みです。今回は和紙を敷いて揉んでみるとか。
私はいったん姉の家で茶葉を洗い、ザルに広げて乾燥させたのを、翌日我が家で一緒に揉むことにしました。
翌朝、姉が茶葉とともに来宅。我々もフローリングの床に和紙を敷いて、今回は力任せでなく、紙の上で転がしたり、両手でこすり合わせたりとていねいに。
前回よりだいぶ水分が抜けていて、30分も続けると粘りが出てきました。もう少し頑張ろうと、それからさらに20分、さてこれくらいでいいかな?
新しく見つけたサイトでは、この茶葉をボウルに入れ、濡らしたペーパータオルをかぶせ、さらにラップで覆って40℃の低温で湯煎するとあります。
なるほど、こうすることでインドやスリランカの気候を再現するのだな。前回あまり発酵しなかったのは無理もありません。
湯が冷めると時々温めてやり、3時間ほどおいてそっと覆いをめくってみると、甘い発酵臭が漂い、緑色だった茶葉はほぼ茶色に変わっています。
発酵しすぎると色や香りが悪くなるらしいので、湯煎からおろし、天板にクッキングペーパーを敷いて茶葉を広げます。
120℃のオーブンは前回と同じですが、今回参考にしたサイトでは10分ほど加熱したらあとは自然乾燥で、とあります。
我々のは今回もサイトに出ている量より多いので、3回に分けて20分ずつ、少ししんなりしているくらいでオーブンから出しました。
幸い好天続きで湿度が低かったので、梅干しのザルに広げて一晩陰干しすると、いい具合に乾きました。
さて、紅茶になったかな、とドキドキしながらポットへ。ティーバッグのように細かく粉砕していないので、茶葉がゆっくり開くよう4〜5分待ちます。
カップに注ぐと…じゃーん、紅茶です、まさしく紅茶の色です!
香りはやや控えめですが、喉を通ったあと、爽やかな残り香が鼻に抜け、しっかりと発酵した証の、タンニンの渋味と軽い酸味が感じられます。
これだけ頑張って、できた紅茶は80g程度ですが、コロナ禍でヒマを持て余すオバサンたちにはとても楽しいヒマつぶしでした。
お茶農家が実家の友人Bはすっかりハマってしまい、後日もう一度、今度はダンナさんも一緒に200gも作ったそうな。
東京瑞穂町産の、狭山やぶきた紅茶、来年もまたやろうよと約束し合ったオバサンたちの、紅茶作り体験記でした。
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