スタッフN村による着物コラム

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入間市在住の友人から、近所のリサイクルショップで大量の帯や着物が550円均一で売られていると聞き、押っ取り刀で出かけましたよ。

どうもコロナ禍の中、断捨離を進めた人が多いみたいで、毎日散歩がてら覗いているというお婆さんによると、どんどん着物の売り場が広がってるそうな。

華やかな袋帯も凝った大島紬もペラペラの化繊もウールも全部550円とは、いささか複雑な気持ちでしたが、ちょっと面白い八寸帯を発見。

古代エジプトかギリシャかなんか風の柄がたぶん漆で描かれたもので、こりゃ掘り出し物かもとゲット。

お太鼓裏を切り落として半幅帯に直してみました。

帯留めにしたのはその後食事と散策に行った近くのジョンソンタウンの雑貨屋で買った缶バッジです。

ジョンソンタウンというのは、旧米軍入間基地の軍人住宅跡を改装した一画で、カフェや本屋や雑貨屋が立ち並び、お洒落で楽しい街です。

すぐそばにはやはり旧米軍基地の一部を整備した彩の森公園もあり、ちょうど紅葉が真っ盛り。

遠出をしなくてもまだまだ近場に楽しめる場所があることを再認識した一日でした。

 

100. 9月の文楽鑑賞

なんと今回でこの駄文も100回目。あれこれよしなしごとを書き連ねて参りましたが、お付き合いくださる皆様にはただただ感謝申し上げます。

100回だからといって特に何か変わったことがあるわけでもなく、相変わらずの言いたい放題ですが、今後ともよろしくお願いいたします。

さて、コロナ感染状況もだいぶ落ち着いた今日このごろですが、レポートはいまだ緊急事態宣言下の9月。久しぶりの文楽鑑賞です。

5月もチケットを確保していたのですが、出かけるのを躊躇している間に、演者に感染者が出て、公演自体が中止になってしまいました。

2月に文楽デビューした友人に加え、さらに文楽初体験の友人もがっかりしていたので、今回は満を持しての国立小劇場。

着物も久しぶりです。天気予報では雨だったので、無地の川越唐桟(すごく矛盾してますが、正しくは川唐の織元が織った野田双子織です)にしました。

帯も木綿のファブリック。晏のオリジナルで私はアブストラクト帯と呼んでいます。お太鼓も久しぶりで、かなり悪戦苦闘しました。

足袋も川唐、バッグは昔手作りした保多織の巾着を引っ張り出して久々づくし。マスクは不織布だけではつまらないので、かまわぬ柄の布マスクを重ねました。

 

さて、文楽です。少し前に人形遣いの実力派・桐竹勘十郎が人間国宝に認定され、それを知らせるパネルが劇場のロビーにありました。

勘十郎の師匠で人間国宝の吉田簑助が今年の春に引退し、寂しい気持ちでいた中に、これは嬉しいニュースでした。

勘十郎の出演する『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)』は第一部で、残念ながら私には開演が早すぎます。なもんで、毎回見るのは第二部。

今回の演目は『三十三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)』と『日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)』。

三十三間堂…は、いわゆる異類婚姻譚で、葛の葉子別れや鶴の恩返しと似たような話ですが、女房となるのが動物ではなく柳の木、植物というのが珍しい。

鷹の足縄が引っかかって、伐られようとしていた柳の木を、弓矢で足縄を切って助けた横曽根平太郎、それを見ていた茶店の女主人お柳と夫婦になる。

実はお柳は柳の精で、今は五歳になる息子のみどり丸と、平太郎の老母と四人で幸せに暮らしている。

時の法皇、白河院の病平癒祈願のため、都に三十三間堂が建立されることになり、その棟木にお柳の本性である柳の木が選ばれ、伐り倒されると聞いたお柳、

そうなったら家族と別れなければならないと平太郎に訴えるが、夫は取り合わずにうたた寝。柳の木を伐る音が聞こえる中、お柳は眠る夫に別れを告げる。

目を覚ました夫は妻を抱きとめようとするが、またたく間に消え去るお柳。

その後お柳が平太郎の出世アイテムを届けに来て、それを狙うワルモノが老母をなぶり殺しにしたり、平太郎がその仇を討ったりといろいろあって(笑)、

伐り倒された柳の木が、木遣音頭とともに街道筋を曳かれてくるが、突然びくとも動かなくなる。そこへ駆けつけた平太郎とみどり丸。

柳が別れを惜しんでいると察した平太郎は、役人の許しを得てみどり丸に綱を曳かせる。平太郎の木遣音頭に合わせてみどり丸が綱を曳くと、柳が動き出す。

夫と息子に見送られ、お柳の柳の木は都に向けて曳かれて行くのだった…というお話。お柳の人形を遣うのは、人間国宝の先輩・吉田和生。

床は切が人間国宝・豊竹咲大夫、さらに奥が若手実力派の豊竹呂勢大夫に三味線の人間国宝・鶴澤清治と、実はこの演目のメンバーが一番豪華でした。

特に呂勢太夫・清治のコンビは、一番大好きな太夫と三味線なのに、このところほとんど当たらず、久しぶりのお目見えです。

私は鶴澤清治をひそかに「寝かさずの清治」と呼んでいて、それまでどんなに眠たくても、清治の三味線が響くとシャキーンと目覚めて背筋が伸びます()

呂勢太夫も乗ってます。美声を振り絞る熱い語りに、カミソリのようにキレのある清治の三味線。初心者の友人たちもすっかり魅了されたようです。

 

お次の演目『日高川入相花王』は、いわゆる安珍清姫、おなじみのお話。しかも「渡し場の段」のみですから、清姫の蛇体変身だけを見せる場です。

暗い舞台に簡素な土手があるだけ、「日高川」と書かれた棒杭一本。そこへやってきた一人の娘、恋しい安珍を追ってきた清姫だ。

船頭に向こう岸へ渡してくれろと懇願する清姫、しかし船頭は安珍から金をもらい、娘が追ってきても決して渡すなと頼まれているのでにべもなく断る。

清姫は声を上げて悲しむが、やがて嫉妬(安珍は恋人と一緒に逃げている)と恨みで凄まじい形相に変わり、角が生えて蛇体となる。

清姫だった蛇体は川へ飛び込み、火を吹きながら川を渡って向こう岸へとたどり着く、というこれだけの場であります。

しかし二十年あまり文楽を見てきて、今回初めて見たのが、いわゆる「ガブ」。美しい娘の顔が一瞬にして鬼(蛇)の顔に変わる、文楽名物の仕掛けです。

文楽を紹介するテレビ番組なんかではよく出てくるんですが、実際の演目の中で見たのは初めて。実はそうそうしょっちゅう使う頭じゃないんです。

落語番組の蕎麦食いの所作みたいなもんですね(笑)。いずれにしても初めて見るものは新鮮です。

川へ飛び込んだ蛇体清姫、のたうつ、吠える、暴れるの大スペクタクル。初心者Aはゲラゲラ笑ってました。そうか、ここ、笑うとこなんだな。

というわけで、人間国宝の名演、ガブ、大スペクタクル、お腹いっぱいの2時間あまり、初心者二人も大興奮していました。

12月はなんと14日に同じメンバーで『仮名手本忠臣蔵』を観る予定ですが、今年のレポートはこれが最後、来年101回めにご案内します。

今年一年もいろんなことがありました。まだまだコロナの感染状況も不安はありますが、来年は少しでも今年よりいい年でありますように。

皆様のご多幸をお祈りして、2021年のしめくくりとさせていただきます。

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