スタッフN村による着物コラム
「オキモノハキモノ」 に戻る
ザ・バンドというロックバンドを知っていますか? ‘60年代後半から活動し、’76年に解散したアメリカのバンドです。
その解散コンサートを記録したマーティン・スコセッシ監督の『ラスト・ワルツ』という映画を見たことがある人もいるかもしれません。
ややツウ好みのバンドで、私も全盛期は知らなかったのですが、映画を見てドハマリし、ビートルズよりストーンズよりクイーンより好きなバンドに。
あれから40年あまり、昨年そのザ・バンドの誕生から解散までをたどるドキュメンタリー映画が公開され、すっとんで観に行きました。
クイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』のようなエンタテインメントではありませんが、メンバーの若き日の映像や、知らなかったエピソードが満載で、
ザ・バンド好きにはたまらない作品です。エリック・クラプトンが加入を熱望して断られたなんて、ウソみたい(正しい判断だと思いますがw)。
ザ・バンドのことを語りだしたらコラム一回分使っても足りませんが、マニアックすぎるし、このコラムの趣旨を外れるので遠慮しておきます。
ひとつだけ、当サイト運営者の冨田が、同じくファンだと知ってびっくり。女性のザ・バンドファンは彼女以外にいまだ会ったことがないもんで(笑)。
93.新春たちかわ寄席 喬太郎・三三二人会
今年最初のコラムです。今年もわが駄文におつきあい下さる皆様、あけましておめでとうございます。一日も早く明るい春が来ますように。
昨年末、文楽のチケットを確保していたのですが、日々増大する感染者数にビビってキャンセルしてしまいました。
なもんで、前回から少し間が空いてしまいましたが、不要不急の最たるものとしてご容赦ください。
その後も感染者の増加は止まらず、年明けには緊急事態宣言発出かという騒ぎでヤキモキしましたが、7日以降と決まり、前日の6日、駆け込み初落語。
高校時代の友人と、ここ3年ほど高島屋の鼎泰豊でランチ→落語会というパターンが続いていて、なんとか今年も開催できました。
昨年来の大寒波に加え、この日は曇りで冷え込みましたが、正月だし頑張って着物にしました。もちろんヒートテックに厚手のタイツは必須です。
川越唐桟に、バティックの二部式帯、羽織は江戸小紋の仕立直し。ガラスの帯留めがちょうど羽織と同じ色でした。羽織紐は母のお下がりでちょっと古風。
足袋は裏ネルの別珍、草履は保多織鼻緒のカレンブロッソ、バッグは昨年亡くなった叔母の刺繍を姉が仕立ててくれたもの。これも供養です。
マスクは藍のかまわぬ柄で色を揃えました。マスクのコーデもすっかり習慣となり、各色揃えて楽しんでます。
さて落語会。おなじみのたましんRISURUホールです。検温、手指消毒、セルフもぎりはもうデフォルト。席ももちろん前後左右空席の市松模様。
開口一番は三遊亭天どんの弟子のごはんつぶ。円丈の弟子の天どんの弟子かあ。おなじみの『子ほめ』。
この噺、言い間違いで笑わせるんだけど、ホールの音響が悪いのか、マイクの使い方が下手なのか、声がわんわん反響して言い間違いが聞き取れない。
だからちっとも笑えないまま、続いて三三。例によって猫背気味にジジむさく登場。去年もここで見たけど、ホントに見た目に年齢が追いついた感じ。
一声発すればやはり声の通り、滑舌の良さはさすがで、全く聞き取りにくいところはない。やはり音響じゃなく技術の問題だな。
このホールの駅からの微妙な距離をイジるのはお約束。また、正月の定席寄席の出番の短さの話題も一月ならでは。
「寄席では持ち時間が一人五分ですからね、たまに十五分もやっちゃう人がいるともう大変で、後の人の時間がなくなってしまいます」、
「師匠の小三治が舞台の上手から下手へ手を振りながら通り過ぎたことがありまして、それじゃあお客さんも納得しないんで今度は下手から上手へつーっと」
ホントかネタかはわからないけど、小三治ならありそう。志ん生が舞台で寝てしまい、客が「寝かしといてやれ!」と言ったという逸話に匹敵するかも。
三三にしてはマクラが長いと思ったら「今日は三十分もお時間頂いてるんですが、実は喬太郎さんがまだこちらに到着していませんで」ですと。
「今頃いつものように駅からキャリーバッグがらがら引いて歩いてると思いますが」ってまさかね、タクシーでワンメーターなんだからさ(笑)。
ようやく到着したのか、噺に入ります。長屋に引っ越してきた夫婦、女房は片付けに忙しいが、大工の亭主は鉄瓶持ってうろうろしてるだけ。
「おまいさん、箒掛けるんだから柱に釘打っとくれ」お、『粗忽の釘』だ。以前三三で聴いた時はあまり感心しなかったが今日はどうかな?
こういうものは長えほうがいいんだと、五寸もある瓦釘を打ち始めた亭主、勢い余って頭まで打ち込んでしまう。しかも壁に。
長屋の薄い壁に打ち込めば、お隣に突き通ってしまう。「おまいさんちょっとお隣に謝ってきておくれ、慌てるんじゃないよ、落ち着きゃ一人前なんだから」
粗忽亭主はなにを思ってかお向かいの家に駆け込み、「今日この長屋に引っ越してきた者なんですがね、壁に釘打ち込んじまいまして」
お向かいの住人、引っ越してきたのは向かいの家のはずだが、向かいの家で釘打って、うちの壁に届くわけないでしょうと頓珍漢なやりとり。
向かいの女房は笑いをこらえながら回覧板でこの新住人情報を長屋中に回す。謝るべきは隣の家だとようやく納得した亭主、今度は隣の家に駆け込んで、
「今日隣に引っ越してきた者ですがね」と、今度は肝心の釘の話を忘れて、女房との馴れ初めを延々と語り始める。
隣の女房は回覧板(似顔絵付き)でこのスットコドッコイの情報は入手済みなので、困惑する亭主の後ろで笑い転げている。
ようやく話が一段落して「ところでご用件は」、粗忽亭主はようやく釘のことを思い出し、家に戻って打ち込んだ釘を叩いて隣に位置を知らせる。
なんと釘は隣の仏壇を打ち抜き、仏像の横にニョッキリ。「こりゃあ大変だ、明日っからここへ箒を掛けに来なきゃならねえ」とおなじみのサゲ。
前回聴いたのはいつだったかとこのコラム遡ったら、平成27年ですから2015年、6年前です。いや、ずいぶん演出が変わってました。
前回の主人公は、粗忽というより与太郎っぽく、テンポも遅くて、スットコドッコイなあれこれが、こいつ馬○?○鹿なの?と見えてしまった。
今回はいきなり引っ越しが終わったところから始まり、主人公の口調も早くなってます。回覧板のクスグリは他で聞いたことがないのでオリジナルでしょう。
正統派の優等生と思っていた三三ですが、こんなクスグリを入れるようになったんだ、と感慨ひとしお。こういう発見はとても楽しいものです。
お次は水戸太神楽の柳貴家雪之介。何度かここでも登場してると思います。水戸太神楽って、本身の出刃包丁や日本刀を使うので、見てるとハラハラします。
今回も出刃包丁を二本、切っ先同士を合わせてその上に色々乗っけて、それをクルクル回してました。練習風景を想像すると背筋が凍りますね(笑)。
さて、ようやく到着したのか、無事喬太郎登場です。「このホール。楽屋口がなくていつも正面玄関から入るんですが、入り口で、あのー、チケットは?」
と言われたそうな。まあ、私服で(喬太郎の私服は主にユニクロw)マスクしてたら落語家には見えないかもだけど、体型と白髪で見分けなよスタッフも。
時節柄、マクラはどうしてもコロナ寄りになるけれど、喬太郎のは一味違う。
突然野太い声で「ウォーい、俺は熊獲ったぞー」「俺は鹿獲ったぞー」と叫びだし、「アンタたちはずいぶんおとなしそうだけど何をやってるんだい?」
すると気弱そうな男が「アタシたちは稲、というものを作っております」「アタシは野菜を…」また野太い声で「イネェ〜? ヤサイ〜?」…
「ノウコウセッショク(農耕接触)!?」!!!! うーん、文字にするとあのおかしさが伝わりにくいなあ、喬太郎ってこういう感じなんです。
野暮な説明をすると、狩猟民族が初めて農耕民族に接触した瞬間、これがホントのノウコウセッショク、ってどこかマンガっぽい芸風。
それはさておき、と今度はそばの話。立川駅の立ち食いそばが美味いというのはお約束なんだけど、「清流そば」?「奥多摩そば」ってなくなっちゃったの?
というのに心の中で(青梅線ホームにあるよ)と答えながら、おいおいまた時そばじゃないだろうな、と思っていると
「な〜べや〜きうど〜ん」(節はい〜しや〜きいも〜)と始まった。おっと、聴いたことのない出だし。
寒夜の屋台のうどん屋、酔っぱらいの客がちょっと火に当たらせてくれと寄ってくる。お前仕立て屋の太兵衛知ってるか、太兵衛の娘の祝言があって、
その祝い酒で酔っ払って…と知らない人の同じ話を何度も聞かされ、そのうちうどんを食べてくれるかと、水を出したり相槌を打ったり。
結局水を飲み逃げされただけ、場所を変えて売り声を上げると「子供が寝たばかりだから静かにしてくれと言われる始末。
やれやれと表通りに出てみると、大店の若い衆が「うどん屋さん」と小さなかすれ声で呼び止める。ははあ、奥に内緒でうどんで温まろうという寸法かと、
こちらも小声で「おいくつ?」「ひとつで」なるほどこいつは斥候で、美味かったらみんなで代わり番こに食べようということだな、と心の中でしめしめ。
鼻水をすすりながら食べ終えた若い衆、小さな声で「ごちそうさま」こちらも小声で「ありがとうございます」「うどん屋さん、あんたも風邪引いたの?」
なんてことない冬の夜のスケッチ、という感じの噺で、喬太郎や三三の大師匠、五代目小さんの得意ネタだそうな。
小さんといえば、昔よくテレビでうどんと蕎麦を食べる所作の違いをやって見せていた。蕎麦は高く持ち上げて、やや高い音でつつーっとすする。
うどんは低く持ち上げ、太さを感じる低い音でゾゾっとすする。子供心に面白いなあとと思ってたけど、喬太郎もきちんと演じ分けてました。
思えば今日のサブタイトルは「柳家の底力をごろうじろ」でした。それでかな?喬太郎的には珍しい『うどん屋』でした。
いつもなら出口付近に今日の演者と演目を書いた紙が張り出されますが、スマホかざした客が密集するので、張り出しはなしだそうです。
そんなこともこれまでとは違う風景。いわゆる新しい日常、というのがこれから定着してしまうのでしょうか。小さなことだけどなんだか寂しいなあ。
スタッフN村による着物コラム
「オキモノハキモノ」 に戻る