スタッフN村による着物コラム
「オキモノハキモノ」 に戻る
いやはや、いつまでたっても明けない梅雨にウンザリしていた先月、今月はいつまでたっても収まらない猛暑。
もしオリンピックやパラリンピックを予定通り開催していたらと思うとゾッとしますね。来年の夏はどうなっていることやら。
コロナ第二波(政府は認めてないけどw)真っ只中、ステイホームの旧盆中(うちのお盆は新暦です)、梅干しがよく干し上がりました。
去年は空前絶後の梅の不作で諦めましたが、今年は大豊作、梅雨があんまり長くてカビが心配でしたが、長く漬けたのでひときわ鮮やかな色に。
梅の横の黒紫の物体は、色付けに使った紫蘇の葉です。カリカリに乾かしてフープロで砕き、ゆかりふりかけにしました。
紫蘇もそのへんに勝手に生えているので、買った材料は塩だけ。完全無農薬の自然の恵みです。
90.三谷幸喜文楽『其礼成心中』再演@PARCO劇場
ご多分に漏れず、コロナ禍の中ほとんどのライブエンタテイメントが封印され、外出といえば仕事と日用品の買い物くらい。
ここでレポするようなイベントもなく、すっかりご無沙汰してしまいました。
緊急事態宣言が解除され、そろそろ大丈夫? という時期に、新装なった渋谷のPARCO劇場で三谷幸喜作の新作文楽『其礼也心中』のチケットが発売に。
この公演、一度全席が発売されたのを払い戻し、新たに前後左右が空席のディスタンス席で再発売されました。
時期も時期だし、席数は定員の半分以下、私は初演も見てるし、スルーかなと思いましたが、以前から文楽を見たがってる友人に付き合うことにしました。
例のなんにでも首を突っ込みたがるヒマな主婦(笑)ですが、8月に予定されていた初心者向けの国立劇場公演に案内してあげる約束が中止になり、
それなら古典ではない三谷文楽が良かろうと、まさかコロナ第二波の真っ只中になろうとは思いもせず、お盆明けの平日を狙ってチケットをゲットしました。
公演日が近づくにつれ、東京都のみならず全国のコロナウィルス感染者数が激増し、若者の街と呼ばれる渋谷どうなのよ、と戦々恐々。
政府ご推奨の接触者確認アプリ・COCOAもインストールし、ランチも移動距離を極力減らすためにPARCOのレストラン街と決め、当日を迎えました。
思えば2月の文楽以来、着物なんぞ触りもせず、坂上忍がCMで「それもう着ないってー」と言うたびにムカつく私としては、頑張って着物を着ることに。
ただでさえ8月に着物を着る機会はほとんどなく、あっても阿波しじらか夏川唐で済ませてきたので、何年かぶりに小千谷縮を引っ張り出しました。
二枚持ってるうちのグレーの縞は多分二回くらいしか着てない。本麻は裾が足首で擦れて痛いので、ついつい敬遠してしまいます。
着ないから柔らかくならない、だから擦れて痛いの悪循環、せっせと着て洗って飼いならさねばいけません。
こないだEテレの「きょうの料理」で大原千鶴さんが麻の着物を着てましたが、よく着込まれてとても柔らかそうでした。なかなかああはいきませんね。
長襦袢も麻を持っているのですが、ダブルで擦れるので、kimono gallery晏でゲットした竹繊維入りの化繊の絽を愛用しています。
連日猛暑日続きの中、下着は胸に晒しをぐるぐる巻きにしただけで襦袢を着てしまいます。伊達締めも着物に締めるだけで、極力布の数をカット。
帯はいただき物の博多織のグレー半幅帯、同じくいただき物の古風な珊瑚の帯留めをつけた黒地にピンクのラインがある帯締めが唯一の差し色です。
麻の足袋に、竹皮を貼った台に左右対称(水引、っていうんだったかな)の鼻緒の下駄、バッグも麻の縞柄です。
そして今年ならではのマスクは、「かまわぬ」柄の浴衣地で知人に作ってもらったお手製です。せっかくの着物に使い捨てマスクじゃ味気ない。
普段ノーメイクの私も着物のときはお化粧しますが、顔の半分マスクですから、BBクリームを薄く塗って、眉と目の周りだけちょいちょいと描いておしまい。
口紅が売れなくて化粧品メーカーはお困りのようですが、農作業で日焼けしまくりの私はフルメイクすると顔が白浮きするので、マスクは大助かりです(笑)。
さてPARCO劇場、写真は新装なった9階の劇場エントランス。広い外階段から出入りできます。もちろんこの暑いのに歩いて登ってくる人はいません。
エレベーターを降りて劇場入りするのがメインですが、帰りは密な箱に乗るより、この階段で降りるほうが安心。我々も4階までは歩いて降りました。
猛暑の中、他に歩いて降りる人はなく、我々も4階のカフェに飛び込んでしまいましたけどね(笑)。
劇場の入口では体温チェック、鳥インフルエンザの養鶏場みたいな履物消毒液を踏み、手指もアルコール消毒した上でようやく入場。
席は前後左右が空席のディスタンス席で、閑散としています。友人と私はそれぞれ一枚ずつしか申し込めない先行抽選で取ったので、離れ離れかと思いきや、
友人はB列、私はC列のほぼ中央で、普通なら前後の縦並び。でも会場内はマスク必須のおしゃべり厳禁。開幕前のザワザワした雰囲気は皆無です。
初文楽の友人にいろいろ教えてあげたくてもまず不可能。まあ、事前に三浦しをんの文楽本を2冊強制的に読ませたので大丈夫でしょう。
舞台にはおなじみの定式幕が掛けられ、ちょーんと拍子木が鳴って開演、と、ちょこちょこ現れたのは一人遣いの三谷幸喜人形(笑)。
丸顔メガネは本人そっくりだけど、ちゃんと髷を結って裃をつけてる。そして本人の声(録音だろうけど)で口上を述べる。
いわく、ここPARCO劇場では初の再演であること、文楽はコロナに強いこと(人形だから舞台の上では喋らない、喋る太夫は高いところにいる、
人形遣いはもともと頭巾をかぶっているetc)、などと笑いを交えた口上のあと幕が開くと、通常床と呼ばれる太夫と三味線が天井近くにいる(笑)。
初演のときはもっと前にいたような気がするけど、おそらく客席との距離を取って、舞台後方に設置し、客席最前列も空席になっています。
なんつっても義太夫語りのツバの飛び方、半端ないもんね。そして三味線は全員揃いのマスクを付けている。
能や歌舞伎の囃子方は黒絹の前掛け風だけど、こちらはグレーのシリコン製みたいなの。国立だと字幕が出るけど、こちらはなし。ま、当たり前ですかね。
お話は…このコラムのvol.15で初演のときに詳しく紹介していますのでそちらを参照してください。暑いので省略(笑)。
Vol.15で、古典芸能の新作はしばしば一回こっきりで、再演を繰り返していかないと財産にはならない、などとエラそうに書いてますが、
この作品は国立小劇場や大阪文楽劇場で何度か再演しており、今回のPARCO劇場はいわば凱旋公演。
脚本、演出はほぼ初演どおりだと思いますが、太夫も人形もだいぶこなれて、とてもブラッシュアップされた舞台になっていました。
パトロールだのネイルサロンだのと横文字や現代語の交じるセリフ、心中の似合う顔ではないとくさされてジタバタ悔しがる娘の暴れっぷり、
フィルムを張って水中に見立てた川の中で、心中したはずがつい泳いで助かってしまう夫婦の動きなど、普通古典ではありえない演出の数々、
8年前の初演時に比べれば今や押しも押されもしない実力者の千歳太夫に呂勢太夫、チャリ場のノリが楽しい若手の睦太夫、
演者が楽しんでやってるのがよく分かる。人形遣いも黒子姿で顔は見えないけど、生き生きとした動き。立派に文楽の財産になっていますね。
十分に楽しんで、幕がしまったのでさて帰ろうと立ちかけたら、2度もカーテンコールがあり、慌てて着席。
普段文楽にカーテンコールはないもんで。でも頭巾を取った人形遣いのみなさんが、とても晴れやかにニコニコしていたのが印象的。
登場する人形数に比して人数が少ないので、一人何役もこなし、左や足はさぞ忙しかったと思います。でもみんなうれしそうで良かった。
半年間も舞台がなかったんだもんね、見る方もうれしいけど、舞台に上がるみなさんもきっと待ちに待った公演だったのでしょう。
ただ、ディスタンス席であるのを差し引いても、空席が目立つのが気になりました。かなりチケットの買い控えがあるようです。
ただでさえ定員の半分以下の入場制限(そりゃ左右空席なのはこっちは楽でいいけど)、ちゃんとした劇場は可能な限りの感染予防をしています。
私もおっかなびっくりの観劇でしたが、今のところ、COCOAに接触通知はなく、なんの症状も出ていないので多分セーフだったと思われます。
コロナを正しく恐れ、お互いにできる限りの予防策をとって、微力ながらエンタメ業界を応援していきたいと思います。
来月は国立でホンモノ(笑)の近松文楽、10月は日生劇場でミュージカル『生きる』だ。負けるな古典芸能、頑張れ現代演劇、であります。
スタッフN村による着物コラム
「オキモノハキモノ」 に戻る