スタッフN村による着物コラム

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ひところのマスク狂騒曲も鳴りを潜め、政府からご下賜の布マスクも届き始め、マスク不足は一段落したかに思えます。

マスクの感染防止効果にはいまだに疑問符付きの私ですが、すでにエチケットとしてのマスクは常識ですから、おとなしく従っております。

保多織マスクも好評のようで何よりですが、家政科高校出身の姉とその友人が、ヒマにあかせて突如手作りマスク職人と化し、ばりばり作り始めました。

私も手持ちの晒や手ぬぐいを次々と供出して協力。手作りマスクを送られた弟がさっそく「アネノマスク」と命名しました(笑)。

写真は「アネノマスク」と「アネノトモノマスク」たちです。浴衣の端切れや手ぬぐいで、夏場向きに作ってもらいました。

耳掛け部分はなんと輪切りのパンスト! ゴム不足の応急処置だったのですが、これが実に耳あたりが優しく、気に入っています。

リードの不織布タイプのクッキングペーパーを当てて使うのですが、ちょっと暑苦しいので薄めたミントオイルをシュッとスプレー。

一時間くらいはスースー爽やかな冷感が続きます。これもまた、「新しい生活様式」の一環ですね。お互いなんとか工夫して乗り切りましょう!

 

89.デジタルde落語

すっかりご無沙汰してしまってます。新型コロナウィルスのおかげで世界が一変し、あらゆるライブパフォーマンスもスポーツイベントも封印されてしまいました。

3月にチケットを取っていた春風亭一之輔の独演会は8月に延期(それも開催されるかどうか、まだ怪しい)、5月の文楽は中止。

 

緊急事態宣言が全国に出され、図書館も閉館、書店も休業、ネタ探しの気力もイマイチ起きず、やけくそのように畑仕事や庭木の剪定に精を出す日々。

そんな中で暇を持て余した友人が、ラインで次々とデジタル落語会の案内を送ってきました。

最初は柳家三三の落語会で、これはライブ配信のみ。うちのテレビはネット接続してないので、定時にパソコンの前に座らねばならず、夕飯時には難しい。

次に春風亭一之輔が、上野の鈴本演芸場でトリを取るはずだった10日間、Youtubeでデジタル独演会の配信を始めました。

こちらはアーカイブありなので、好きな時間に見ることができます。これはありがたいと思ってると、古今亭菊之丞も三夜連続デジタル独演会を始めました。

Abema TVもアベマ寄席を配信、立川志の輔も録画ながら新作を配信と、web落語コンテンツがどんどん充実して来ました。

ebのアーカイブで見るなら、DVDやテレビ録画で見るのと大差ないかもしれませんが、そこはついこないだやったばかりの高座。

マクラにも直近の話題が織り込まれ、それなりのライブ感が味わえます。昔の名人の録画では、残念ながらそれがない。

自宅にいながら、(申し訳ないけど無料で)これだけの高座を楽しめるのはありがたいこと。畑仕事や家事の合間にちょこちょこ見始めました。

一昨年初めて見た一之輔、その後NHKの『落語ディーパー!』の司会でよく見かけるように(でっくんとやらのせいかすっかり放送が途絶えてるけどw)。

初見のときもそのあまりの態度のデカさ(笑)にちょっと引きましたが、テレビの司会でも、デジタル独演会でも変わらぬ傲岸不遜ぶり。

無観客で、極少のスタッフのみを相手にしゃべるせいか、いよいよ毒舌が冴え渡るようで、言いたい放題やりたい放題。

初日は『初天神』。これがまあ、聞いたことのないような改作。天神様の縁日で子供にせがまれ、団子を買ってやった親父、蜜で着物を汚してはいけないと、

蜜をベロベロ舐め取って真っ白になった団子を子供にやる、サゲは「おとっつぁんなんか連れてくるんじゃなかった」普通はここまでですが、この先が長い。

舐め回した団子を蜜壺に突っ込まれて商売物を台無しにされた団子屋、おおそれながらと奉行所に訴え出て、時の名奉行大岡越前守がお裁きに乗り出す…

てな具合に、他愛もない滑稽噺がとんだ大作に(笑)。画面下に表示されるチャットでもやたら『団子屋政談キター!!!』と書き込まれていたので、

一之輔の初天神はこれがデフォルトらしい。マクラのふてぶてしさはともかく、噺はきっちりした古典をやる人だと思っていたのでちょっとびっくりしました。

でもなあ、結局お奉行がお忍びで縁日に出かけるという展開は繰り返しで、サゲも同じだから、改作としてあまり出来が良いとは思わなかった。

二日目以降もおなじみの古典落語が続きます。粗忽長屋、百川、ちはやふる、青菜、らくだ、笠碁、鰻の幇間、お見立て…

日によってわりとベーシックな回、何もそこまでと思うほどいじった回、ばらつきはあるけど、もともと腕は確かなので、私はきっちりやった回がよかった。

「ちはやふる」は、百人一首の在原業平「ちはやふる神代もきかず竜田川からくれなゐにみずくくるとは」の解釈をめぐる珍問答。

以前滝川鯉昇のぶっ飛びちはやふる(力士の竜田川がモンゴル出身で、ウランバートルで豆腐屋をしている)を聞いているので、あそこまでではないけど、

藤田紀子だのデビルマンだのと入れごとが多く、サゲもいじりすぎ。鯉昇があの顔で飄々とやるとどんなにいじっててもただひたすらおかしいんだが、

なまじ見た目が良くて声の大きい一之輔がやるとくどい。古典の改作は、新作落語のセンスがないとキツイなあ、と思った次第。

そんなこんなでややザツな日もあり、マクラもやたら長く、荒っぽい口ぶりに辟易して、9日めにギブアップ。

人気も評価も高いけど、アタシャなんだか好かんなあ、もともと談志たけし太田光など毒舌系芸人は苦手だし、この人もういいかな、と思っちゃった。

合間に古今亭菊之丞が、腰の低い、ていねいで端正な高座を見せてくれたり、サービス精神満点の志の輔の「モモリン」を見たりで気分転換。

そんなこんなでパソコンの小さな画面で我慢していたんですが、テレビの方でも落語に注目しだしたようで、フジテレビが深夜から早朝にかけて、

「語楽」という特番をやるという情報がまたまたLINEから飛び込んできました。さっそく録画の予約です。

こちらは山里亮太と柳家喬太郎の司会で、喬太郎、桂宮治、三遊亭兼好、桃月庵白酒、柳家三三、立川談笑、そして春風亭一之輔という豪華メンバー。

この顔付けはなかなかないですよ、ただなあ、トリが一之輔で、しかもネタは「芝浜」と予告されてるのよ。

なんだか嫌な予感がする。一之輔推しの友人の話では、常々人情噺が嫌いだと公言し、文句たらたら挟みながらの芝浜もやったことがあるという。

こないだのデジタル独演会でも芝浜なんて嫌な話で、と超高速あらすじをやってたし、どんな芝浜をやるつもりなんだろう…

で、出てきましたよ、宮治以外の錚々たる諸先輩を差し置いてのトリ。マクラもそこそこに「おまいさん、ちょいと、起きとくれよ、おまいさん!」…

真っ当じゃないですか! しかもうなるほど上手い! 一ヶ所、熊さんが酒をやめる決心をするところで、納得行かないと文句つけてましたが。

変な入れごともなく、最後の夫婦の会話では口惜しいけどちょっとホロリとしちゃったよ。なあんだ、やっぱりやりゃあ上手いんじゃないか。

その後、鈴本演芸場が配信した寄席のトリでも、これまた人情噺の代表的な演目「藪入り」をしんみりと行儀よく聞かせ、実力を見せつけてくれました。

そこで気づいたのは、ああ、この人、照れ屋なのかなあ、あのワルぶった毒舌は照れ隠しなのかもしれない、ということでした。

寄席では先輩やお席亭への礼儀をわきまえ、やるべきところではキチンと決める。そんな優等生ぶりが気恥ずかしいのかむず痒いのか、

独演会では期待満々のM観客にこれでもかと毒舌を浴びせるS芸人。客はもっとディスって〜と身悶える…

なるほど、一昨年初めて見た独演会で、なんとなく感じたアウェイ感は、この芸人とファンの間で交わされる暗黙のプレイに参加できなかったからなんだ。

これから一之輔を見る機会があるとしたら、独演会ではなく、一之輔より先輩の噺家を交えた二、三人会に行くほうがよさそうだと思った次第。

81日の秋川キララホールの独演会は、都内では瞬殺といわれるチケットが、なぜか発売後しばらくたっても買えたのですが、これは田舎ゆえの利点。

マニアの人気は絶頂でも、一般的な知名度は笑点メンバーには敵わない。独演会といえどもアウェイ戦でしょう。どんな高座になるか楽しみです。

 

それにつけても、今回の事態で、落語という芸能の強みを改めて感じました。

演劇、ドラマ、バラエティ、漫才までリモートでやらざるを得ないこのご時世、画面越しとはいえ本来のスタイルで上演できるのは落語と講談くらいでしょう。

早くも開場した寄席もあると聞きますし、9月くらいまで休演の決まっている演劇もあるのに、落語会のチケットは7月公演の販売が開始されているようです。

文楽は人形の三人遣いがすでに密だし、歌舞伎は大道具から三階さんまで膨大な人数が関わる。一般の演劇、ミュージカルは言うまでもない。

芸人一人で稽古も本番もこなせ(出囃子は録音でも構わない)、屏風と座布団を置いとけば舞台ができ、スタッフも最小限ですむ落語。

こんなに低予算、低リスクで番組が作れる芸能に、テレビ業界ももっと目を向けてほしいものであります。

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