スタッフN村による着物コラム
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今年も連日テレビや新聞が豪雨災害のニュースを伝えています。特に西日本では毎年のように大きな被害が出て、胸の痛む光景を目にします。
こう毎年続いては、最近のニュース、ついに「50年に一度の豪雨」って言わなくなったと思いませんか?
いや去年あたりから50年に一度どころかしょっちゅうじゃね? と思ってたんですが。
地球温暖化とか異常気象とか、異常という言葉が日常になりつつありますが、我が家の周辺にもいくつか異変がありました。
まず毎年何十キロと採れる梅の実が全滅。ジャガイモが花も咲かないうちに枯れて、できた芋はかなり小ぶり。
そして家の周囲に何十本もある紫陽花がほとんど咲きません。写真は一本だけまともな花をつけた木です。
こういう小さな異変が何かを予告しているようで、なんだか不安な夏の初め。自然のみならず、政治も経済も不穏な動きが世界のあちこちで起きています。
今年後半から憧れの年金生活に突入する私。せめて参議院選挙では大事な一票をしっかり行使しようと思います。
81.盆栽女子誕生
服飾、芸能、美術、文学、食文化などなど、わが伝統文化渉猟も多岐に亘ってまいりましたが、ここにきてついにアレですよ、盆栽。
父が長年にわたって丹精してきた盆栽が何十鉢と庭にあるのですが、さすがに卒寿を超え、手入れがおぼつかなくなってきました。
毎年行っていた植え替え作業もついに昨年ギブアップ。水やりだけは私が時々思い出したようにやっていたんですが、それも限界。
物言わぬ鉢の木たちは、次々に枝を枯らし、見るも哀れな姿に…
折しも入院中の父が「もうどうでもいいぞ」と言い出したのには、なんだか両方が枯れていくような気がして、つい「私がやる!」と宣言してしまいました。
ま、バイトも休業中でヒマだった、というのが大きいんですが(笑)。幸い道具はかなり本格的に揃っています。
そしてこの何年か、足腰の不自由な父が盆栽いじりをするときに横でアシスタントをしていたので、何をどうすればいいかはだいたいわかっています。
「もし枯らしちゃっても文句は言うなよ」という保険をかけて、いざ取り組んでみたら、いやこれが面白いのよ。もうハマっちゃって。
盆栽と一口に言っても色んなジャンルがあり、サツキなどの花物から、姫リンゴなどの実もの、欅や楓などの落葉木、これらをまとめて「雑木」といいます。
そして王道中の王道が「松柏」という針葉樹。柏と言ってもお餅を包むアレじゃなくて、真柏(しんぱく)という、ヒノキ科の常緑樹。
松も黒松赤松五葉松、おそ松カラ松十四松はマンガか(笑)、いろいろな種類があります。さらにコメツガ、ヒバ、檜、杉など。
父もいろいろ手を出していたので、その名残のサツキや姫リンゴや楓など、手入れが行き届かず無残な姿で生き延びてるのもありますが、
基本的には松柏、特に松がやたらとあるのです。松柏は雑木よりも比較的乾燥や病気に強いらしく、放置されてた割には状態がいいようです。
しかし、盆栽は鉢という限られた空間にしか根を張れません。生きている以上は成長し続けるわけですが、鉢いっぱいに根を張ってしまうとはいそこまで。
水をやっても吸い込めず、あとは枯れるしかありません。そこで、何年かに一度、鉢から抜き、余分な根を掻き取って、新しい土を入れる必要があります。
もう2年もサボっていますから、端から植え替えてやらねばなりません。しかし初夏には新芽が伸びてきますから、5月いっぱいがリミット。
どこまでやれるかわからないけど、とりあえず枯れ枝の目立つ大物の五葉松から着手。
だいぶ枯れ枝が目立ち、根元にも雑草や苔がびっしり。まずはこの枯れ枝を落としていきます。
枝を矯めるための針金がぐるぐる巻き付けられていますが、ごっついペンチのような鋏で針金ごとバシバシ切る。すっかり枯れているので簡単に切れます。
形を整えるのはまだ無理なので、そこはまあ、いずれ、ということで、太い枝はミニチュアみたいなチビのこぎりでがしがし。
枯枝の始末をしたら、今度は鉢から引っこ抜きます。安定させるために鉢底から通して縛った針金をほどき、えいやっと引っ張りますが、なかなか抜けない。
こういうときは樹脂製のソフトな玄能(カナヅチみたいなもの)で、鉢のふちをコンコン叩いてやると抜けます。父がやってるの見てました。
抜けないのも道理で、鉢の形に押し固めたような根っこがみっしり。こいつを手鉤で引っ掻いていくと、余分なひげ根がぼろぼろ剥がれ落ちます。
全体の半分ほども掻き落としたでしょうか。やりすぎると大事な根まで傷つけるので最初はおっかなびっくりです。
鉢に戻し、鉢底の穴にもう一度針金を通して、根塊を縛り付けて固定します。新しい土は赤玉土に桐生砂という盆栽用の粗い砂を10対1でブレンドしたもの。
これも病院の父から指令が出ています。そうだなあ、乾燥レンズ豆くらいの粒ですかね。かなり粗くザラザラした土です。
ストックしてある赤玉土が残り少なくなってきたので、掻き落とした土を再利用したらダメ?と父に訊いたら、「ケチケチすんな」と怒られました(笑)。
古い土には病原菌のリスクがあり、一度広げて日光消毒しないといけないそうです。めんどくさ!パス!
まだぐらぐらの幹を抑えながら新しい土を入れていき、根の周りや鉢の隅に隙間ができないよう、使い古しの箸でグサグサつついて土を送り込みます。
これが結構根気のいる作業で、木がぐらつかなくなるまで続けます。これでよし、となったら水を張ったバットに漬け、鉢全体が水を吸うまで置きます。
はい、一丁上がり。どうかな、違いがわかりますかね。
次はまだ小さい真柏に着手。これもだいぶ傷んでます。
小さいながらやはり鉢いっぱいに根を張っていて、ご覧の通り引っこ抜いても鉢の形を保ってます。
これをまた引っ掻いて、縮こまった根もよくほぐします。根っこの乗っている丸い台は回転台です。くるくる回して全方向から木を見ることができます。
こちらもお化粧直しが完了しました。枯枝がないぶん、いくらかマシな姿じゃないでしょうか。
この調子で一日数鉢ずつ植え替えしまくりましたが、父から5月30日に「もうやめとけ」とストップがかかりました。
ギリギリ31日まで粘りましたが、タイムアウト。一人で動かせない大物が10鉢くらい残っちゃった。数えてみたら植え替え完了したのは28鉢でした。
さてそれから1ヶ月。もしやみんな枯れてしまうのではないかとドキドキでしたが、なんとかぼちぼち新芽が出てきました。
明らかに新芽が出てこず、葉の色が冴えなくなってきた枝もあります。それらは秋ごろには枯れてしまうかもしれませんが、まあ、それはそれで仕方ない。
秋には雑木の葉が落ちるので、そっちも手入れしなきゃ。頭が枯れてカッコ悪い楓やサツキ、枝の徒長した木瓜や姫柿、うわあ、あと何鉢あるんだ…。
とかなんとか言いながら、自分で手を入れてみると、これまでイヤイヤやっていた水やりも、ちょっと晴れが続くといそいそ励むようになりました。
ようし、来年の春からは、針金を使って形を整える作業に挑戦しよう、などとひそかに決意している今日このごろです。
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