スタッフN村による着物コラム
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うーのはなーの匂う垣根に、ほーととぎーす早も来鳴きて、と歌いだしたくなるような光景です。
5月の末、青梅市の小澤酒造が経営する澤乃井園の一角に咲いていました。
この花、家の周りではそこら中に自生していて、裏山にも大きな一株があるんですが、日当たりが良すぎてこの時期にはもう散りかかってました。
山の中にあると、初夏にはヤマボウシやらニセアカシアやら、緑の中にやたら白い花ばかり咲くので、あーなんか白い花が咲いてるなーとしか思いませんが、
近くで見ると、ほのかな甘い香りとともに「夏は来ぬ」のメロディが聞こえてくるようで、人の生活の近くにあってこその花だなあと思います。
そして、あ、最近おから料理食べてないな、今夜炊いてみようかな、と思うのは私だけでしょうか(笑)。
80.櫛かんざしと手描き友禅
80回ですが特段イベントがなく、困っていたところ、新聞折込の多摩地域のミニコミ紙に、地元青梅の友禅作家の展示会が紹介されていました。
裏道をくねくね走れば車で20分ほどのところなので、ちょっと覗いてみることにしました。
会場の櫛かんざし美術館は、青梅の銘酒・澤乃井の醸造元、小澤酒造が作った文字通り櫛とかんざしの美術館です。
青梅線の沢井駅一帯は、小澤酒造の酒蔵を中心に、豆腐懐石の「ままごとや」、カジュアル版の「豆らく」。清流ガーデン澤乃井園、当美術館が林立し、
美しく整備された庭や遊歩道もあるさながら澤乃井王国です。「ままごとや」でのランチのついでに一度見学したことがあったなあ。
沢井駅から多摩川の上流をはさんで、対岸に美術館はあります。平日の午前中とあって、駐車場も館内もガラガラ。
チケット売り場にはテレ東の『充電させてもらえませんか?』のスイカシールと、出川哲朗と小池都知事の写真が。来たんだな、充電しに。
川沿いの崖っぷちに建っているので、建物は懸崖作りになっていて、展示室へは階段で下っていきます。第一展示室には江戸時代の櫛笄、かんざしがズラリ。
根付や印籠、矢立に筥迫と、時代劇に出てくる小物は一通りそろってます。象牙やべっ甲など、今では手に入らない材料の豪華な装身具がいっぱい。
ミニチュアのカツラも展示され、櫛や笄がどのように使われたのかわかるようになってます。勝山髷だの片はずしだの銀杏返しだの、
時代小説でなんとなく読み流している髪型をリアルに見ることができます。ただどこの毛をどうやればこうなるのか、やっぱりよくわからない(笑)。
表に卍、裏側にクルスが彫られた象牙の簪と笄があり、隠れキリシタンのものだというんですが、
人から見えるようなものにわざわざキリシタンでございという模様をつけますかね。まして象牙の笄を使うような富裕層で。
クリスチャンでもないのにクルスのペンダントつけるような、ファッション感覚じゃないのかなあ。隠れキリシタンの遺物にしてはチャラい気がします。
皇女和宮着用の打ち掛けも展示されてます。見事な刺繍ですが、ちっちゃ! 現代なら小学4年生くらいのサイズじゃないでしょうか。
さらに階段を降ると、次は明治大正昭和の部屋。これが案外面白い。急速に西洋文化が流入し、従来の日本髪が廃れていった時代。
夜会巻きやら、はいからさんが通るに出てきたようなマーガレットやら、洋髪のカツラが展示され、現代でも使えそうなアクセサリーのあれこれ。
鹿鳴館の貴婦人が持つようなパーティーバッグや、コンパクト、携帯化粧セット、ガラスペンや万年筆、どれもゴージャスで凝った造り。
セルロイドやビーズ製のものとか、つまみ細工の花かんざしなどもあり、江戸時代よりややチープだけど、可愛くてつい欲しくなってしまいます。
時代物の漫画や小説、映画を志す方には必見です。つか、ちゃんと見に来いと言いたい作家が多すぎ…いやまあそれはおいといて、と。
目的の友禅作品は、最後の展示室にありました。腰原きもの工房という、ここ沢井からも近い柚木町を拠点にしている友禅工房。
江戸友禅を学び、青梅の自然に惹かれて移住した腰原淳策氏と、子息の英吾氏とその夫人の信子氏三人で制作しているそうです。
写真の大振袖は英吾氏の作品で、京とも加賀とも江戸とも違う、独特の表現です。色焼箔ということなので、糸目友禅と違ってカクカクしてますね。
大振袖はもう一点、写実な菊がびっしり書き込まれた落ち着いた雰囲気のものもありました。そちらは淳策氏作だったかな。
着物はあと格天井模様の黒留袖に、紅葉の総柄の小紋。小紋は信子氏の作で、渋い赤でびっしりと紅葉が描き込まれていました。
帯はご覧のように、加賀っぽい写実から、モダンアートっぽいものや、外国の陶器のような絵柄まで、実にさまざまな作風。
思ったより展示数が少なくて、いささか拍子抜けではありましたが、地元にこんな工房があることを知って、なんだか嬉しくなりました。
柚木町近辺では、昨今こうした染色や陶芸などの作家が移住してきて、ちょっとしたアーティスト村になりつつあるようです。
青梅なんて文化果つるところと思って育ってきた私ですが、最近地元を見直しつつあるところです。
お昼時が近づいてきたので、対岸の澤乃井園に行ってみることにしました。美術館の脇を下って、吊橋を渡る途中、冒頭の卯の花が咲いていました。
橋の袂にある瀟洒な建物が「ままごとや」です。こちらは要予約で、ランチでもン千円の高級店なのでパス。
一度行ったことがあるけど、多摩川を眺めながら懐石料理をいただける優雅なお店。皇太子時代の上皇陛下ご夫妻がいらしたこともあるそうです。
出川哲朗から上皇ご夫妻まで、振れ幅デカすぎ(笑)。ややカジュアルな豆腐料理の「豆らく」もありますが、ここもひとりランチはちょっとサビシイ。
清流ガーデンは屋外テーブルやあずまやで、軽食ともちろん澤乃井が味わえるお気楽スペース。いいや、売店のお蕎麦で。
売店にはお土産の酒、ツマミも充実していて、車でなかったらついあれこれ注文してしまいそう。
これから梅の季節とあって、梅酒用の澤乃井(アルコール度数20°!)を売っていたので、日本酒の梅酒を作りたがっていた友人のために一本ゲット。
驚いたことに、こんな東京のハズレにも中国人観光客の小団体の姿がありました。リピーターが増えて、メジャーな観光地以外に行きたがる人が多いとか。
確かに、東京都心から車でも電車でも1時間半、酒蔵見学に懐石料理、遊歩道をひと駅ぶん歩けば御岳渓谷、案外穴場かもしれませんね。
なんだか青梅観光案内みたいになっちゃいましたが、最後にひと言。澤乃井は辛口でキレのある旨い酒です。これだけは昔から自慢でした。
別に私は小澤酒造の親戚でも回し者でもありませんが(笑)、あしからず。
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