スタッフN村による着物コラム
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一緒に落語会に行く友人が、近く台湾に遊びに行くというので、壮行会(?)を兼ねて鼎泰豊(ディンタイフォン)でランチということになりました。
鼎泰豊は小籠包で有名な台北の名店で、かつて新宿高島屋に初の海外支店ができたときはそりゃあもう大騒ぎでした。
私は台北本店に2度行っている(エヘン)ので、新宿高島屋の大行列を横目で眺めながら、ま、本店とは違うよねーなどと嘯いておりました。
しかしそれももう20年ほど前の話。本店の味などすっかり忘れ果て、鼎泰豊の支店もあっちこっちにできて、そう希少価値もなくなっています。
今回は立川のたましんRISURUホールの落語会なので、立川高島屋支店。友人が開店前に並んでくれたのですんなり入れましたが、
少し遅れた私が店に着くと、すでに行列ができてました。本店にはないはずの麺類のメニューもあり、それがなかなか美味しいのがなぜか口惜しい。
もちろん小籠包は相変わらず美味しかった。出てくるなりすぐにパクパク食べてしまって写真を撮り忘れ、こんなんしかなくてスミマセン(笑)。
76.新春たちかわ寄席・小遊三、昇太二人会
ちょっと鼎泰豊の話、続けます。20年ほど前訪れた台北の本店は、狭いフロアが5〜6階重なる(うろ覚え)古びたビルでした。
今はどうなってるかわかりませんが、当時も一時間近く並んでやっと座れたような記憶があります。
台湾を訪れたメル・ギブソンが全店貸し切りにしたなんて話も聞きました。現地の知り合いが勧めてくれた蓋付きの器の蒸しスープが美味しかったなあ。
それは日本支店にはないみたいですが、やはり知り合いお勧めのあんこ入りの甘い小籠包はメニューにありました。
麺と小籠包のランチセットを食べたあとでしたが迷わずオーダー。上品な甘さで、3人がかりですからあっという間に胃袋に消えました。
行く機会のある方、ぜひご賞味を。お饅頭もあるけど、小籠包がおすすめです。友人は本店には絶対に行くと決意表明。
せっかく行くなら夜市の屋台巡りをしなきゃとか、故宮博物館は最低半日かけろとか、台湾談義をしているうちに落語会の時間が迫ってきました。
店を出たのが12時過ぎ、土曜日のお昼時でもあり、店の脇のウェイティングスペースは待ち人でぎっしり。30分待ちの掲示が出てました。
徒歩では間に合いそうもなかったのでタクシーに乗り込み、当コラムではおなじみのたましんRISURUホール(旧立川市民会館)へ。
ツレの二人は高校の同窓で、うち一人は立川市出身のくせに、このホールで文化祭をやった(名門立川高校ではない、念のためw)ことを覚えてなかった。
もう一人は体操部で、ダンス演技でこのステージに立ったそうな。私はクラス演劇『走れメロス』の演出担当で、舞台袖にへばりついてました。
そういやその立川出身者は、クイーンとベイ・シティ・ローラーズの区別がついてなかった張本人。
1975年5月のあの日、放課後クイーンの来日公演に向かう集団を、ベイ・シティ・ローラーズ公演に行くんだと思ってたと告白しよった。
クイーンもベイシティもごっちゃだったのは、ロック小僧の男子ではなく、ロックに全然興味のない女子…
そうか、そうだったのか、そんなもんだったんだなあと思わず遠い目になりました。
(しかもそいつは『ボヘミアン・ラプソディ』観たけど全然泣けなかったとのたまった。ま、人それぞれですけどね)
還暦オバサン40数年前の思い出話はこれくらいにして、さて落語落語。
まず開口一番は昇太の弟子で前座の春風亭昇りん。昇太一人もんなのに弟子がけっこういるのな。東大出までいるとか。
あ、でも下手に家族持ちより独身の方が弟子を取るのに勝手が良いかもしれないな。世田谷に一戸建てだし(笑)。
演目は古典的新作落語の『動物園』。ラクして稼ぎたい男が、珍獣動物園のライオンとして雇われる。ぬいぐるみを着て10時4時勤務で月100万円。
飛びついた男だが、隣のホワイトタイガーの檻との柵を外され、あわや一騎打ち…ここで後ろの席のオッサンが「虎の中にも人がいるんだ」と横の妻に。
ったくよー、サゲを先に言っちゃうのがカッコいいとでも思ってんのかね。最低の野暮ジジイだな。いくら前座でもさ。初見の友人も憤慨してました。
気を取り直して、出囃子は『デイビー・クロケット』、耳慣れたメロディはもちろん昇太の登場であります。
今や国民的落語家というか、最も顔の売れてる落語家でしょうな。うちの90歳の父親は、昇太は落語家と認識してるが、志の輔は何者だかわかってない。
でも、昇太の落語をちゃんと聞いたことがある人は意外と少ないと思う。多分びっくりするよ、これ、落語なの?って。
ここで何度か取り上げてる、喬太郎、一之輔、白酒、三三などはみな師匠が正統派の大御所ですから、江戸前落語的なそれっぽい喋り方をします。
昇太の師匠は「大きなことを言うようですが春風亭柳昇といえば今や我が国ではあたし一人でして」の柳昇。そういや柳昇の古典って聴いたことないなあ。
この柳昇に昇太はとても可愛がられたそうで、ほとんど野放し。江戸前の喋り? そんなのいいからいいから、ってな調子で師匠亡き後も今日まで来た、らしい。
だからマクラも噺もおんなじ口調だし、江戸時代の空気なんか薬にしたくてもない。そのかわり、そこで起きていることはとてもわかりやすい。
今日の二人のツレはまったくの初心者で、私を落語に連れてって〜というリクエストによるもの。昇太、というのはうってつけだったなと自画自賛。
それにしても二階まで1200席が満席。先月の喬太郎が気の毒になります。笑点メンバーの御威光はやはりたいしたもんだ。
昇太のマクラの定番はやはり結婚話。最近では「僕は結婚できないんじゃなくて、結婚したくないの!」と居直ってる。今年還暦だもんねえ。
「皆さんにお聞きしますけど、結婚ってそんなにいいモンですかあ!? 独身っていいですよお。だって稼いだお金ぜーんぶ自分のモンなんですよ!」
儲かっていることをもう隠そうともしない、世田谷一戸建ての独身貴族。落語家は志ん生の昔から貧乏自慢をするものですが、ここでも昇太は新しい。
噺に入ると…おや、『時そば』じゃないか。せっかく先月の喬太郎が脱時そばだったのに…いやいや、ここはしめしめです。
なぜなら昇太の『時そば』は、東京では昇太しかやらない、とても珍しい二人バージョン。上方の『時うどん』をそばに改めたんだそうな。
普通の『時そば』は、調子のいい男がそば屋を煙に巻いて一文せしめるのを、物陰で見ていた間抜けな男が、その真似をしてかえって損をする噺。
昇太バージョンでは、はしっこいアニイが、二人合わせて十五文しか持っていないのに、まんまと十六文のそばを食いおおせる。間抜けな弟分は
「なんだアニイ、十六文持ってたんじゃないか」と感心し、アニイが「ひいふうみい…そば屋さん、今何時だい?」を何度やってみせてもわからない。
指を一所懸命折って、やっと納得するまでが大爆笑。喜びいさんで、翌日わざわざ小銭で十五文用意し、開店前のそば屋を無理やり開けさせて真似を始める。
しかしアニイがやったとおりにしかできないので、「おい、そば屋、お連れさんも一杯いかがですかって言え!」だの、
自分がアニイの袖を引っ張り、「俺も金だしてるんだから食わせてよ!」「あ〜もう三本しか残ってない〜」とせがんだ通りの一人芝居を始めるもんだから、
そば屋はだんだん薄気味悪くなり、「そ、そこに誰かいるんですか!?」と恐怖に駆られだす。
「そば屋、もう一杯いかがですかって言え!」と来たので、「も、もう結構ですから帰ってください!」と逃げ腰のそば屋によしきたとばかり、
「ちょっと細けえんだ、手え出してくんな、ひい、ふう、みい」…で、あとは普通にサゲ。
喬太郎バージョンでは、どうにも褒めようのない二軒目のそば屋のまずさが笑いどころだけど、昇太のは全編爆笑で後半はほとんどホラー。
大喜びの友人に、「君たちは今、とっても珍しい『時そば』を聴いたんだよ」と講釈しておきました。
中入りあって、膝代わりは水戸大神楽の柳貴家雪之介。この人だったかどうかわからないけど、以前見た水戸大神楽はやたら刃物を使う物騒な芸。
今回も最初はおとなしく棒の先で皿や茶碗を回していたが、そのうち抜き身の日本刀の上や、出刃包丁を三本(縦に!)重ねて回したりという恐怖の太神楽。
こうして舞台を見ていてもヒヤヒヤもんですが、稽古風景を想像すると背筋も凍る思いです。
トリは落語芸術協会のお尻をふく会長、三遊亭小遊三。笑点では一解答者ですが、芸協では先輩でふく…いや副会長ですからこちらがトリです。
ご存知大月出身の小遊三、どうやら明治大学の先輩らしいのですが、大月—御茶ノ水なら中央線一本の乗り換え無し、間を取るのが立川で、
「学生時代、初めてストリップ劇場に入ったのが立川で…」と軽くシモネタをかまし、「昇太はもう浅草演芸ホールへ向かいました。稼ぐねえー」
「でもたしかに、稼いだ金が全部自分のもの、ってのはいいですねえ」と昇太のマクラを受けて笑いを取る。
小遊三はああ見えて(どう見えてるんだ!)古典落語をきっちり演じる派なので、噺は『金明竹』。トリネタとしてはちょっと軽いかな。
いつだったか誰かのを書いたなとバックナンバーを確認したら、当コラム31で柳家三三バージョンを詳述してました。
そしたらなんとその回は喬太郎の『時そば』、さらに太神楽は柳貴家雪之介。その頃は面倒臭がらず(笑)細かく書いてます。
よろしかったらご参照ください。ご参照頂いたつもりで、この『金明竹』、大阪弁の言い立てのところで拍手するのはいかがなもんですかね。
小遊三は特別早口でもなかったけど、覚えたての前座さんならともかく、いいベテランにいちいち拍手が来るのは本人も面映いんじゃないかいな。
前も書いてますが、あくまで言伝として、噛んで含めるようにゆっくりしゃべって、それでも意味のわからない小三治の『金明竹』はやっぱスゴイ(笑)。
サゲのためには「古池や蛙飛びこむ水の音」だけ聞き取れてればいいので、これを昇太がやるとどうなるのかちょっと興味あり。聴いたことないけどね。
(笑点で、圓楽が昇太に「『芝浜』できねえんだろー」と事あるごとに突っ込むが、今度『金明竹』できるかどうか突っ込んでほしいw)
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