スタッフN村による着物コラム
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なんだか超駆け足の春でしたね。近所に花の名所がいろいろあって、ここでもいくつかとりあげているのですが、今回は初めてご紹介の山桜です。
きれいに下草が刈られた野原に、一本だけどおーんとそびえる山桜。かつての小学校の通学路近くにあるんですが、子供の頃は気がつかなかった…
ってあったりまえで、今から半世紀前じゃまだ若木だわな。気がついたらこーんな立派になって、この〜木なんの木桜の木〜と歌いたくなる景色。
天然の山桜はたいてい山の中腹や険しい崖の上にあり、遠目にぼんやり眺めるのが常で、こんな平地に伸び伸び枝を広げた大木は珍しいのです。
私有地なので勝手に入り込めませんが、この木の下でビール片手に寝っ転がったらどんなに気持ちよかろうと、毎年憧れてる桜です。
願はくは花の下にてわれ酔はむ、ですな。
69.「早春落語会」in飯能
今月は落語です。何度かここでもレポしてますが、隣県で隣町の飯能市民会館で、しばしば魅力的な落語会が開催されます。
残念ながら私の住む青梅市はあんまり文化程度が高くないのか(笑)、市民会館の落語会なんて年に一回あるかないか。しかもあまりそそられない人選。
県境越えても車で10分余りの飯能へちょいちょい出かけます。しかし車でひょいっと出かけるのにわざわざ着物も着ちゃいられません。
一応着物コラムなんで、同月大学の先輩の某賞受賞パーティーに出かけた時の写真をアップしておきます。
着物は京都塩野屋の矢絣お召し。矢絣ですが白地にグレーの濃淡なので、あんまり若作りにはならないかと。
帯は日本橋の問屋のバーゲンでゲットした、多分袋帯の半端布だと思いますが、黒地に市松状の古典柄を二部式名古屋に仕立てた織帯。
写真じゃ黒にしか見えませんが、緑、藍、紫、臙脂で有栖川や荒磯や青海波を一色ごとに織り分けてあって、結構重宝な帯です
羽織は母の村山大島(50年ものくらい)、羽織紐はトルコのブレスレット、バッグは昔ソウルの仁寺洞で買ったシルクの手提げ。
着物はどっしり重たい縮緬ですが、他は例によってあっちこっち安く上げてるなんちゃってコーデです。
さて落語会の方は、三遊亭兼好、林家彦いち、柳家喬太郎に紙切りの林家二楽というそれなりのメンバーですが、当日券ありといういささか寂しい状況。
笑点メンバーがいないと、田舎じゃなかなかソールドアウトにはならないか。私も発売後2か月も経って知って、あわてて買いに行ったのにそこそこ良席。
1月の小金井に続いて喬太郎、彦いちです。チラシの写真も同じだなあ。ネタは同じじゃないことを願いたいものです。
当日券ありというので、出演者のやる気が削がれるくらいガラガラだったらどうしようと心配しましたが、目立つほどの空席はなく、ひと安心。
開口一番は柳家寿伴の『牛ほめ』。柳家だけど喬太郎が弟子を取ったとは聞かないなあ、と調べたら師匠は柳家三寿という人。師匠から知らんわ。
続いて兼好。この人は笑点メンバーピンクの好楽の弟子で、ということは三遊亭円楽一門会所属。円楽一門があまり好きじゃないので聞く機会がなかった。
念のため、東京で定席の寄席に出られるのは落語協会、落語芸術協会のみで、上方落語協会、立川流、円楽一門会は出られません(国立演芸場を除く)。
しかし兼好は、柳家喬太郎、三遊亭歌武蔵(ややこしいがこっちは円歌一門で、落語協会所属)が亡き柳家喜多八と組んでいたユニット「落語教育委員会」に、
喜多八亡き後のメンバーとして参加。円楽以外は比較的地味な円楽一門の中で、めきめき目立って来ている…らしい。
やや早口で、軽快に飯能の良さを挙げていく。いわく、都心から近くはないが、着いたら疲れて落語やるのがイヤになるほど遠くもない、
客層はそう若くもないが、拍手が出来ないほど衰弱してもいない、あとなんだったっけ、まあ大変ほどのいい会場だと微妙な褒め方。
最近いろいろ話題になる(円楽師匠を始めw)不倫ネタ、調べてみたら不倫は人の道に外れたこと、浮気はふわふわと浮かれる心だというんで、
不倫は良くないけど浮気はいいんじゃないですかねえ、と振ってネタは『権助魚』。
さる大店の奥様が、近頃旦那の様子がそわそわとおかしいってんで、お付きの権助を呼び、旦那に女が出来たんじゃないかと問いつめる。
はあ、そだなことはごぜえません、権助なーも知りませんと答えるが、奥様は、お小遣いに一円やるから好きなものを買ってお食べ。
はあ、権助今川焼がでーえ好きでごぜえます。で、相手はいくつくらいでどこなんだい、そのうちは。
へえ、お店を出ましてまーっすぐ行って三河屋さんの脇を入って四軒目、十銭で三つだったかな? 今川焼の話をしてるんじゃないよ!
わーかりました、権助奥様の味方でごぜえますと、床屋から戻って出かける旦那の後をぴたっと付いて歩き、いつものように撒かれたりしない。
ははーん、女房に一円ももらって旦那の行き先を突き止めろと言われたな。よし、二円やるからあたしの言う通りにするんだぞ、
はー、二円もらったら権助おめさまの味方だあとあっさり寝返る。旦那はばったり知り合いに会って、一緒に網打ちに行き、大漁になったので、
柳原へ上がって芸者幇間を総揚げでどんちゃん騒ぎ、そのまま湯河原へ繰り出したので今夜はお帰りになりません。
ついてはそれだけでは女房が信用しないから、魚屋へ寄って網打ちの魚を買って帰るんだぞ。はあ、それでその魚のお代はこの二円から出すんだべか?
わかったわかった、魚代にもう一円やるから頼んだぞってんで、魚屋へ行くが山育ちの権助、どれが何やらさっぱりわからない。
店の若い衆に、これは? ニシンだ。網で取れたんかね? おうよ。じゃこれくだせ。これは? スケソウダラだ。網で取れたかね? うん、まあな。
てな調子で、ついにはメザシ、タコ、カマボコまで買って帰る。意気揚々と帰って来た権助を、奥様がそそくさと呼び入れ、問いつめる。
旦那に言われた通りの口上を述べると奥様、おかしいじゃないか、お前が出て行ったのは2時だよ。今2時15分、どうやってそれだけのことができるんだい。
いーやホントなんでごぜえますよ、それが証拠に網で取れた魚を持って帰って来ましただ。ってんで並べるのがさっきの魚たち。
お前ねえ、ニシンやスケソウダラなんて、関東一円の海じゃ取れっこないだろう、いんや、一円でお釣りが来ましただ、がサゲ。
この権助のキャラクターがめちゃくちゃチャーミング。朴訥そうでちゃっかりしたたか。もの知らずだが弁が立つので、発想があさっての方向にぶっ飛ぶ。
ニシンとタラは連れ立って北海道の海からお江戸見物に来た所を捕まえ、タコはふんどしをどこに締めたらいいのかわからず、
ブルブルふるえているのをお湯につけたら真っ赤になり、カマボコは泳げないので板きれにつかまってぷかぷか浮いてるのを権助が手づかみでつかまえた!
以前春風亭昇太で聞いた時もすごく笑ったんだけど、昇太より権助のキャラクターがしっかり立ってて、兼好自身が権助そのものになってるというか。
どっかんどっかんウケて、ついにはこの権助が会の終りまで会場を支配することになったのです。
続いて上がった彦いちが「いやー、権助、いいですね、もう楽屋中が権助になっちゃって、はーれ喬太郎アニさんでねえですか、とかね」
と口まねを始めると客席大喜び。みんな権助のファンになっちゃってる。
彦いちは得意の創作ネタで、「ドキュメント落語」と称し、自身が京浜東北線の車中で目撃した顛末を語る『睨み合い』。
急停車した電車の車内、二人連れのサラリーマンがなにげなく「人身事故かもな」「きっと人身事故ですよ」
すると向かいの席のオバさん二人が「人身事故ですって」「人身事故!人身事故よ!」と騒ぎ出し、ヘッドホンつけっぱなしの危ない若者がキレかかる…
それを同じ車内にいた彦いちが実況中継風に語って行くんだけど、兼好がウケすぎたせいかイマイチ客席がついていけてない。
ま、私もあまりこの人は評価してないし、ここはさらっと流そう。
仲入りあって、紙切りの林家二楽。小手調べで桃太郎を切り、プロジェクターで大写しにし、切り離した方をB面と呼んで両方観客に渡すのもいつも通り。
さてお題を頂戴、まずは花見のリクエストを切って見せ、続くリクエストは「パンダの親子!」と「権助!」が同時にかかる。
「権助、って落語には権助たくさん出て来ますけど、権助提灯ですか?」初老の客は「権助、権助」と連呼。見かねた他の客が「権助魚!」と助け舟。
おやっさん、演目の名前を知らなかったらしい。たしかに落語では下男と言えば権助、アホは与太郎、大工は熊さん、家老は三太夫とだいたい決まってる。
しかしこの会場ではすでにさっきの兼好の権助がキャラとして一人歩きしてるんだな。難しそうだけど権助が奥様の前に魚を並べてる絵を見事に切り出した。
続いてパンダの親子を切りながら、どうして体を前後に揺らしながら切るのかと語り出し、ぴたっと動きを止めてちまちま鋏だけを動かすのもお約束。
お囃子も止み、照明まで暗くなり、ね?やっぱり揺らしてた方がやりいいんですよと笑いを取る。
いつも通りの語りだけど、毎回切ってるお題が違うので何度見ても飽きない。この語りも芸のうちなので、切ってる間べちゃべちゃしゃべるな隣の客!
さてトリは喬太郎。こないだのオリンピックね、なぜかあたしはカナダでやってると思いこんでたんですよ、平昌、平尾昌晃、カナダからの手紙…
ってんで「ラーブレターフロムカナーダー♪」と歌い出すと、客席から手拍子。「もしもあなたがーいっしょにいたーらー」手拍子さらに大きくなる。
ついに立ち上がってワンコーラス歌いきった。「さすが飯能のお客様は反応がいい」。客席大喜びで、続いてはこないだ小金井でもやってた「北」ネタ。
あの国の若旦那に日本から幇間を送り込んでヨイショしまくり、核を放棄させるってやつ、こないだよりまとまってたけど、やっぱりあまりウケない。
「こういうネタ、おキライ?」と切り替えて、「西武線沿線の方はどっか東武線を下に見てません? かといって東急東横線ほど余裕はないですが」
で、西武国分寺線が東武東上線に話しかけると「いいんですか?俺なんかとしゃべってたら他の西武線に怒られませんか?」と卑屈な東武東上線。
「何言ってるんです、同じ埼玉県に向かう電車同士じゃないですか(実は国分寺線は埼玉を走ってないが)、どうです最近、東武伊勢崎線さんは」
「ああ、あいつはねえ、スカイツリーが出来てからすっかり人が変わっちまいまして…」「ちょっと!国分寺線!なに東武線なんかとしゃべってるのよ!」
「なんだよ西武新宿線、いいじゃないか別に」「なに言ってんの、あんなのとつきあってたら西武線の格が落ちるのよ!」…成増あたりじゃ絶対出来ないネタ。
このあたりでイヤな予感がし始めた。電車コントから立ち食いそばの話になり、そばに乗せられるコロッケの気持ち…あー、今回も『時そば』だあ。
喬太郎はそばつゆが染みるコロッケの姿態を身をよじって熱演、さらに任侠ソーセージ一家の抗争に話が移るが、わかっている、もう『時そば』しかないと。
「あー、こんな無駄話で持ち時間の半分使っちゃいました。で、この無駄話の後になんと! 古典落語やります!」客席は大喜びだが、あたしゃため息。
喬太郎の『時そば』は以前ここで詳しく紹介したので省略。もう10回くらい聞いてるんで耳タコ。そりゃまあ鉄板ネタだし、聴けばやっぱり笑うんだけどさ。
そっちは郊外の会でピンポイントのつもりだろうが、郊外を扇状に回ってる客もいるんだぜ。今回このネタだったらさすがにファンやめようかと思ってた。
などとぼやきつつも、6月に立川で「落語教育委員会」があるってんで、チケット買っちゃった。いや、今回の兼好が良かったからさ。
いくらなんでも6月に『時そば』はないだろう。新しいネタに出会えることを願いつつ、その日を待ちたいと思います。
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