スタッフN村による着物コラム
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この冬は、西日本では早くから雪が降っていたようですが、南関東の当地では年が明けても初雪の便りさえありませんでした。
しかし来たよ。22日、初雪がドカ雪。雨が夜更け過ぎに雪へと変わるのではなく、いきなりざんざん降りの雪。
午前中から夜半まで降り続き、翌朝測ってみたら25センチの積雪でした。
しかし4年前の2月に降った大雪は60センチに達し、我が家の屋根瓦をことごとく破壊して百ン十万円の被害をもたらしました(保険でまかなえたけど)。
あれに較べりゃどってことないです。コラム31でほぼ同じ場所の写真を掲載していますが、見直してみたらぜーんぜん、今回なんてカワイイもんです。
その代わりそのあとの寒波がハンパない。寒いから融けない、融けないから寒いの悪循環で、一週間経っても日陰の雪がそのまんま。
去年の3月に新車を買ったので、スタッドレスタイヤもさらっぴんですが、当分は過信せずに慎重に運転しないといけません。
67.『こがねい落語特選・温故知新〜革新の落語家たち』
落語です。今回はツレもなく、とんぼ帰りだったので着物は着てません。今年に入ってまだ着物に袖通してないや。
1月の落語会は着物姿の人をけっこう見かけるんですが、今回はあんまりいなかったなあ。写真を撮るチャンスもありませんでした。
さてなかなか仰々しいタイトルで、メンバーは林家彦いち、橘家文蔵、三遊亭遊雀、柳家喬太郎。革新、かあ。まあ比較的若手、ではあるな。
去年は「江戸の粋」と題して、彼らより一世代上の師匠連に混じって喬太郎がいた。あんた江戸の粋なのか革新の若手なのか、どっちなんだい。
で、去年はトップバッターで今年はトリ。主催者が彼をどう位置づけているのかよくわからん配置であります。
開口一番の前座は橘家モンロー、どんな字を書くのかと思ったら門朗だった。犬のシロが神様に願掛けして人間になる『元犬』。前座噺としちゃ珍しい。
で、一番手は彦いち。昇太、喬太郎、白鳥とかつて組んでいた「SWA(創作話芸アソシエーション)」のユニフォーム、
肩から袖にジャージ風のラインが入った高座着、まだ着てるんだ。白鳥も最近見てないがまだ着てるのかな。昇太喬太郎はもう着てないぞ。
ちなみにSWAとは昇太を中心に新作落語の創作と研究をやっていたユニットで、残念ながら今は事実上解散してしまってます。面白かったんだけどなあ。
で、彦いちのマクラ、今日の4人は前座時代、共に修行した仲で、リーダーの立前座は最も入門の早い文蔵、最も下っ端が自分である、と。
入門時の序列は一生変わらず、今も一番早く楽屋入りして、アニさんたちに何くれとなく気を遣わなければならない。
特に文蔵はその頃からコワモテで有名で、いまだに頭が上がらない、僕に出来ることはアニさんたちの飲み物にドーピング薬物を入れることくらいで…
と、ちょうどカヌー選手のドーピング事件直後だったので笑いを取る。そのまま新作落語かと思いきや、おや、古典の『反対俥』だ。
上野まで行きたい男が、お堀端で人力車をつかまえ、急いでくれよと頼むが、車夫はへろへろの老人で、梶棒を上げたり下げたりするだけで前へ進まない。
こりゃだめだとこんどは若くて威勢のいい俥屋を見つけるが、こっちは威勢が良すぎて走りもえらく荒っぽい。土管を飛び越え、電車と競争し、
しまいには大きな川にざんぶと飛び込み泳いで渡る。客は息も絶え絶え、ずいぶん田舎まで来たなあ、ここはどこだ、あっ!武蔵小金井だ!
普通は北へ向かい、上野を越えて茨城まで行ってしまったり、これじゃあ上野の最終に間に合わねえ、その代わり明日の一番に間に合います、がサゲ。
今日は会場が武蔵小金井なので、このサゲになったんでしょうが、お堀端から武蔵小金井は西だし、その間にそんな大きな川はない、ってまあそれはいいか。
この噺は俥屋がいかにメチャクチャな走りをするかが笑わせどころで、座布団の上でピョンピョン跳ねる客、上体を激しく揺らす車夫、と演者も体力勝負。
国士館大空手部出身という武闘派の彦いちにはぴったりな演目です。川を泳いで渡るというのは初めて見ました。扇子をひらひらさせて魚まで表現してた。
続いて高座には橘屋文左衛門改め文蔵。この人、一度見たいと思いつつ、なぜかご縁がなくて今回が初見。
彦いちも言ってたけど、彦いちとは別の意味の武闘派で、とにかくガラが悪くて喧嘩っ早いという噂。
出て来るなり座布団に座る前に客席をアオり、さながら元気な頃の猪木ばり。目つきも鋭く、とてもこれから演じるものが落語とは思えない殺気。
初詣に富岡八幡に行ったんですけどね、ガラガラ。何であんなにすいてるんですかねえ?とトボけて、おお、『子別れ』ときた。大ネタじゃん。
お店の番頭さんと木場へ木口を見に出かけた棟梁、かつては昼間から大酒を食らい、女房子供が出て行くと女郎を引っぱり込むようなダメ男。
結局女郎とも別れ、今は酒もやめて生業に励む棟梁は、息子の亀を見かけてつい呼び止める。聞けば女房は再婚もせず、女手一つで必死に亀を育てている。
亀も貧しさに負けず、二人で健気に生きていると知り、安堵した棟梁、亀に五十銭の小遣いをやり、明日は鰻をおごるがおっ母さんには内緒だと口止めする。
亀は五十銭の出所を母親に問いつめられ、男と男の約束だから言えないと頑張るが、母親は盗んだものと決めつけ、玄翁(大型の金槌)でぶつよと脅す。
亀は洗いざらい白状し、元亭主が酒もやめ、女とも別れて真面目に暮らしていると聞いて、母親もなんだかそわそわしながら翌日亀を鰻屋に送り出す。
いつになくお化粧などして鰻屋の前をうろうろする母親を、亀が見つけて呼び入れる。もじもじと落ち着かない元夫婦、結局縒りを戻すことになる。
「それもこれもこの子のおかげ。子は鎹ですねえ」「あたいが鎹? あ、だからおっ母さん、玄翁でぶつと言ったんだ」がサゲ。
鎹(かすがい)ってのがもうわからないかもね。二つの材木に打ち込んでつなげるコの字型の金具のことです。蝶番じゃありませんよ。
なかなか神妙で、オーソドックスな『子別れ』でした。亀の額の傷が、金持ちの息子にやられたが、母親のお得意様の子だから我慢したと聞き、
俺がおとしまえを付けてやると凄むあたりに武闘派の片鱗が垣間見えたけど、なんというか、普通にいい『子別れ』。もっとぶっとんだのを期待してたんだが。
ちなみに持ち時間を大幅にオーバーしてました。
なんで、仲入り後登場した遊雀、開口一番「なげーよ、子別れ!」で、客席爆笑。「まあね、ドーピングしちゃってるからしょうがないけど」でまた爆笑。
客席で携帯かなにかを床に落とした大きな音がすると、「集中力が足りなあーい! さっきの人なら怒って帰っちゃうよ!」とさらに爆笑。
やっぱりおっかないんだな、さっきの人。そういえばこの遊雀、今は落語芸術協会の所属だが、かつては落語協会の柳家権太楼門下で三太楼を名乗ってた。
噂では師匠とケンカして破門になり、一時は廃業かと思われたが、三遊亭小遊三門下に移って現在に至るというから、ある意味この人も武闘派か。
前座の時は落語協会なんで、文蔵に頭が上がらないみたい。ちなみに入門の順番では文蔵、遊雀、喬太郎、彦いち。一日でも早い方がアニさんとなる。
しかし真打ち昇進は喬太郎、文蔵・遊雀(三太楼)、彦いちの順。香盤(協会内の順位)はこっちで決まる。だから大トリが喬太郎で中トリが文蔵なのか。
ややこしい話はさておき、遊雀は文蔵にだいぶ時間を食われたようで、『看板のピン』を15分くらいでさらっと。この噺はいつだか紹介したので省略。
鏡味正二郎の太神楽、まあ普通にアゴの上でお茶碗積んだり傘の上でいろんなものを回して、さてトリの喬太郎。
武闘派3人のあとだと、おとなしく上品に見える。マクラは去年を表す漢字「北」、北と言えばあの国の話で、〽北へ帰る人の群れは誰も無口で〜、
ってそりゃ無口ですよねーとか、あの国に日本の誇る太鼓持ちを送り込んであの人をヨイショしまくって、ミサイル開発なんで野暮ですよ、
核放棄すりゃいよッ粋だね旦那! とかなんとか、やたら北ネタを盛り込むんだけど、あんまりシャレになってなくて笑えなかった。
「革新の落語家たち」ってサブタイだから、喬太郎くらい新作かと思ったら、「温故知新」なんで、こちらも古典、しかも『品川心中』ときた。こりゃ初めてだ。
かつては品川遊郭でトップの売れっ妓だったおそめ、寄る年波で季節の衣装替えの金に困り、いっそ死のうと考えるが、金に困って死んだと思われたくない。
適当な相手を捜して心中の形にしようと、客の中でも間抜けな貸本屋の金蔵を選び、手練手管で一緒に死んどくれと口説き落とす。
いざ死のうと夜更けの海へ出て、桟橋からまず金蔵の背をぽんと突き、ざんぶと行った後へ続こうとするおそめを廓の若い衆が止める。
馴染みの大旦那が金を拵えてくれたのでもう死ぬことはない、あらそう、金ちゃんごめんねーとおそめは帰ってしまう。
品川の海は遠浅で、突き落とされた金蔵の腰までしかない。ずぶぬれの金蔵はしかたなく芝の親分のところへ行くが、親分はご禁制の博打の真っ最中。
金蔵が雨戸を叩くとさてはお上の手が回ったかと中では大騒ぎ…で、このあと話を聞いた親分がおそめに仕返しに行くのですが、それはまた後の話、
品川心中の上でございます、と特にサゲもつけずに終わりました。じっさいこの噺の後半をやる人はほとんどいないらしい。
さて、初めて聴いた喬太郎の『品川心中』ですが…。うーん、あまり精彩がなかったなあ。口跡もなんかカミカミだし、キャラクター造型もフツー。
喬太郎ならおそめは今風のリアルなアラサー女とか、プライドこじらせたイヤミな年増とか、ユニークなキャラを期待したんだけど。
金蔵にしてもただ間抜けでぼーっとしてるだけで、いずれにしても喬太郎らしくないんだな。どうした喬太郎。忙しすぎて練り込む時間がないのか。
去年ここではいい加減聞き飽きた『時そば』で、ちょっとなあと思ったんだけど、珍しいネタで精彩がない、ってのもがっかりです。
ここんとこ新しい新作を発表してるようでもないし、新作古典の二刀流と言われた喬太郎、ちょっと中途半端になってやしませんか?
年に1、2回しか聞いてないのに何をエラソーにと言われるかもしれませんが、数年前に追っかけしてた私には、あの頃の勢いがないように思えてなりません。
もっと下の世代がぐんぐん頭角を現す中、うかうかしちゃいられませんぞ。ファンだからこそ、頑張ってほしいのです。
それにしても『品川心中』の金蔵といえば映画『幕末太陽伝』の小沢昭一です。噺を聞きながら、頭の中では小沢昭一と左幸子が駆け回ってました。
うーん、やっぱり名作、名優です。『品川心中』と『居残り佐平二』は、あの映画を超えるものでなくっちゃ。
そういや、Eテレで「超入門!落語THE MOVIE」なんて番組があって、落語に役者の映像をつけてます。
余計なお世話だと思ってあまり見てないんですが、今回は脳内「落語THE MOVIE」でしたわ。映像は超贅沢だったけどね(笑)。
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