スタッフN村による着物コラム

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うふふ、新車だよー。三月の末に我が家にやって来て、今日は初洗車であります。

この時期は洗っても洗っても花粉まみれになって無駄なので、1ヶ月以上洗ってやってませんでした。

最初の車はいとこのお下がりのスターレットでしたが、次はエスクード・ノマド、シボレー・クルーズ(中身はスイフト)、ラパンと来て今度はハスラー。

メーカーから感謝状の一つももらいたいくらいスズキの車ばっかりです。なぜかみんな私好みのデザインとコンセプトど真ん中なんだよね。

ハスラーは発売直後に一目惚れ。ラパンの車検を一期我慢して、待望の購入となりました。カラーバリエも増えたけど、結局一目惚れの青白ツートンです。

これから10年乗るつもりですが、次に買うとしたらもう自動運転車になってるんでしょうか。それとも私が免許返上してるのかなあ…。

 

59.歌舞伎『伊賀越道中双六』鑑賞

4月は晏の展示会があったり、種まき植え付けと畑仕事が忙しかったりで、更新がままならず、3月のレポを5月に挙げることになってしまいました。

いやーそれにしてもひっさしぶりの歌舞伎です。国立だけど。いまだに新しい歌舞伎座に足を踏み入れてない私。

今回は国宝中村吉右衛門が一昨年演じて大評判をとった舞台の再演ってことで、国立劇場あぜくら会員先行ネット予約でチケットを確保。

国立劇場は前方上手下手の見づらい席を2等席として安く売ってます。7列52番が5000円(会員なのでさらに1割引)は安い! 国立エラい!

歌舞伎座ならがっつり2万円取られる席です。ありがたし。しかし国立歌舞伎はいつもガラガラなんですが、今回は平日でもほぼ満席。さすが国宝効果。

着物仲間のTさんと一緒だったので、私は着物で出かけましたが、引っ越し準備で忙しいTさんは洋服。こら、裏切り者!

しかし、休憩時間に偶然出会った同じく着物仲間のMさんが、ちゃんと着物で見えてました。春らしい花柄を結城紬地に辻が花で染め出した着物に織の帯で。

私は黄色基調の格子の紬に、しょっちゅう出て来る祖父の村山大島の羽織、帯は母のお下がりを京都のカクマさんで二部式に直した織帯。

臙脂地に黒と金のユーモラスな丸っこい竜の模様なんですが、少し幅が狭かったので、黒で足し布をしてもらったら、意外に面白いデザインになりました。

ちなみにバッグは叔母が刺繍した布を姉がバッグに作ってくれたもの。一家眷属総動員で成り立ってる私の着物ライフ(笑)。

さて、歌舞伎です。久しぶりなんで、いろんな人の名前が襲名で変わってたり、ちびっこだった御曹司たちが成長してたり、けっこう新鮮な感じ。

この『伊賀越道中双六』は、当コラムNo.28で、文楽の通し上演をレポしています。その時は脇筋の「沼津」の段メインで見ました。

今回のメインは本筋の「岡崎」の段です。日本三大仇討ちと言われる中の一つ「鍵屋の辻」、荒木又右衛門(劇中では唐木政右衛門)のお話です。

しかし三大仇討ちと言われても、曽我兄弟と忠臣蔵はまあわかるとして、知らんよなあ、鍵屋の辻なんて。荒木又右衛門って、箸でハエ捕まえる人だっけ?

あ、それは宮本武蔵か。まあ、その程度の認識で見始めたわけですが、どうにもこの仇討ちっていうのが感情移入できない代物でして。

主人公の唐木政右衛門はそもそも仇討ちの当人ですらないんです。悪党の沢井股五郎に殺された和田行家は政右衛門の妻・お谷の父。

しかし二人は駆け落ちで一緒になったのでお谷は勘当中。政右衛門は和田家の婿として認められていないんですね。

仇討ちをするのはお谷の弟・和田志津馬ですが、これが遊女の身請けのためにお家の宝刀を質入れするようなバカ息子。

政右衛門は名高い剣豪なので助太刀を頼まれますが、勘当中のお谷の夫ではそうもいかないらしく、身重のお谷を離別して幼いその妹の婿になります。

この離別・再婚のくだりは今回の歌舞伎では割愛。前回文楽で見ましたが、そこまでするかあ? という?が頭の中でぐるぐる。

しかし今回の?はそんなもんじゃなかった。まあそのへんはおいおい。

あ、配役は政右衛門が国宝吉右衛門、お谷はこないだ五代目を襲名した中村雀右衛門、志津馬が尾上菊之助、股五郎は中村錦之助です。

思えば私が歌舞伎から遠ざかってる間に吉右衛門は国宝に、芝雀は雀右衛門となり、菊之助は吉右衛門の娘婿になって子供まで作っていたのだった。

序幕、二幕は文楽と重複しているので細かいことは省きます。まあ、志津馬と政右衛門は逃げた仇の股五郎を探し求めていると思って下さい。

東海道藤川の新関にある茶店。ここで政右衛門と落ち合う手はずの志津馬がやってくる。茶店の娘・お袖(中村米吉)はイケメン志津馬に一目惚れ。

デレるお袖の父が関所の下役人と知り、通行手形を持たない志津馬は関所を抜ける裏道を教えてほしいと頼み込む。

そこへ股五郎方の奴・助平(中村又五郎)が密書を持って現れる。お袖を口説き始めた助平は、茶店のアトラクション・遠眼鏡を勧められ、夢中になる。

なじみの女郎の浮気現場を見てしまった助平がキーッと悶えよじれる隙に、志津馬は密書を、お袖は通行手形を盗み取り、志津馬に渡す。

お袖の案内で志津馬が関所を抜けると、仇の沢井股五郎が女乗り物で通過。夕暮れの鐘が鳴り、関が閉められたところに政右衛門が仇を追って来る。

一足遅かったが今仇を見失うわけにはいかないと、抜け道を求めて竹薮へ分け入る政右衛門。開幕後1時間以上経ってようやく国宝の登場です。

国宝、いや政右衛門は雪の降る中、竹薮の鳴子で関所破りがバレ、捕り手に囲まれるがこれを巧みにかわす。あとをつけて来た助平はあえなくお縄。

関所を抜けた志津馬はお袖の実家にやってくる。お袖は母のおつや(東蔵)に志津馬を泊めてくれるよう頼むが、母は許嫁のあるお袖の願いを聞き入れない。

志津馬は沢井股五郎を詐称し、さっき盗んだ密書の宛人の山田幸兵衛を探していると偽ると、その幸兵衛(歌六)こそお袖の父。

さらに顔を見たこともないお袖の許嫁が沢井股五郎なので、お袖も母も舞い上がり、すぐに祝言をと志津馬は離れに案内される。

折しも山田家の前で捕り手と大立ち回りを演じる政右衛門。その巧みな技を見て、幸兵衛は政右衛門がかつて武術を教えた弟子の庄太郎だと気付く。

15年ぶりの再会を喜ぶ師弟、おつやもかつて手元で育てた少年の成長を喜び、婿の股五郎の後ろ盾になってくれと頼む。

政右衛門は正体を隠して承知、股五郎との対面を望むが、家内にスパイが潜むのに気付いた幸兵衛は行方は知らぬととぼけ、庄屋の呼び出しで外出。

おつやと二人になった政右衛門は、莨(たばこ)刻み(煙管で吸うタバコの葉を押切で刻む)をしながら昔を懐かしむ。

そこへ哀れ子連れの巡礼となった政右衛門の元妻・お谷が門口へ。癪を起こして軒下で休もうとするのを夜回りに見とがめられ、

その騒ぎに戸をあけた政右衛門はお谷を見てびっくり。中へ入れようとするおつやを止め、お谷の嘆きも赤子の声も聞こえぬふりで莨を刻む。

ついに見かねたおつやが赤子を取り上げ、こたつで温めてやろうと奥へ入ると、政右衛門はお谷を外へ引き出し、火を焚いて温め薬を飲ませる。

心づいたお谷が会いたかったと縋り付くが、些細なことから素性が知れ、大望の妨げになってはいかんとお谷に立ち去るよう頼む。

赤子が保護されたと知ってお谷が立ち去ろうとするところへ幸兵衛が帰宅、政右衛門はお谷を物陰に隠す。

おつやが赤子の臍の緒書き(出生証明書)を持って出て来る。「唐木政右衛門倅、巳之助」とあり、敵の子を人質に取ったと喜ぶ幸兵衛。

政右衛門は赤子を引き寄せ、喉元を小柄で突いて殺し、武士の果たし合いに人質は無用、敵の子を殺すのは股五郎への助力の証と言い放つ。

無情にも赤子の骸を縁から投げ捨てる政右衛門を見て、幸兵衛はおつやに股五郎(実は志津馬)を呼び出させる。互いに驚く二人。

幸兵衛はすでに二人の正体を見抜いていて、我が子を殺してまで大望を遂げようとする弟子に心打たれ、股五郎への助力をやめると告げる。

幸兵衛に招じ入れられたお谷は我が子の亡骸を抱いて慟哭。幸兵衛は先ほど庄屋の屋敷で会った股五郎の行く先を教える。

いざ出立と意気込む志津馬を尼姿のお袖が見送る。幸兵衛はつづらに潜んだスパイを斬り、門出を祝う。政右衛門がその刀を拭い、師の好意に感謝する。

 

…以上、「岡崎」の段であります。これでも出来る限り簡略化したつもりです。読んでる方もかったるいでしょうが、書く方も面倒です。

たった一段のストーリーを説明するのにどんだけ字数が要るんだ。あまりにもエピソードてんこ盛りで省略しようがないのです。

このあとは本来クライマックスのはずの伊賀上野仇討ちの場なんですが、チャンチャンバラバラやってるだけで、さしたる見どころはありません。

さて問題は、岡崎山田幸兵衛住家の場です。そりゃまあ、そこは国宝、莨切りの場面なんぞ、悲しみをぐっとこらえたその演技、さすがではあります。

しかーし! 国宝の名演技をもってしても、この唐木政右衛門という人物のやることなすこと、ぜんっぜん共感できない。

たかが仇討ちの助っ人のために身重の妻を離別した上に、雪の中赤子を抱えて苦しむのを放置し、あげくの果てに我が子を刺し殺し投げ捨てる。

しかもこれすべて大恩ある師を欺くためのお芝居。彼の行動原理が忠なのか孝なのか、しいて言うなら義、なのか、さっぱりわからない。

新聞でもネットでも劇評は大絶賛。脇役も手堅く、再演のカンパニーなので役がそれぞれ手に入っていて、舞台としてはよかったですよ。

でもなあ、この演目、脇筋の「沼津」に較べてほとんど上演されないのもむべなるかな。無理筋でぐっとこらえられても泣けません。

「沼津」では幼くして別れた息子に、父親が娘婿の仇(股五郎)の行方を聞き出すために腹を切る。忠義や義理ではなく、親子の情が胸を打ちます。

伊賀越は沼津に限る、前回もそんなことを言ったような気がしますが、今回確信に変わりました。

国宝以外の役者についていくつか。今回ビックリしたのはお袖の中村米吉。かーわいいのなんのって。私が歌舞伎にハマってた頃はまだおちびちゃんでした。

きゃぴきゃぴのギャル、ギャルっすよ。いやーいい女形が出て来たもんだ。菊之助は最近立役が多いみたい。クールビューティは父となっても変わりません。

雀右衛門はますます先代に似て来ましたねえ。吉右衛門一座の立女形ですな。歌六、東蔵は安定の老け役。錦之助は白塗りの悪役がハマってきた。

又五郎は謹直な武士・佐々木丹右衛門とおちゃらけ助平の二役で、相変わらず達者。遠眼鏡のチャリ場はちと長過ぎてバランス悪い気もしましたが。

そうそう、休憩時間にロビーで文楽人形遣いの吉田玉男さんを見かけましたよ。ラフな服装で、普通にカッコいいおじさんでした。

玉男さんが文楽で遣うとすれば政右衛門です。国宝の演技を見に来たんでしょう。次に遣う時の参考にするのかな。

でも、玉男さんゴメンナサイ。私はもう二度と「岡崎」は観ないでしょう。「沼津」なら観るけどね。

 

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