スタッフN村による着物コラム
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四月並みの暖かい日の翌日は花粉と土ぼこりを巻き上げて北風が吹きすさぶ青梅から、今月もご機嫌を伺います。
先月剪定した木蓮の枝を花瓶にさして日当りのいい窓際に置いといたら、早々と花が咲きました。
本体の木の蕾はまだ固く産毛をかぶったまま、開くまではあと1ヶ月以上かかるでしょう。
それでも梅が咲き、福寿草が咲き、チューリップや水仙の芽が顔を出し始めました。もう少し、もう少しの辛抱ですね。
57.「江戸の粋」ってなんだ?
一月は落語会に出かけたんですが、ツレもなく、バイトを中抜けしたので、着物を着るどころじゃありませんでした。
なんで、高校時代の友人と女子会ランチに行った時の写真でゴマ化します。
一緒に写ってる友人はフランス男性と結婚し、今は南仏プロヴァ〜ンスに在住。
久々の里帰りというので、近在に住む美術部の仲間3人で集まりました(もう一人はカメラマン役)。
やっぱ和食の方がいいだろうと、ウチから車で10分ほど、飯能市の名栗川のほとりにある日本料理店「蜻蛉(とんぼ)亭」に案内。
予約しておいたので、真下に渓谷を臨む窓際の席に通され、友人大喜び。渓谷の中をつがいの白鷺が悠々と飛び交ってました。
白鷺はウチの近所じゃ珍しくもありませんが、見上げることはあっても、広げた翼を上から見おろす機会はそうそうありません。ホントに純白でした。
ランチのお弁当は多種の料理がちまちまと盛りつけられ、いかにも女子会向き。
値段もリーズナブルなんで、お近くの方、オススメです。
ちなみにこの日のコーデ、一昨年コラム41にアップした回とおんなじでした。新しいものをとんと買っていないとはいえ、コーデの固定化は戒めねば。
ちなみに、最近わりとある着物の方サービスはここではありませんでした。ちぇっ。
さて落語の方は、武蔵小金井駅前の宮地楽器ホール(小金井市民会館なんだけど、今はなんか企業名を冠するのが流行ですな)で開催の、
「こがねい落語特選 看板真打ち競演会〜江戸の粋」と題し、柳家喬太郎、春風亭一朝、五街道雲助、三笑亭夢太朗(春風亭小柳枝の代演)の四人会。
しかしこのタイトルを見て、江戸の粋? なんで喬太郎? と首を傾げたのは私一人じゃないと思う。
喬太郎は一昨年も、そして来年も一月にこのホールに出るんだが、一昨年は同年代の中堅が揃って「新春華の落語会」(コラム41でレポ)。
で、来年は同世代の彦いち、遊雀、文左衛門改め文蔵と「温故知新〜革新の落語家たち」。で、今年はベテランに混じって「江戸の粋」、って…
この会の主催者は喬太郎をいったいどういう落語家として位置づけているんだろうと小一時間…まあ、ファンとしては来てくれれば何でもいいんだけど。
メモを取らなかったので、開口一番の前座が誰だったか忘れましたが、なんか中途半端な『初天神』。団子までいかず、飴玉のところで終わってました。
まず出演の真打ちの中では最若手の喬太郎から。「こうみえて、昇太兄さんより若いんです」と、昇太はすでに噺家の基準値ですな。
そういや、喬太郎、年末年始に「高橋の手帳」のCMに昇太と一緒に出てたな。けど、どう見ても昇太の方が若く見えた。
「恵方巻、って、なんですかねありゃ」。太巻き寿司ってのは、お母さんがお誕生会に作ってくれる、ちゃんと切ってあるもんですよね、とマクラに。
子供のお誕生会風景をコント風に演じ、切ってない太巻きを無理矢理口に押し込むなんて、こんな場面ですよね、と今度は警察の取り調べ室へ。
刑事と容疑者のコントに変わり、どうしても自白しない容疑者の口に太巻き寿司を押し込んで「どうだ!これでも吐かねえか!?」
…いささかあっけにとられた客席に「こういう芸風は今日はあたしだけですから安心して下さい」とお断り。ねえ、だからどこが「江戸の粋」なんでしょ。
そして話題はコロッケに移り、「コロッケそばにされたコロッケの気持ち」を演じ(笑)始めると、あー、今日の演目は『時そば』だ。
喬太郎の『時そば』は以前詳しく紹介したと思うので、今回は省略しますが、面白い。たしかに面白いんだけど、私は遭遇率がやたら高くて、ちと食傷気味。
でも今回初めてのクスグリがひとつあった。看板に丸に稲穂の絵を描いてあるマズい方のそば屋、屋号を聞かれて「キッチン稲葉ってんです」。
会場内五,六人だけ爆笑。私もだけど。キッチン稲葉というのは喬太郎の師匠・さん喬の実家が営む洋食屋の名前。こんな豆知識、知らんでいいわ!
そういうわけでやっぱり面白かったんだけど、もっと違うネタ聞かせてよー。「江戸の粋」なんだからさあ。
続いては春風亭一朝。NHKの時代劇を見ていると「江戸言葉指導」でよくお見かけする名前。そらあ「江戸の粋」でしょう。
「いっちょうけんめいやります」がお約束のマクラ、演目はおお、珍しい、『蛙茶番』だ。
町内の素人芝居で『天竺徳兵衛』をやることになり、役もめ防止のためにくじ引きで配役したが、徳兵衛の忍術で出て来る蛙役の若旦那が休んでしまう。
やむなく小僧の定吉が代わるが今度は舞台番の半次が来ない。半次の好きな仕立屋の娘が半次さんの舞台番姿が見たいと言ってたとかなんとかおだて、
それならと風呂屋で磨きをかけて来たのはいいが、自慢の緋縮緬のふんどしを締め忘れて舞台で尻をまくったもんだから観客大喝采、
蛙の出番となるが、定吉「出られません、あそこで青大将が狙ってる」…わかるヤツだけわかればよろしいw。いわゆるバレ話(シモネタ)ってやつですね。
珍しい演目をきちんとした芸でやってくれてるのに、ところどころ寝オチ。いかんいかん、昼の興行はこれだからいかん。
仲入りあって、次は色物。紙切りの林家二楽。第一人者の正楽の息子で兄は落語家の桂小南治というサラブレッド。
週刊文春で喬太郎と一緒に川柳のページを担当してる。紙切りも見事だけど話術も巧み。プロジェクターで絵を見せる、いかにもホール仕様の芸人さん。
切った作品をお客さんにあげるのは当たり前で、切り抜いた方の切れ端も「B面」としてあげちゃう。これが見事な白黒反転になってるんだな。
いくつか定番を切ってから、お客さんのリクエストに応える。なんか「餅つき」とか、「羽根つき」とかセンスのねえ平凡なお題ばっかり。
「トランプとイヴァンカ!」とか「プーチンと安倍!」とかタイムリーなネタはないのか、と思ってたら、「丹頂鶴」をリクエストしたオジさんが、
「つがいで!」とか「親子で!」とかどんどん注文をフクザツにしていく。二楽も苦笑いで「お父さん、もういいですね?」と念を押して切り始めた。
「でもね、今日なんかまだいいんですよ」と体を前後に揺らしながら切り始め「こないだなんか、豆腐っていうお題をいただいたんですよ」と笑わせる。
「しょうがないから、木綿豆腐と絹ごし豆腐と、両方切ってあげました」(細かいところは記憶があいまいなんだけど、まあそんなようなこと)
「よくお客さんに聞かれるんですけどね、なんでそんな体を揺らしながら切るんですか、って」「そりゃね、揺らさないほうが切りいいですけどね」
と、動きを止めて手先だけでちまちま切り始める。舞台は暗くなり、客は爆笑。「ほらね? だからね、こうやってるんですよ」とまた前後にゆらゆら。
とまあ、お約束のトークだけど、体の揺れに合わせた独特のリズムでなんともおかしい。そうこうしてるうちに見事な丹頂鶴の一家が切り上がったのでした。
続いては大御所・五街道雲助。先日レポした桃月庵白酒の師匠。この人も正真正銘の江戸っ子で、まさに「江戸の粋」の代表者。
マクラもそこそこに、語り始めたのがこれも珍しい噺。伊勢屋の番頭に、以前借りた十両を返してくれと頼まれて困った男、
折しも持ち込まれた縁談が器量は悪い上に臨月の妊婦だが十両の持参金付きと言われて飛びつく。
この女、実は番頭がお店の女中に手を付けて孕ませたもので、十両は持参金をつけてやるために必要な金。
男が返す金は番頭が女につけて仲人に渡り、仲人から持参金として男に…あれ? 金が一回りしましたな。いや、金は天下の回りもの、というオチ。
あれれと思っているうちにまたもや寝オチしていた。ヤバい、もしかして本格的な江戸前落語だと寝てしまう体になってしまったのか!?
喬太郎や昇太のジャンクなテイストに慣らされて、もうちゃんとした(?)落語は聴けなくなってしまったのだろうか!?
いささかショックを感じながら、トリの夢太朗はパスしてバイトに戻ったので、出口にはまだ本日の演目が張り出されていません。
雲助師のネタがわからなかったので調べるも、ネットでわからず、矢野誠一の落語手帳にもなく、東大落語会の落語事典をひっくり返してやっとわかった。
サゲの「金は天下の回りもの」からたどりついた事典の見出しは「逆さの葬礼」。もとはもっと長い上方ネタで、見出しのタイトルはこの続きからきたもの。
さらにネットでググると雲助師は「持参金」という演題でやってるみたい。YouTubeで聴き直してやっと噺の全体がわかりました。
でもなあ…やっぱり同世代(よりちょっと下)の噺家のジャンキーな世界から「江戸の粋」へはもう戻れないと、ほろ苦くも感じましたよ。
雲助師、私のたった10歳上なだけなのになあ。
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