スタッフN村による着物コラム
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いろいろありました2017年も暮れ、新しい年を迎えようとしております。
2018年は戌年。年女であります。ちなみに当サイト運営者の冨田もね。何回目の年女かはナイショ、ってわかるよなあ(笑)
写真は12月初めに撮影したウチの冬桜です。その後のキビシい霜にやられて今はチリチリになってますが、それでも健気に咲いてはいます。
なんだかんだで11月から春先まで、半年間くらいちまちまと咲き続けます。何が悲しゅうて一番寒い時期に花をつけるのかわかりませんが。
春の一週間くらいにパアッと咲いてパアッと散る、それでこそ桜だと思うので、この花はなにかうら寂しく、あまり好きではありません。
でも、ほとんど花のない冬場に、いくらかは華やぎを添えてくれるかな。鳥なき里の蝙蝠か、花なき時期の冬桜か。
66.歌舞伎『霊験亀山鉾』鑑賞
この年末に10月の話でいささか恐縮ですが、ネタは大事に使わないと(笑)。
その日は朝から土砂降りの雨。薄いグレーの久米島紬を着ようと思ってたんですが、さすがに断念。もうそろそろ洗いに出したい村山大島に急遽変更です。
これはしょっちゅう出て来る祖父の長羽織とアンサンブルの着物で、おそらく大正か昭和初期のもの、90年以上は経ているでしょう。
土蔵の中でぼろぼろになっていたのを、晏できれいに直していただきました。コーデもその時のもので、私の本格着物デビューセットです。
紬の八寸帯に帯締め、帯揚げもすべて晏セレクト。自撮りなんで見づらい写真ですいません。
足元は雨に強いカレンブロッソのカフェ草履に色足袋。保多織鼻緒のオリジナルです。バッグはパンフとかすっぽり入るよう、柿渋染めの大判のもの。
さらにやはり祖父の村山大島を仕立て直した茶色の雨コートを着て、なんとか三宅坂の国立劇場へ向かいました。
電車の中で、一緒に行くはずだった友人からメール。可愛がっている文鳥の容態が急変して、今病院に連れて行ってるが、来られるかどうかわからない、と。
もともと仁左衛門を生で見たことがないという友人親子のために取ったチケットなんだけど、親子揃って文鳥につききりだそうな。
まあ、人の価値観はそれぞれなので、と返信して、ひとり劇場へ。生のニザさん見せてキャーキャー言わせたかったんだけどなあ…。
気分がアガらないまま開演。今回の演目『霊験亀山鉾』は15年前にもここ国立劇場で観ています。そうか、あれからもう15年経ったのか…。
そして生ニザさんも5年ぶり。当コラムNo.9の『絵本合邦衢』以来であります。いつのまにか人間国宝になっていたのですねえ。
本作はいわゆる仇討ちものですが、仇の方が主人公というちょっと変わった趣向。極悪無道、残忍卑劣な藤田水右衛門を演じるのが片岡仁左衛門。
他人の空似ながら水右衛門そっくりな古手屋八郎兵衛も二役で演じます。
ことの起こりは石井右内との尋常の立ち合いで敗れた腹いせに、水右衛門が右内を闇討ちにしたこと。右内の弟・兵介が公式に検使役を立てて仇討に臨む。
しかし検使役と裏で通じる水右衛門は、立ち合い前の水杯に毒をしのばせ、兵介(中村又五郎)を返り討ちにする。仇討は右内の養子・源之丞に託される。
源之丞(中村錦之助)は下部袖助の妹・お松(片岡孝太郎)との間に、内縁ながら二人の子を儲けているが、長男源次郎は腰の立たない奇病に冒されている。
離れて暮らす源之丞が、源次郎の誕生日にお松の家に帰って来たが、案じられるのは仇討に出かけた叔父の兵介。
そこへ下げ売り(瓦版屋)が現れ、買い求めてみると「古今珍しき敵討ちの次第」として兵介が無惨な返り討ちにあったという悲報。夫婦は呆然。
源之丞は仇を追い求め、香具屋弥兵衛と名乗って色町に出入り、揚屋の丹波屋の女将・おりき(上村吉弥)には養子扱いするほどに惚れ込まれている。
しかし弥兵衛は芸者おつま(中村雀右衛門)と深い仲、おつまはその子を宿している。妻子持ちとは承知の上、せめて仇討の役に立ちたいと願うおつま。
兵介の若党金六(中村歌昇)が、水右衛門にそっくりな役者(まあ当然片岡仁左衛門w)の似顔が描かれた団扇をおつまに届ける。
その似顔に瓜二つの男が現れる。評判のおつまを身請けしようとする古手屋の八郎兵衛(仁左衛門二役)だ。
丹波屋のおりきは実は藤田家に縁があり、水右衛門を密かに匿っている。八郎兵衛は水右衛門あての書状と金子を、まんまとなりすましで受け取る。
その金を身請けの手付けにした八郎兵衛の座敷に出たおつまは、団扇の似顔にそっくりなことに驚き、八郎兵衛を水右衛門と思い込む。
その素性を聞き出そうと、おつまは心ならずも源之丞に愛想尽かし、八郎兵衛にしなだれかかる。そこに落ちていた最前の書状を開くおつま。
それを二階からのぞく水右衛門その人。手鏡で水右衛門の姿を認めたおつまは八郎兵衛を拒否。源之丞に水右衛門の書状を読ませ、あとを追わせる。
しかしその書状は源之丞をおびき出すための偽手紙。水右衛門の一味が落とし穴を掘って待ち構えている。若党金六とともに奸計に嵌る源之丞。
あえなく水右衛門の凶刃に斬り苛まれる二人。そこへお松の兄で石井家の下部袖助(又五郎二役)が通りかかり、虫の息の金六から騙し討ちの経緯を聞く。
主人の形見の刀を手にした袖助の提灯を水右衛門が叩き落とし、闇の中、源之丞を追って来たおつま、おりきも加わって刀を取り合い、脇差はおつまの手に。
水右衛門はほとぼりが冷めるまで身を隠そうと、棺桶に隠れ、おりきが付き添い葬列を装って街道を急ぐ。そこへ源之丞の棺桶が担がれて来る。
狼が出たという騒ぎになり、どさくさまぎれに二つの棺桶が取り違えられ、水右衛門の入った棺桶が焼き場へ運ばれる。
そうとも知らず、焼き場でおつまが供養をしていると、現れた隠亡は八郎兵衛
。実は水右衛門の一味だと明かし、振られた恨みでおつまに出刃包丁を向ける。
源之丞の脇差を抜いて、なんとか八郎兵衛を斬り倒すおつま。そこへおりきが大慌てでやってきて、棺桶の中には水右衛門がいると告げる。
おりきも討ち果たしたおつまの前に、すでに炎に包まれた棺桶を踏み破って水右衛門が現れる。夫の仇と打ち掛るおつま。
しかしたやすく脇差を奪われ、腹の子共々あえなく惨殺。水右衛門は手にかけた石井家の関係者の数を指折り数えて不敵に高笑い。
源之丞を案じるお松のもとに、姑の貞林尼(片岡秀太郎)が訪れ、二人の仲を許すが、取り出したのは源之丞の位牌。
あとを追おうとするお松をいさめ、一子源次郎に仇を討たせよと望む。そこへお松の兄・袖助が、形見の太刀を持って現れる。
源之丞の無惨な最期を聞き、水右衛門への恨みはつのるが、源次郎の足萎えの病は人の肝臓の生き血を飲ませなければ治らない。
貞林尼は懐剣を抜いて自らの肝臓に突き立て、源次郎にその血を飲ませる。たちまち元気に立ち上がる姿を見て、安らかに息を引き取った。
でまあいろいろあって(めんどくさくなって来た)、勢州亀山の祭の日に、お松源次郎親子はめでたく藤田水右衛門を討ち果たし、見事本懐を遂げるのだった。
はい、おつかれさまです。まあこういうストーリーで、役者も手堅く、前回に劣らぬいい舞台だったんですが、なんだろうこの冷静さは。
かつて仁左衛門が舞台に現れるだけで両手を握りしめ、小声でキャーと叫んでいた自分がいない…。
それは仁左衛門のせいじゃなく(そりゃまあ多少年取ったな、とは思ったけど)、憑き物が落ちてしまった私のせい?
とくに焼き場の場面は本水が舞台にしぶきを上げ、八郎兵衛とおつまの立ち回りが、鶴屋南北ものならではのエロ凄惨な見せ場。
井戸に突き落とされた八郎兵衛から水右衛門に早替わりして、棺桶を踏み破って現れるスペクタクルも、不敵な高笑いも、大興奮でワクワクしたものでした。
まあ、あらかじめ知ってるとはいっても、妙に醒めた今回の自分がショック。5年見なかったというのはそういう歳月だったのか…。
ひとつには、文楽を見慣れてくると、歌舞伎がかったるいんです。どうしても生身の役者が出入りするんで、時間かせぎのどうでもいい端場が多い。
文楽ならするっとスルーしちゃうような場面が、歌舞伎だと役者をよく見せるためにくどい表現になりがちだったり。まあ、この演目は文楽にはないけどね。
それから、この数年で役者の代替わりが進みました。今回だけでも又五郎、その息子の歌昇、雀右衛門、最近なら猿之助、芝翫、鴈治郎、来年は幸四郎。
海老蔵の團十郎化もそう遠くないでしょうね。あれ?歌右衛門はどうなったのかな? そして勘三郎、三津五郎と続くのでしょう。
みーんな先代を(あ、歌右衛門は知らない)知ってるんです。えー、橋之助が芝翫? 翫雀が鴈治郎? 染五郎が幸四郎? なんかピンと来ないなあ。
きっと先輩歌舞伎ファンは、先代の襲名の時もそう感じたことでしょう。そして昭和歌舞伎の名優たちを懐かしく思い出したんでしょうね。
思えば仁左衛門の十五代目襲名から始まった私の歌舞伎狂い、それは20世紀最後の襲名でした。そして平成があと1年ちょっとと決まった今年。
これまで平成のよき舞台をたくさん見せてもらいました。仁左衛門と亡き團十郎との勧進帳や三人吉三、亡き勘三郎との沼津、籠釣瓶、
もうやらないと言っていたのに、海老蔵の代役で急遽演じた油地獄、それに続く一世一代の河内屋与兵衛、玉三郎との吉田屋、切られ与三…
團十郎や勘三郎との共演はもちろんもう望めませんし、玉三郎の相手役はどんどん若い役者が取って代わるでしょう。
平知盛じゃないけれど、見るべきほどのものは見た、今は卒業せん。です。
次の年号が何になるのかはわかりませんし、仁左衛門を始め、玉三郎、吉右衛門、菊五郎たち人間国宝もまだまだ健在でしょう。
でも、一番いい時を過ごさせてもらった、その記憶が色あせないうちに私の歌舞伎アルバムを閉じようと思います。
平成のスターたちよ、ありがとう。そして次代の若手たちに若干の不安と、そして期待を込めて、おばちゃんは遠くから応援します。頑張ってね。
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