スタッフN村による着物コラム

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更新が2ヶ月以上も滞り、今頃新年のご挨拶です。あけまして申し訳ございません。

いやー、なかなか出かける機会がなくてネタ切れだったんです。年が明けてようやくネタが拾えました。

お正月は異常なほどに暖かく、このまま春になっちゃうのか!?と思ってたら、

どっこい来ました冬将軍。

今これを書いている最中も降り始めた雨がいつ雪に変わるかとビクビクしています。

ガラス張りで日当りのいい私の部屋には、姉が鉢植えをドカドカ持ち込み、すっかり温室状態にされてしまいました。

今は株分けしたシンビジウムと、3色のシクラメンが真っ盛り。すべてこれ、2、3年ものの年越し鉢です。

このままでは生活空間を浸食されるのではないかと、こちらもビクビクものなんであります。

 

48. 20年目の志の輔らくごin PARCO

友達がダブって取れたからと譲ってくれた志の輔らくご。プラチナですとも、ええ。

いやもう渋谷なんてひっさしぶりに行くもんで、あれも見たい、これもしたいで、落語は18時半開演なのに朝から着付けで大わらわ。

最近はバチ衿の木綿着物に半幅帯でちゃっちゃと着付ける事が多くて、久しぶりの広襟とお太鼓に大苦戦しました。

白黒微塵格子の真綿紬に大きな格子の紬八寸帯、母のお下がりの村山大島の羽織。羽織紐はトルコ物産店で見つけたブレスレットです。

鏡を自撮りしたのでうまく撮れてませんが、目玉親爺がずらっと並んでるみたいでキモカワイイ、と自画自賛。

どうにかバスの時間に間に合わせ、電車を乗り継ぎはるばる出かけた渋谷駅、折しも大雪の翌日で、まだ日も高いのに凍えるような寒さ。

真っ先に駆け込んだのは、どこにでもあるユニクロでした。値下げしていたウルトラライトダウンベスト(衿なし)を迷わず購入。

これを羽織の下に着込むと大正解。あったけえー。薄いので上にも響かないし、チラチラのぞくファスナーは、マフラーをたらしてゴマ化しました。

これでよし、と向かうはBunkamuraザ・ミュージアムの「英国の夢 ラファエル前派展」であります。

ラファエル前派というのは19世紀イギリス絵画の一派で、やたらロマンチックでドラマチックな作品が多いのが特徴。

フランスではモネだのルノアールだのがぼやんとした睡蓮やら太った裸婦なんかを描いてた時代に、こっちはきっぱり神話、古典、物語。

イタリアルネッサンスはラファエロ以前の芸術への回帰を唱え(だからラファエル前派)、緻密な自然描写、物語性へのこだわり、印象派なんか糞食らえ。

日本で一番有名なのはジョン・エヴァレット・ミレイ(種蒔く人のミレーじゃない)の『オフィーリア』でしょうな。

花を手に、青白い顔を水面に浮かべた少女の水死体、っつったら身もフタもないが、少女漫画でしょっちゅう見かけるあの構図。

日本の少女漫画に最も影響を与えた画家はアルフォンス・ミュシャとジョン・エヴァレット・ミレイだと断言してはばかりませんね。

ま、その『オフィーリア』は今回ありませんが、お目当てはバーン=ジョーンズの『レバノンの花嫁』であります。

3メートルくらいの縦長の作品なんですが、なんとこれ、水彩。紙に水彩でこんなでっかい絵見たことない。

近くに寄ってみても、水彩とは思えないほど緻密に描き込まれてて、圧倒的な質量を持ってます。

バーン=ジョーンズの描く女性はどっか中性的で、あんまり色っぽくないところがイイ。つか、全体的にどの画家の描く女性もスリムで清楚。

フランス絵画の女性によくあるぶよぶよした脂っこさがないのも、少女漫画と相性がいいのかも。

ベルジーニという画家の『シャクヤクの花』という絵の女性なんて、天海祐希そっくりでしたぜ。キレイだけど全然色気がない。

陶器のような肌の輝き、タフタやジョーゼットのリアルな質感、もうどの絵も超絶技巧の少女漫画、って感じ。久々に西洋美術の精髄に触れてお腹いっぱい。

さてとっぷりと日も暮れて、パルコブックセンターで欲しかったBLマンガの単行本を買い込み、9階のパルコ劇場へ。

 

2ブロック目の1列目、上手ブロック角なので、前も左側も通路で非常にいい席。

2年ほど北京に赴任していた落語仲間が久しぶりに右隣に座り、

通路を挟んだ左隣の席をこっそり指差すのでふっと見ると、げ、そこにはハリウッドやブロードウェイで活躍するあのスターが!

その横には美人女優の奥さんも! でかいっす。足長いっす。北京帰りの仲間はエレベーターの中で樋口可南子のダンナも見たとか。

離れた席にいた別の仲間はサカナクションのメンバーを見たというし、私は喫煙所で、国際的に活躍する私でも顔を知ってる指揮者(わりと若い)も見た。

なんだか有名人率高いなあ。でも一般客はみな大人なので、ハリウッドスターにも気付かないふりで、声をかけたりはしない。

7分くらい遅れて幕があがると、4畳半くらいの板の台に座布団があるきりで、そこへいきなり志の輔登場。

正真正銘の独演会なので、前座もいないからめくりもない。前日の雪の話などから「お父さん、お父さん」とおなじみ新作落語へ。

生命保険が満期になり、どこか旅行へでも行こうかと話し合う夫婦、お父さんはかねて夢だった鬼怒川温泉と東照宮への旅を提案。

賛成した妻に手配を頼み、翌日帰宅するとなぜかイタリア旅行のパンフレットがある。問いつめる夫に、妻は超飛躍的論理で言い返す。

「俺は温泉に行きたいんだ」「イタリアにも温泉はあります」「釣りは!?」「イタリアでも釣りは出来ます」「渓流釣りだぞ」「すべての川はローマに通ず」…

娘や息子にも相談したという妻、子供たちはもうすっかりその気で、その上娘の留学やら息子のフランス人の彼女やら、夫は何も聞かされていない。

「お前ら一家の大黒柱たる俺を差し置いて…」「あら、あなたが大黒柱って誰が決めたんです?」というわけでタイトルは『大黒柱』。

鬼怒川がなぜローマになったのか、説明にならない妻の説明が笑いどころ。志の輔の新作としては軽めの作品。どうやらネタおろしらしいです。

 

続いて(当たり前だが)また志の輔。これまでこの会は、他の伝統芸能や、ママさんコーラスとのコラボとか、いろいろ仕掛けがあったんだけど、

今回は集大成っつうか締めくくりってことなのか至ってシンプルに落語を聴かせる方向らしい。

というのは、パルコ劇場が老朽化のため建て直しが決まり、ここでの「志の輔らくご」は今回が最後という事らしいのです。

東京ではいろんな劇場やホールがいちどきに改築や閉館となり、しばらくホール不足が心配されています。パルコよ、お前もか。

二席目は古典。美人のお師匠さんに男がいる!と塀の節穴からのぞいてみると、さしつさされついちゃいちゃしているのは女房持ちの常アニイ。

こりゃてえへんだとアニイのおかみさんにご注進に行ったとんまな二人、おかみさんは、ウチのは昨日から風邪で寝込んでるよと取り合わない。

ウソじゃねえって、とおかみさんを連れて行き、節穴からのぞくと確かにお師匠さんといちゃついている常アニイ。

ほらやっぱりと振り向くと、そこにはあとからやってきた常アニイが。え?じゃああそこでいちゃついてるのは? 狐狸妖怪!? こおりようかん!?(バカ)

踏ん込み取り押さえると、実は私はこの家の三味線に張られた皮の猫の子でございます、と正体を現す。親恋しさに人間に化けて会いに来ていたと。

そう、『義経千本桜』の狐忠信のパロディなんです。もとの噺『猫忠(猫の忠信)』はここから『義経千本桜』を知らないとわからない展開になるんですが、

志の輔版はとくに『義経千本桜』を知ってようが知ってまいが構わない作りにしてある。サゲは忘れちゃったけど。だから『新版・猫忠』なんですね。

 

はいここで仲入り。休憩あけで820分、最後の一席はなんだろう、『大河への道』だったりすると10時近くなっちゃうねーと話していたら、

舞台には釈台が置かれ、長講するぞの意気込み満々。こりゃ来るな、と思ってたらやっぱり来ました伊能忠敬。

この作品は2011年のこの会でネタおろしされた志の輔オリジナルの新作で、どうやっても1時間以上かかる大作なんであります。

千葉県の職員が、郷土の英雄・伊能忠敬を大河ドラマにしようと奮闘する噺で、企画案を若手脚本家に依頼。その企画案の形で忠敬の偉業が語られる。

先刻ご承知でしょうが、伊能忠敬は町人の身ながら50歳で天文学を志し、日本全土を徒歩で回って日本地図(伊能図)を作り上げた偉人であります。

初演の時は、大河ドラマ『龍馬伝』に湧く長崎で、福山雅治のお母さんに会った話から、そのあとシーボルト記念館で伊能図を見て驚愕し、

さらに佐原市(今は合併して香取市佐原)の伊能忠敬記念館に行き…とマクラだけでこの長さだったけど、今回はさすがに長崎の部分はなかった(笑)。

20年続けたこの会で、一番思い入れのある噺なのでこれを選んだと志の輔は言うけど、こっちは「これじゃなければいいがなあ」と思ってたネタ。

どんだけ好きなんだよ伊能忠敬。噺は現代の千葉県庁と江戸時代を行ったり来たり、重苦しい講談調の場面が続くと一転かるーい現代調になったり、

それなりにメリハリはあるんだけど、いかんせん長い。初めて聴く人、伊能忠敬を知らない人には一通りの説明が必要だろうけど、2度目だとちと退屈。

2018年が没後200年なので、その年の大河に、というネタなんだが、今年の後半にはもう発表されるよね、再来年の大河。それまでの命か?

しかし本当に2018年の大河が『伊能忠敬』になったら、志の輔のNHKへの影響力は計り知れない、ってことになるんだけど、ま、ないかな(笑)

結局、三本締めで幕が閉まったのは9時45分。終演後の友人との交歓も1時間半でタイムアウトでした。

そのとき話したんだけど、志の輔にしろ談春にしろ、立川流は噺を刈り込まないよねー。短く仕上げようって気がそもそもねーんじゃね?

やっぱ寄席に出てなくて独演会ばっかりだからかねー、長きゃいいってもんでもないよねー、と皆でうなずき合ったことでした。

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