スタッフN村による着物コラム

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ゴールデンウィーク明け、お向かいのうちのヤギにまた子供が生まれました。

今回で5度目。冬にオスが死んでしまったので、忘れ形見という事になります。

写真は生まれてまだ半日くらいしか経っていません。でももう立って歩いてます。足元がふらふらするのもまた可愛い。

体毛は真っ白。ホントに動物の赤ちゃんってなんでこんなに可愛いんでしょう。

赤ちゃんと言えば、6月1日には以前ここで結婚式をレポした甥夫婦にも男児誕生。私も大叔母であります。

自分自身の大叔母は明治生まれで、私が物心ついた頃からお婆さんでしたから、自分がその「大叔母」になったのかと思うとややフクザツ…。

 

44.柳家三三独演会

5月2日、ゴールデンウィークの真っ最中であります。

以前もご紹介した、隣町の飯能市民会館で開催の、柳家三三(さんざ)の独演会に出かけました。

ええもう、サンダル履きで行くような距離なんで、着物なんざ着ませんよ。車でひょいっとね。

飯能では有望若手応援寄席という月例会があって、三三や、古今亭菊之丞、入船亭扇辰、春風亭一之輔なんかを二つ目の時から呼んでたらしいです。

らしい、というのは去年その存在を知ったからで、けっこういいメンバーを呼んでたんだなあ、もっと早く知ってればなあ、と思った次第。

車で10分のところに三三クラスが来てくれるんなら、そりゃあもう行かなくちゃ、てんで早々とチケットをゲットして待機。

当日、会場は地元の老老男女でいっぱい。うーむ、これは会場マナーには期待できない。何かが起きるぞ。

前座なし、いきなり三三登場。以前からジジむさい登場の仕方だったけど、本人が老けて来たせいか、こっちが慣れたのか、しっくりしてきた。

会場は満員御礼、三三いわく、なんでかというと、仲入り後に出る太神楽の鏡味仙成というのが、地元飯能出身の19歳。

親戚一同近所総出で打ち揃って、仙成を観に来たお客さんばかりなので、自分が前座だと笑わせる。

じっくりたっぷり、と謳うだけあって、今日は3席やるようだ。最初は軽く『道具屋』。

アホの与太郎を案じた伯父さんが、露天の古道具屋を開かせる。売り買いの口上を与太郎に教える伯父さん、

そこに来ましたね、客席中段あたりで“ピロピロピロ”とおなじみ携帯着信音。

ここは「おーい電話だよ、誰か出ておくれ」と余裕でいなす三三。

最近ケータイ着信音のいなし方が一つの芸みたいになってきて、見どころのひとつでもあったりする。まあ、鳴らないに越した事はないんだけど。

『道具屋』は無事に済んで、続いてすぐに二席め。お、『笠碁』だ。先代小さんの得意ネタで、柳家では大ネタだよね。

近所の碁敵どうし、今日は待ったなしでやろうと打ち始めるが、やっぱり形勢が悪くなるといつものクセで「待った」を言い出す。

相手は待ったなしだと強情を張り、昔金を貸したことを恩に着せる、借りた方もあたしゃあそのとき待ってくれと言いましたか?

いいやそれとこれとは話が違うと罵り合いになって…

“ピロロロロロ〜”またキタ———!今度はかなり前の方の席で音もデカい!登場人物がぽんぽん言い合ってる最中のこと、

「ああもう電話がかかって来ちゃったりであたしゃもう」さすがに意味不明のことを言い出して、ちょっとイラッときたのが見て取れた。

で、喧嘩別れした碁敵どうし、何日も雨が降り続くと、「碁敵は憎さも憎し懐かしし」の川柳通りに相手が懐かしく、

ちょっと様子を見に行こうとするが傘がない。仕方なく大山参りの笠をかぶって相手の家の前をうろうろ…

すいません、このあたり、がっつり寝落ちしてました! 最近家の都合で昼公演しか見られないんだけど、一番眠い時間帯なんだよねー。

この前の『田茂神家の一族』も、実は伊東四朗さんの見せ場のところではからずも寝落ちしちゃって、残念至極だったのでした。

まあ、この噺がちょっと退屈だったという事もある。滑稽話でもないし、あまりメリハリもないし、流暢な語り口につい気持ちよくなっちゃって。

それはともかく、「傘がなかったので笠をかぶって」というのが噺の眼目なのに、演目書き出しの『傘碁』はないだろう、主催者さんよ。

 

仲入りあって、会場のほとんどの客がお待ちかね(そうなのか?笑)の太神楽。

地元飯能1小、飯能西中卒という19歳の鏡味仙成。

いかにもそのへんのお兄ちゃんだけど、国立劇場の研修生を経て、去年正式に入門したばっかりらしいです。

ということは、言っちゃ悪いが当然ヘタクソであぶなっかしい。しかし!太神楽って、フツーに巧いと面白くも何ともないんだよね。

もんのすごく上手か、さもなくばヘタクソというのが見ていて面白いのであります。

顎の上に棒を立て、板を渡して茶碗を積み上げる「五階茶碗」なんて、巧い人ならなんでもなさそうにやってみせるけど、

上体ゆらゆら、棒はぐらぐら、会場の老老男女は孫を見守るがごとく手に汗握る。無事茶碗が積み上れば割れんばかりの拍手。

そのあともジャグリング(とは言わないけど)の棒は落とす、玉は受け損なう、数々の失敗もぜーんぶご愛嬌。地元はあったかいねえ、頑張れ兄ちゃん!

 

さて、当たり前だがトリも三三。黒紋付に着替えて、ネタは、ほう、『粗忽の釘』かあ。寄席なんかだとよくかかるけど、独演会のトリネタにしては軽いな。

粗忽者の亭主、引っ越しだというので張り切って、大風呂敷に箪笥を包み担いで出るが、引っ越し先の住所を忘れて一日中町内をうろうろ、

すっかり片付けも終わった頃にたどり着く。女房に帚を掛ける釘を打ってくれと言われて20センチもある瓦釘を壁に打ち込んでしまう。

お隣に謝ってこいと言われて向かいの家に上がり込み、あんまり話が噛み合ないのでやっと間違いに気付き、改めて隣の家へ。

「おまいさんは落ち着けば一人前なんだから」と女房に言われたので、落ち着こうと煙草を呑んだり、世間話を長々したあげくに釘の事を思い出し、

隣家の主人に見てもらうと釘は仏壇を打ち抜いて、阿弥陀様の頭の上に。「こりゃ困った、明日から毎日ここに帚を掛けにこなきゃならねえ」でサゲ。

ポピュラーなネタだから、いろんな人で聞いた事があるけど、今回はちょっとあれ?っと思ってしまいました。

この亭主はあくまで「粗忽者」であって、女房にも「あんたは落ち着きゃ一人前なんだから」と言われてるんだが、三三のはなんだか与太郎っぽい。

受け答えも「あれえ?えへへ」という感じで、ぽんぽんぽーんと弾んで行かない。

だからお隣に行けと言われてお向かいに行くのも、そそっかしいのではなく、馬鹿か?馬鹿なのか?という感じになってしまう。

これまで聞いた事のある『粗忽の釘』は、とにかく人の話を最後まで聞かずにぴゅーっとすっ飛びだして行く、そのスピード感が身上だったんだけど。

まさか『道具屋』の与太郎を引きずってる訳でもないだろうけど、これはちょっと違うんじゃないかという違和感がぬぐえませんでした。

三三はしゃべりの技術はあるけどキャラクターの造型がイマイチかな、と以前もここで書いたような気がしますが、今回もそういう感想。

あとで矢野誠一さんの『落語手帖』で、ネタの確認をしたら、「粗忽者を与太郎と取り違えるような誇張はいただけない」とあった。ほらね。

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