スタッフN村による着物コラム

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恒例の春の東京展、無事終わりました。

晴れたり降ったり、暑かったり肌寒かったり、天候が不安定な中たくさんの方にご来場いただきました。不肖私からも厚く御礼申しあげます。

しかし、この春はめちゃくちゃな気候でした。都内で桜が咲くと、一気に20度まで気温が上がり、あっという間に満開、そして花吹雪。

ところが私の住む青梅は都内より開花が1週間ほど遅いのです。

都内の桜が散りはじめ、当地で五分咲きくらいになった頃に一気に気温が下がり、あまつさえ4月8日には雪。

ちょっとわかりにくいかもしれませんが、満開の山桜に降りしきる雪の写真です。桜の左上方の杉の枝に白く積もっています。異様な光景です。

その後も雨や曇りで肌寒い日が続き、当地の桜は二週間近く咲き続けてました。

それにしても、なんだってこう、桜に限って人は大騒ぎするのでしょう。ひねくれ者の私はこの時期できるだけ桜(特にソメイヨシノ)に背を向けてます。

なんだろう、あの一人勝ちなドヤ顔というか、狂気さえはらんだてんこ盛り感が苦手なんですよ。咲いた、散ったとテレビも新聞もうるさいわい。

いいじゃんひと月も待てば藤もツツジもシャクナゲもハナミズキも咲くんだし。そういう花の下では乱痴気騒ぎもありませんしね。

桜が散ったあとこそ、初めて心静かに春を満喫できるように思います。

 

43.三谷幸喜書き下ろし『田茂神家の一族』

そんなこんなで4月はバタバタと忙しく、3月に見たお芝居のレポを今頃すみません。

劇団東京ヴォードヴィルショーの創立40周年記念興行第5弾、待望の三谷幸喜書き下ろしの新作『田茂神家の一族』です。

この記念興行は4年がかりで、2012年から始まり、創立が1973年ですから創立39年から42年までまたがってる、アツいのかユルいのかわからない興行。

そういや私も2012年の『竜馬の妻とその夫と愛人』、2013年の『パパのデモクラシー』、とこれで40周年記念興行を3回観る事になります(笑)。

会場は新宿の紀伊国屋サザンシアター。忘れないうちに自宅前で写真を。

着物は館林木綿の刺し子風。といっても本当に刺してあるのではなく、ぶっとい糸が運針をしたように織り込まれています。

なので、分厚いし、木綿の単衣としてはやや重いです。羽織は祖父の村山大島。おそらく大正時代のほぼ100年もの。

土蔵の奥でぼろぼろになっていたのをkimono gallery晏でキレイに直してもらいました。

ところどころ色やけはありますが、昔の絹は軽くて柔らかくて、50年ものの母の村山大島と較べても全然違うので、大事に着てます。

写メのせいかうまく撮れてませんが、背中にうちの家紋のバッジをつけて、なんちゃって紋付にしています。大事にしてるんだか粗末にしてるんだか(笑)

 

さて、お芝居です。紀伊国屋サザンシアターは、紀伊国屋書店新宿南店の7階にある、比較的新しい劇場です。

高島屋の中を通って行きましたが、噂に聞くアジア爆買い集団が、そこらじゅうで巨大なスーツケースを引きずり、何語かわからん言語が飛び交います。

6カ国語くらいの案内板を珍しそうに眺めていたら、店員が案内しようと寄って来ました。わたしゃ着物着てるんだ、日本人だとわからんか!

いやいや、久しぶりの新宿、すっかり外国人よりひどいお上りさんです。

劇場のロビーに入ると、まいど豊さんら中堅役者の面々が、手ずからもぎりやチラシ配りをしていて、こういうところが劇団ならではの手作り感。

席について舞台を見ると、あれ?こんな作りだっけ? 古めかしい別珍の幕で額縁状に縁取られ、田舎の体育館の舞台のよう。

よーく見るとなんちゃら信用金庫という金文字が。そう、舞台面そのものがすでに舞台装置だったんです。

開演ブザーの前から役者たちが椅子や机を運び、舞台上は村長選挙の合同演説会場になって行きます。

そして開演、芝居はその合同演説会として始まります。観客も舞台装置の一部というか、演説会の聴衆役をすでにさせられているわけだ。

6期24年に亘って村長を勤めた田茂神嘉右衛門(伊東四朗・客演)が怪我のため引退を表明、後継として5人の候補者が立つ。

しかし5人の名前が書かれた垂れ幕は、すべて“田茂神”姓。

前村長の次男・健二(佐渡稔)、三男・三太(佐藤B作)、長男の妻・たか子(あめくみちこ)、前村長の弟・常吉(石井喧一)、姪の婿・茂(角野卓造・客演)。

そして司会は四男の四郎(市川勇)、舞台にいるのはすべて「田茂神家の一族」なんである。

そして始まった演説会、といえば聞こえはいいが、要はお互いのスキャンダル暴露合戦。そしてそれがまたセコいネタばっかり。

たか子が健二と出来ていたり、たか子は三太以外の男たちに色目を使いまくる魔性の女だったり、三太の息子がショーパブのゲイだったり、

常吉がその客だったり、三太の娘や息子や嫁たちも巻き込んで、一族総出のまさに骨肉の争い。

あまりのバカバカしさに引退を表明した前村長の嘉右衛門までが、再出馬を宣言する。

争う票数はわずかに105。三太が雇った選挙コンサルタント・井口(山口良一)がこの105票を妙な説得力で票読みする。

唯一まともそうに見えた茂も、怪しげなエネルギー開発論をぶちあげ、他候補のツッコミで馬脚を現す。

罵り合いの果てに次々と立候補が取り下げられ、気がつくと残った候補者は…

最後のオチはまあとっときましょう。三谷幸喜らしいワンシチュエーションのドタバタ劇。

劇団への書き下ろしで、基本的には当て書きだから、役者は当然はまり役。

伊東四朗は怪我で引退、という設定なので、頭に包帯を巻き、杖をついての登場だけど、それも含めて当て書きでは?と思うくらい、元気無かったなあ。

もちろん技術でカバーしてたけど。佐藤B作はこの上なく下品で、この上なくハマってたし、他の役者も安定感は抜群ですが、

いつものヴォードヴィルという感じで、そういう意味では一昨年の『パパのデモクラシー』のほうが意外性があってよかったかな。

ただ、この公演の直後に統一地方選があって、わが市でも市議会議員選挙が行われました。

うちの地区からは10年近く候補が出ず、知り合いが拝み倒されて立候補したんですが、その間のドタバタが実に田舎臭くて、思い出し笑いしてました。

わが市では24議席を30人で争う、まあ普通の地方選挙でしたが、立候補者が定数に満たない自治体やら、無投票の首長やら、いろいろ報道がありましたね。

劇中で「コロス」という、ギリシャ演劇のようなコーラス隊が登場し、

〽お送りしました物語、村長選挙の一部始終、こんな話は絵空事、思うはあなたの勝手だが、あるかもしれない物語、ないかもしれない物語

と唄います。まあ、コメディですからデフォルメはされてますが、田舎の選挙なんて案外こんなものかも。

地縁血縁、利益誘導、さすがに近頃は接待攻勢や実弾攻撃の話は聞きませんが、国政選挙にはもう行かないうちの父も、何年ぶりかで投票に行きました。

ひとえにうちの地区から議員を出したいためなんです。あんなに毛嫌いしてた自民党推薦の候補だったのに(笑)。

結局その知り合いは新人ながら上位で当選! 過疎に悩むうちの地区の投票率が異常に高かったんじゃないかと思います。

それでもね、無投票で決まっちゃうよりいいと思うんです。どんなに泥臭くても、バカバカしくても、民主主義の基本だかんね。

でも、投票率はどんなに低くても、選挙自体は成立しちゃうんだってね。そういう規定がないんですと。なんだそれ。

憲法改正論議もかまびすしくなってますが、改正するならぜひ付け加えてほしい条項があります。曰く「投票は国民の権利ではなく義務である」と。

その一点においてのみ、私は改憲論者であります。なんてね、どういうわけか、三谷幸喜の芝居を見るとあれこれ考えちゃうんだな。

作者が意図してるのかどうかはわからないけど、案外深いのかもしれない、三谷幸喜。

 

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