スタッフN村による着物コラム

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まだまだ寒い日が続きますが、皆さんお元気ですか?

日当り抜群の私の部屋で姉が勝手に育てているシンビジウムが花をつけました。

去年よりも花房は短いけど、花芽はたくさんついてます。

8年前に姉が勤め先を退職する時に、記念にいただいた鉢から分けた株で、元の株より元気です。

ところで、シンビジウムとかゼラニウムとかって名前、なんかアルミニウムとかゲルマニウムみたいな鉱物系の感じがしません?

ラナンキュラスとかウルトラ怪獣にいそうだしさ。

 

41.「こがねい落語特選 新春華の落語会」

2015年最初の伝芸レポは、小金井市民交流センターでの豪華4人衆の落語会です。

バイトの行きがけにチラシを見つけ、9月の初め頃から大騒ぎして、小金井市民の知り合いを総動員し、市民先行枠をゲット!

イマドキの落語にあまり興味のない知り合いたちは、快く協力してくれました。こーんな豪華メンバー、めったにないのになあ。ありがたや、ほくほく。

落語協会の若き会長・柳亭市馬、なぜか協会の理事・柳家喬太郎、古今亭の最後の希望・古今亭菊之丞、新進気鋭の桃月庵白酒、まさに「華の」4人衆。

まあ、好き者にはたまらんメンツでも、笑点に出てなけりゃ、誰それ状態なんでしょうな。客席は好き者で一杯でしたけど。

保険として(市民枠は抽選)イープラス先行も取ってみたけど、先行なのに最後列。プレイガイドにはクズ席しかない! やっぱり市民優先なんだな。

新年最初のお出かけなので、着物着ました。重いカメラを持って行きたくなかったので、自宅の庭で撮影。

久米島風シルクウールに、祖母の若い頃の着物を仕立て直した羽織。

綿シルク(昔は絹綿交織といったらしい)ですが大正時代のもので、100年近いアンティークです。

帯は知り合いのお母さんの形見分けでいただいた八寸帯を自分で半幅に直したもの。お太鼓柄なんですがうまいこと柄が隠れて、無地に見えます。

長過ぎた帯を少し切った端切れで、姉がバッグを作ってくれました。持ち手はこれも貰い物の帯締めです。

足元は先日当サイトでも紹介された新作カフェ草履。保多織の鼻緒です。これが履きたくて草履から合わせていったら、こんなコーデになりました。

 

さて会場は中央線武蔵小金井駅前とアクセス抜群で、都内からも来やすい距離。世田谷在住の友人夫妻も遠征して来ました。

彼らは南武線が利用できるので、帰りは国立で飲もう! とそれぞれの席に。プログラムを開くと、ななんとトリは喬太郎!?

このメンツなら市馬じゃね? とは思うけど、まあ、定席の出番の都合とかあるんだろな。で、開口一番のあと、トップは白酒。

桃月庵って変わった亭号ですが、五街道雲助門下で、ここの一門は真打ちすべてが違う亭号なんです。生で聞くのは私は2回目。

ちょうど○ヤングやマ○クの異物混入事件の直後とあって、マクラはそのネタ。

○ヤングの焼きそばが出荷停止となって、ネットで高額取引されているという話から、ついでに志の輔のチケットも高騰しているらしいとか、

マ○クなんかもう何が入ってても驚かないとか、いい声、明晰な口跡で、丸っこい外見に似合わぬ毒舌ぶり。

(そういえば私、開演前の虫押さえにマ○クでベーコンレタスバーガー食べたんだよな…)

ネタはたわいのない夫婦喧嘩に、大家や友達が仲裁に入ってはさらに喧嘩が大きくなり、通りがかりのアメリカ人宣教師(笑)や、

しまいにゃプーチンや習近平やら「喧嘩好き(大笑)」な連中が押し寄せて…という一見古典っぽいけど、実は新作らしい『満員御礼』。

2、3年前初めて聞いたときは、ふーん、うまいね、優等生だね、としか思わなかったけど、いやあ、ふんっとにうまいわ。

声よし、口跡よし、テンポよし、クスグリもぴりっと毒が効いてて、でも愛嬌のある風貌が尖った印象を与えない。次は古典の大ネタで聞いてみたいな。

続いてもう出て来るのか、市馬会長。ちょうど大相撲初場所の最中とて、マクラは相撲の話。

「しがあ〜〜し〜、はく〜ほう〜う」と呼び出しを真似てみせるのも本職はだし。あーいい声だ。音程の悪いヘタクソな本職ってけっこういるもんな。

大拍手に応えて、相撲甚句をひと節。客も大喜びだけど、要は本人が唄いたいだけなんじゃ…いや、すんばらしいんですけどね。

で、ネタは『七段目』。歌舞伎狂いの若旦那、大旦那に叱られて二階へ追いやられるが、一人で芝居ごっこを続けているので、小僧が様子を見に行かされる。

ところが小僧も芝居好きと知った若旦那、妹の長襦袢を小僧に着せ、手ぬぐいを姉さんかぶりにさせて女形に仕立て上げ、

忠臣蔵の七段目ごっこを始める。小僧はおかる、若旦那は兄の寺岡平右衛門。いい調子で芝居は進んで行くが、

仇討ちの秘事を知ってしまったおかるを、平右衛門が斬ろうとする場面、若旦那の腰には本身の脇差。

役になりきった若旦那が「すまねえ妹、死んでくれ!」と抜きかかり、小僧は階段を転げ落ちる。

階下の大旦那「てっぺんから落ちたのか?」小僧「いいえ、七段目」というのがサゲ。

この噺や、『中村仲蔵』なんかを聴くたびに、ああ、先に歌舞伎にハマっといて良かったなあと思います。

若旦那が口にする「こりゃこの男の生き面を〜」「太宰の家が立ちませぬう〜」「晦日に月の出る里も、闇があるからおべえていろお〜」

数々のセリフがどの芝居のどの場面かだいたいわかるし、小僧と若旦那が繰り広げる芝居ごっこも退屈せずに楽しめる。

もちろん歌舞伎の知識がなくても、演者の技量で楽しめるようにできてるけど、分かるに越した事はないやね。昔の人は普通にわかってたわけで。

たい平や米團治はモノマネが得意だから、人気役者の声色もやる。これがまた達者なんだな。

市馬はもう本人の声と口跡が抜群だから、聞いてるだけで気持ちいい。

ところで、ネットの書き込みで見かけてなるほどと思ったんだけど、市馬って公明党の山口那津男代表に似てるのね。

山口代表もいい声だけど、坊主刈りにしたら見た目ももっと似ると思う。一度山口代表の三橋美智也を聴いてみたいもんです。

 

仲入りありまして、菊之丞登場。名人上手の早世が続き、ずいぶん寂しくなってしまった古今亭一門で、最も期待される一人です。

この人の師匠は志ん生最後の弟子と言われる円菊。円菊の元気だった頃は独特の言い回しがおかしくて、大好きでした。

師匠の芸風とは全く違う端正な噺家で、容貌も役者のようないい男、という評判ですが、マクラはテレビドラマ初出演の話。

4月に始まるNHKの土曜ドラマ『64』で、ピエール滝の上司を演じてるんだけど、これがまたイヤミな役で…だそうで、放送をお楽しみに。

てことで、ネタは『親子酒』。酒好きの大旦那、やはり大酒飲みの息子の将来を思って互いに禁酒の約束をした。しかしそう簡単にやめられれば苦労はしない。

息子の外出中におかみさんを拝み倒して一本つけてもらった大旦那、もう一本だけ、もう一本だけとキリがなく、ついにへべれけ。

そこへ帰って来た息子、こちらもすっかりいい調子。お出入り先でついごちそうになり、先様と二人で二升五合あけたという。

「馬鹿野郎、あたしゃあこの身代をお前に譲ろうと思えばこそ…」と激怒するオヤジ、しかし酔眼朦朧とした目に息子の顔が3つにも4つにも見え

「お前みたいな化け物にこの身代が譲れるか!」と叫ぶと息子も「あたしだってこんなぐるぐる回る家なんかいりません」がサゲ。

酔っぱらいネタの噺は多いけど、これは酔っぱらい二人のやりとりがバカバカしくて楽しい。

以前相撲取り出身の巨漢・歌武蔵で聴いたときは、そりゃあ迫力満点の酔っぱらい親子だったなあ。

菊之丞だとちょっと上品でウフフな感じの酔っぱらいでした。今度『明烏』なんかの色っぽいネタが聴いてみたいっす。

お次は色物で太神楽。鏡味味千代って、どっかで聞いたなあ、と思ったら、以前NHKの情報番組で紹介されてた、OL出身の変わり種。

なんでも30歳近くなってから太神楽にハマり、すぱっと大企業を退職して国立劇場の研修生を経てプロデビュー。

フランス留学の経験もあり、特技は英語とフランス語だとか。どうりであか抜けた感じのすらりとした美人です。

太神楽としてはま、普通ですが、そうした前歴はおくびにも出さず、一生懸命な演技が好ましいです。

さていよいよ大トリはお目当ての喬太郎。前の3人がキレっキレの正統派なんで、ここはきっちり古典で来るか、あえてハズして新作か?

というワクワク感も喬太郎ならでは。マクラは旅の話で、『ハワイの雪』あたり来るか?と思いましたが、北海道に日帰りで学校寄席に呼ばれた話になり、

その学校が最寄りの駅からタクシーで1時間半という話から…『抜け雀』になりました。

毎日酒ばかりくらっている長逗留の客に宿賃の催促に行った気弱な旅籠の亭主、金はないから宿賃代わりに屏風に絵を描いてやると言われた。

売るつもりだった白屏風に客が描いたのは5羽の雀。客は自分が再びこの宿を訪れるまでこの屏風を売ってはならないと言って出立する。

女房にさんざん罵倒された亭主が、翌朝屏風のある部屋の雨戸を開けると、絵から雀が抜け出て外を飛び回り、また絵の中にぴたりとおさまった。

これが評判を呼んで、千客万来、宿は押すな押すなの超満員、並んだ客の列が小田原から小金井まで続いたという、これは喬太郎お約束のギャグ。

地元の殿様大久保加賀守から千両で買いたいという申し出も、亭主は律儀に約束を守って断った。

ある日宿に上品な老人が、評判の絵を見せてくれとやってきた。じっと絵を見ていた老人は「この絵にはぬかりがある」と言い出した。

「雀たちの休む枝がない。このままでは雀は疲れて死ぬぞ」「えっ、じゃあどうすれば…」「わしが籠を描いてやろう」と、渋る亭主に墨を摺らせ、

老人が鳥籠を描き足すと、雀は喜んで籠に入り、羽を休めた。これがまた評判となり、大久保候は二千両の値を付けたが、亭主はまた辞退した。

あの客が現れたら御礼をと、夫婦で心待ちにしていると、立派な身なりになった客がふらりと宿を訪れた。

話を聞いて、亭主の律義さに感心していた客の絵師、老人の話を聞くと屏風の前に手をついて「私はなんという親不孝者だ」とはらはらと涙を流す…

「ピロロロロッ♪」うわっ! この大詰めに来て客席で携帯が! しかしここからが喬太郎の真骨頂。

亭主「あの、携帯鳴ってますよ」絵師は懐からスマホに見立てた手ぬぐいを出し、「あと3分で終わる!」と一喝。何事もなく噺に戻り…

老人は絵師の父親だと言う。「あなたのような名人なら、親不孝という事はありますまい」「いや、大事な親を籠かきにした」。

このサゲ、タクシーのマクラから、昔はタクシーではなく駕篭で、駕篭きというのは雲助と蔑称されたりしてあまり上品な職業ではなかった、

という前ふりがあって、父親に「籠を描かせた」→「駕篭を舁かせた」というのをひっかけてあるんですね。

ちょっと難しいサゲですが、志の輔や喬太郎でよく聴くネタ。必ずタクシーのマクラを振るのがお約束みたいになってます。

それにしても悩ましい着信音問題を見事に解決。江戸時代と現代を平気で行き来してしまう喬太郎ならではの、これこそ現代の名人芸じゃなかろうか。

ともあれ、脂ののった四人の競演、みんな気合いが入っていて大満足でした。今の落語界の最良の部分だったと思います。ありがとー!

 

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