スタッフN村による着物コラム
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10月は東京展があったりしてバタバタで、更新できませんでした。済みません。
東京展においでくださった皆様、私からも御礼申し上げます。
さて、10月の休日、わが山里の熊野神社でも秋祭り。獅子舞の奉納がありました。
山の上の小さな神社ですが、室町時代の創建で、獅子舞も江戸時代から続く東京都の無形文化財です。
激しい動きなので、私の写真の腕ではうまく捕えることが出来ず、連写でゴマかすことにします(笑)。
多摩地域では似たような獅子舞が広く分布しているようですが、どこも後継者不足は悩みのタネ。
昔は氏子の長男しか舞わせなかったり、獅子の家、笛の家などと代々決まった家が受け継いでいたそうですが、
今は村中総出で、あちこち掛け持ちする子供たちもいるようです。
ハロウィンで大騒ぎも結構ですが、自国の伝統もしっかり守っていきたいものですね。
47.本当は怖い『伊勢音頭』
文楽の豊竹嶋大夫が引退するそうです。ついこのあいだ人間国宝になったばかりだというのに。
御歳83歳だそうですから、無理もないとは思いますが、好きな大夫だったので大変に残念です。
ちょっとクセのある声と、粘っこい語り口が世話物にはぴったりで、昔の大坂の庶民ってこんな感じなんだろうなと思わせてくれる芸風です。
竹本住大夫の引退後、まだしばらくは重鎮として頑張ってくれると思っていたんですが…。
これで切場語り(落語で言えば大トリ、宝塚で言えばトップ)は咲大夫一人かあ。寂しい限りです。
人形、三味線は着々と世代交代が進んでるけど、大夫陣は国宝とその他大勢、って感じで結局これまでのところ住大夫、嶋大夫しか印象に残ってないなあ。
これからは中堅の大夫たちのいっそうの奮起を切にお願いしたい。
来年引退公演があるようなので、最後の語りをじっくり聴かせていただきます。嶋大夫、お疲れさまでした。
で、9月の文楽公演は『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)』を目当てに出かけました。11時の開演にはどうしても間に合わないので、いつも最初の演目はパス前提。
国立劇場まではドアツードアで2時間近くかかるもんで、半蔵門駅に着いたらもう疲れちゃって。駅前のサンマルクでコーヒー飲んでからやっと到着。
この日は空模様が怪しかったので、楽しみにしていた仕立て(直し)おろしのお召し縮緬(おっそろしく雨に弱いのです)を急遽紬の単衣に変更。
帯や小物も慌てて合わせたので、なんだか当たり前すぎるコーデになってしまってあんまり面白くないです。
劇場に着くと、2演目めの『鎌倉三代記』の途中でした。この芝居は歌舞伎でも見た事がなく、予備知識ゼロ。
大坂夏の陣を鎌倉時代に置き換えた話とかで、ほほう、来年の大河ドラマ『真田丸』を意識してのことでしょうか。
なんか一応名作で大作らしいんですが、途中から入ったせいか、話はチンプンカンプンで、全然頭に入って来ませんでした。
ただ、ヒーローの三浦之助の人形が、頭は見慣れた二枚目用の「源太」なんですが、前髪立ちでそれがまた手負いなもんでちょっと乱れてて、
甲冑を着けているのですごく小顔に見えるんですね。なんかねー、悲愴美にあふれてて、人形なのにズキンときましたよ。
三浦之助のモデルは大坂夏の陣で活躍した木村長門守重成だそうで、この人はイケメンで有名。来年の大河『真田丸』では誰がやるんだろう。
この人形の小顔っぷりなら、イマドキの向井理だの松坂桃李だの山崎賢人だのというひょろ長くて小顔なイケメンたちでも十分イケると思いました。
『真田丸』楽しみだなあ、早く始まんないかなあ…などと夢うつつで思ってるうちに終演。
さてと、お目当ての『伊勢音頭恋寝刃』です。これは歌舞伎で何度も見ていますが、文楽では初めて。
私の贔屓の片岡仁左衛門丈も持ち役で、DVD持ってます。かっこいいです。うふふ。
江戸時代に伊勢の古市で実際に起きた殺人事件がもとになってますが、要はお決まりの「お家の重宝」をめぐる因果話です。
伊勢神宮の御師、福岡貢はもと侍で、旧主の今田萬次郎が紛失した名刀「青江下坂」を捜索中。
刀は手に入ったものの、肝心の折紙(鑑定書)は、今田家失脚を狙う徳島岩次の手に。貢の恋人・油屋の遊女お紺は貢のために岩次になびいたふりをする。
岩次の一味、油屋の仲居・万野は、貢が醜女のお鹿に金の無心をする偽手紙をでっちあげ、満座の中で暴露して貢を辱める。
お紺は偽手紙と知りながら、折紙を取り返すためにわざと愛想尽かしを言って万野の言うままに岩次のもとへ。
貢のもと家来で、料理人の喜助は、岩次が刀身をすり替えた「青江下坂」を、間違えた振りをして貢に渡す。
怒りに燃える貢は万野に追い出されるが、拵えの違う刀を見て、これは違うと油屋に取って返す。中身は本物なのにさ。
万野と争ううちに鞘が割れ、万野を斬ってしまった貢は、やけくそなのか狂気の沙汰か、出会う者を端から斬り殺し、岩次を探し求める。
お紺は首尾よく折紙を手に入れ、血まみれの貢に渡し、折紙のために心ならずも愛想尽かしをしたと言う。
喜助もやって来て、実は今貢が手にしている刀こそ青江下坂だと告げる。貢は岩次を斬り捨て、喜び勇んで萬次郎の元へ急ぐ。
まあ、よくあるといえばよくある「旧主のために」「お家の重宝」を探す話ですが、この芝居の見どころは万野なんですよね。
歌舞伎でも六代目歌右衛門や玉三郎という立女形が演じてますが、彼らのように姫から悪婆までできる役者でないと務まらない。
私の持ってるDVDだと貢が孝夫時代の仁左衛門、万野が玉三郎、お紺が雀右衛門、喜助が十八代目勘三郎(当時勘九郎)という、豪華メンバーです。
今回の人形役割は貢が吉田和生、万野が桐竹勘十郎、お紺が吉田蓑助という、これまた豪華な布陣。
女形や貴公子役の多い和生の貢は「ぴんとこな」と言われる、柔らかみのある貢役にぴったりだし、蓑助のお紺は大御馳走。
万野はもうこの人しかいないでしょうという勘十郎。万野の演技が憎たらしければ憎たらしいほど、この芝居は面白い。
人形の万野は、歌舞伎よりも少しチャリ(コミカル)がかっていて、ちょっとお間抜けかな。
まあ、この芝居の登場人物は主人公の貢からしてかなーりお間抜けなんだけど。
で、刀を何度もすり替えるもんだから、しまいにゃどっちが本物なんだか見てる方もわけわかんなくなったりする。観客もお間抜けか?
貢は非常に逆上しやすいキャラクターなんだけど、万野と言い争ってるうちはまだ正気を保ってる。
ところが鞘ぐるみの刀で万野を叩くと、鞘が割れて青江下坂が存在を主張するかのように切れてしまう。
血を見て騒ぎだした万野に貢は逆上、たぶさ掴んでバッサリ。もうそれからは騒ぎを聞きつけて出て来る人を次々と手当り次第にぶった斬る。
貢に横恋慕していたお鹿を斬り、無関係な客も、仲居も首チョンパ、無邪気な見習い遊女の少女は片足をちょん切られてあわれ失血死。
お紺と喜助に止められてやっとおさまった大量殺人は、旧主の重宝が手に戻ったと喜んでる場合じゃないでしょという大惨事。
歌舞伎でもまあ納得のいく結末じゃないんだけど、殺人現場は万野とお鹿だけで、あとは場面が転換するのでそんなに陰惨ではありません。
しかし、文楽はいかに人形とはいえ、ゆっくりたっぷり最低でも5、6人
の殺し場を見せられるので、ちょっと胸焼けがします。
主役を可能な限り良く見せようとする歌舞伎の演出は、やはりしっかりアク抜きができているんだなあと思いました。
油屋の段の大夫は咲大夫。わりと苦手な大夫なんですが、今回は万野のイケズが炸裂し、その毒舌っぷりに大いに笑わせていただきました。
人形の万野はあっけらかんとした意地悪ババアで、気持ちいいくらい。
生身の役者がやると、実にねちねちといやらしく、それはそれで面白いんですが、殺し場よりこっちの方が陰惨な感じになります。
万野は貢に惚れているという解釈もあるらしいんですが、人形はそんな屈託はなく、実にすっぱりとイヤなヤツでした。
ちなみに私が歌舞伎で最高の万野だと思ったのは、映像でではありますが、故・嵐徳三郎です。あ、貢はもちろん孝夫時代の仁左衛門ね。
高松出身で、高松にうどんツアーで行ったとき、偶然回顧展を見ることができました。
門閥出身ではなかったので、大幹部にはなれませんでしたが、実に個性的な素敵な女形でした。いや、生で見たことないんですが。
11月には大劇場で、中村梅玉の貢で歌舞伎公演があった模様。万野は魁春だったようですが、さて、どんなイケズっぷりを見せてくれたのでしょうか。
若手だったら、そうだなあ、うん、猿之助がいいと思う。きっと巧いよー。貢は染五郎、お紺は七之助がいいかな。
松竹さん、企画よろしくお願いします。あ、できれば国立でね。安いから(笑)。
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