スタッフN村による着物コラム

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7月になっても一向に梅雨が明けませんが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

例年にない大雨や台風で、被災された地域の方々にお見舞い申し上げます。

とはいえ、6月に暑い日が続いたせいか、わが菜園では夏野菜がバカ成り。

これはある朝の収穫です。

時計回りにキャベツ、キュウリ、インゲン、甘長唐辛子、トマト、オクラ、ピーマン、ナス、中央がズッキーニ。

老父と二人暮らしでどうせいっちゅうんじゃ! というくらいに穫れまくってます。

もちろん友達やバイト先に配り歩いてるんですがね。

これからカボチャやゴーヤもなり始めるし、空心菜もぐんぐん育ってるし、倉庫にはジャガイモとタマネギがぎっしり。

当分八百屋に用はなさそうです。

 

35.志の輔でガッテン

梅雨の合間を縫って、はるばる川崎市まで立川志の輔を聞きに出かけました。

世田谷に住んでいる友人から、都合で行けなくなったチケットを譲ってもらって。

青梅から川崎なんてすんごく遠く思われるかもしれませんが、実は都心に出るのとあまり変わらない所要時間。

青梅線で立川(たてかわ。じゃなくてたちかわ、ね)へ出て、南武線に乗り換えれば会場の武蔵中原までは一時間ちょっと。

世田谷の友人も川崎は隣の市なので、毎年開かれるこの会に出かけるんだそうな。チケット取りの難しい志の輔独演会の穴場だとか。

雨は降らないという予報だったので、仕立て下ろしの阿波しじらを一着に及び、

重いカメラを持ちたくなかったので、自宅の庭でパチリ。

無地ですが、近くで見ると織の具合でみじん格子のニュアンスあり。やや明るめの藍で、ジーンズ感覚です。

帯もどっかのワゴンセールで3千円くらいでゲットした木綿のプリント縞。帯留はトルコ物産店で買った魚の形のガラス製マグネット。

反物で1万円以下という超カジュアル価格の阿波しじらなので、合わせる小物もカジュアルにしちゃってます。足元は竹皮張りの下駄。

曇りでも蒸し暑い日だったので、下着はスポーツブラにクレープ生地のレース袖なんちゃって半襦袢に保多織ステテコ、ポリ絽の裾除け。

薄いけど透けない阿波しじらは本当に使い勝手がいいですよ。

それはさておき、落語会です。

独演会とはいっても開口一番に弟子が出るのはお約束。

出囃子が聞こえてくると、ん?何やら懐かしいメロディ。ウルトラマン?いや、♪ひっかるーうみひっかるおーぞらひーかーるーだいーちー

ああ、エイトマンだ、てことは志の八だな。

案の定、志の輔の二番弟子、志の八登場。パックンことパトリック・ハーラン似の大作りな顔立ちと体型。

マクラに続いて「植木屋さん、ご精が出ますな」とくれば、この季節よく出る『青菜』。

一仕事終えた植木屋が、旦那から「柳陰」という酒と鯉の洗いをごちそうになる。「時に植木屋さん、菜はお好きかな」「へえ、でえ好きで」。

次の間の奥さんを呼んで青菜のおひたしを言いつけるが、奥さん「鞍馬から牛若丸が出でまして、その名を九郎判官」旦那「じゃあ、義経にしておけ」。

ちんぷんかんぷんの植木屋が会話の意味を尋ねると、菜がない、というのを隠し言葉で婉曲に言ったのだという。

「菜を食ろう」てもうない、じゃあ、「よし(つね)にしておけ」。奥ゆかしい会話にすっかり感心した植木屋、家に帰るとやってみたくてしょうがない。

女房を次の間ならぬ押し入れに押し込め、友達の大工の半公相手に「植木屋さん、菜はお好きかな」とそっくり旦那の口まね。

「よせやい、俺あ大工だ、植木屋はおめえじゃねえか。菜なんかでえ嫌えだよ」という半公だが、構わず女房を呼んで菜を言いつける。

汗だくで出て来た女房「鞍馬から牛若丸が出でまして、その名を九郎判官義経」まで言ってしまって困った植木屋「うう、弁慶にしておけ」

…というのが普通のサゲなんだけど、志の八はさらに「九郎判官義経弁慶」まで言ってしまい、夫婦喧嘩になるのを半公が「おめえら静にしろ」。

このサゲは初めて聞いたなあ。志の八オリジナルなのか、師匠のサゲなのかわからない(志の輔の青菜を聞いたことがないので)けど、よく考えたな。

もともと能天気な噺だけど、志の八の明るくて大振りな口調や所作によく合って、さっぱりしたオードブルでした。

ところで「柳陰」というのは焼酎を味醂で割った酒だそうで、噺の中でも甘い、と言ってますが、想像しただけで口の中がべたべたしそう。

さすがに試したことないし、機会があっても飲みたくないです。どっかの酒屋で売ってるのを見たことあるけど。

続いて志の輔登場。

サッカーワールドカップの予選リーグ期間だったので、サッカーがらみのマクラに続いて、ネタは志の輔オリジナルの『親の顔』。

主人公は大工の八五郎だけど、れっきとした新作。

息子の金太が100点満点のテストで5点しか取れず、担任の先生から呼び出しを受けた八つぁん。

こんな点数を取る子の親の顔が見たいってことなんだろうと、3者面談に臨んだ。

答案には実に奇々怪々な回答が書かれている。問題「太郎君と次郎君が草刈りをして、太郎君が2分の1、次郎君が3分の1刈りました。残りはどれだけ?」

金太の回答は「やってみなければわからない」。

問題「81個のみかんを9人で分けました。一人いくつ?」回答「ジューサーでジュースにして分ける」

問題「牛馬猪羊ライオン、仲間はずれはどれでしょう」回答「仲間はずれはいけません」

回答はすべて×なのだが、零点はしのびないという先生の好意で、名前が書けたことに5点つけてくれたという。

先生の前で金太と八つぁんは回答を検討し始めるが、「太郎君と次郎君が仲がいいのか悪いのかわからないから、やってみなければわからない」

「みかんには大小もあるし、甘いのや酸っぱいのもあるからジュースにして分けるのが公平だ」と、金太の答えにもそれなりに一理ある。

その上八つぁんは金太の斜め上を行く珍回答を連発。「「残さないで全部刈れ、が正解だ」「81個のみかんはジューサーにいっぺんに入らない」云々。

金太の答えは正解ではないが、一理あるからといって2点、3点と上乗せしていく。

最後に「本能寺の変で寺を焼いたのは誰?」「僕じゃありません」これは10点でしょう、ねえ先生!

根負けした先生、「ええ、もう何点でも持ってって下さい、ところで、私、一度お宅にお伺いしてもいいでしょうか」「なんで?」

「私、お父さんの親の顔が見たい」

初期の作品ということで、私は初めて聞く噺。

八五郎が江戸っ子の「でえく」で、口調も古典風。息子の名前も金太なんだけど、テストの問題や金太の屁理屈は現代語。

八五郎のぶっとんだ珍回答もあいまって、なにやらファンタジックな展開に。

これが談志の言う「イリュージョン」なのか? まあ、談志はさておき志の輔ワールドであることには間違いないです。

中入りあって、志の輔かと思ったら、大きな三味線を抱えた小さな女の人がちょこんと座ってる。義太夫三味線の田中悠美子という人だそうな。

この小さな人が異様に元気で、太棹三味線の音もどおんと野太く、弾き語りで安珍清姫の『日高川』を。

本来義太夫は語りと三味線は別々でなければならず、弾き語りは御法度だとかで「脱法義太夫」と称してます。

そのあと「曲弾き」というのを披露。絹を裂くような絶叫とともに、バチはぶん投げる、三味線は逆さにする、頭上で早弾きする、アクロバット奏法の連続。

三味線界のジミ・ヘンドリックスか? いやいや、ご本人は東京芸大音楽科卒、師匠は人間国宝、芸はれっきとした伝統芸なんだとか。

いやはや、伝統芸能、奥が深い。田中さんのあまりのテンションの高さに、客席は唖然としていましたが。

続いて志の輔、紋付袴で登場、ネタは『帯久』。今は志の輔しかやる人がいないという珍しい噺で、講談社の『落語手帖』には載ってない。

そこでこないだ古本市でゲットした『落語事典』の登場です。へへ、ちゃんと載ってらあ。

和泉屋与兵衛は大繁盛の呉服屋、町内の帯屋久七は「売れず屋」とあだ名されるほどさびれている。久七は与兵衛に二十両借りに来る。

気の優しい与兵衛は快く貸してやり、久七も律儀に二十日ほどで返しにくる。

それが三十両、五十両、百両となって、返しに来たのが大晦日。忙しさにまぎれて与兵衛が置きっぱなしにした百両を、久七はネコババして帰る。

あとで気付いた与兵衛だが、ことを荒立てずにいたところ、両者のツキが入れ替わり、久七は百両を元手に開いたバーゲンセールが大当たり。

与兵衛は妻子に先立たれ、店は火事で焼け、自分は病に伏すという不運続き。忠義な番頭の長屋に居候の身。その間帯屋は大繁盛。

十年経ってようやく病の癒えた与兵衛、苦労を掛けた番頭に報いてやりたいと、久七のところへ借金に行く。

昔のこともあるし、と頼み込むが、けんもほろろにあしらわれ、キセルで額を割られる始末。

絶望し、首をつろうと帯屋の普請場で末期の一服をつけると、火玉が飛んでおがくずに火がつく。

ただそれを呆然と眺めていた与兵衛、火付けの疑いで引っ括られる。幸いボヤで済んだが、久七は奉行所に訴え出る。

そこで名奉行大岡越前守登場。

調べてみると久七が百両ネコババしたのは間違いない、そして与兵衛はその前の何度かに渡る貸し金に利子をいっさい取っていない。

久七は利子も合わせて百五十両を与兵衛に返せという判決。なんとか泣きついてそのうち五十両は年一両の分割にしてもらう。

しかし与兵衛の火付けの罪も有罪となる。火付けは火あぶりと決まっているが、刑の執行はその分割払いが済んだあと、すなわち五十年後となる。

現在還暦の与兵衛、五十年後の火あぶりなんて痛くも痒くもないわけで、めでたく一件落着、という噺。

おなじみ名奉行大岡越前モノなんですが、まず長い! たっぷり一時間っすよ。

で、まず借金の借りて返してのくだりがくどく、久七があまりに極悪非道で救いがなく、暗い。

奉行の裁きもなんだか与兵衛にえこひいきしてるみたいですっきりしない。他の演者がやらないのもむべなるかな。

帰りの時間も気になるし、後半はちょっとじりじりしちゃいました。まあ、公共のホールは9時半終了厳守なので、それを超えることはないんですけどね。

志の輔は悪人の描写がなんだか談志に似て来たなあ。与兵衛を追い出す久七の声が談志そっくりでしたよ。今まで似てると思ったことないんだけど。

久々の志の輔らくご、たっぷりすぎてお腹いっぱい。

ところで我が家は『ためしてガッテン』ファンなのですが、けっこう「ガッテン流」を実践してます。

私が気に入ってるのは3分ゆで卵。鍋に卵を入れ、三分の一くらいの水を入れ、フタをして沸騰させること3分、そのまま10分放置。

これでがっつりハードボイルドエッグになります。お試しあれ。あと、イチゴのへたをストローで抜く、ってのもやってるな。

このあいだとろろ昆布がお通じにいいと言ってたので、便秘に悩む父の朝食のみそ汁に大量投入。パンの日も昆布汁を出して毎朝摂取。

おかげで三日に一度だったお通じが、みごと毎日と相成りました。

我が家の合い言葉は「志の輔、ウソつかない」です(笑)。

 

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