スタッフN村による着物コラム

「オキモノハキモノ」 に戻る

 

久々にまとまった雨の降るG.W.の一日。

この時期はなにかと畑仕事が忙しいのですが、この雨では外にも出られず、ゆっくりPCに向かうことができました。

昨日は雨が降る前にと、ジャガイモの周りの草取りと芽欠き(大粒に育てるため、芽を一本立ちにする作業)、

里芋とショウガの植え付けと大忙しでした。

私の部屋の窓際では、夏野菜の苗を成育中。

写真はズッキーニとキュウリ。他にカボチャとゴーヤもあります。

日当りがいいのと、虫が来ないので、苗の生育はもっぱらここで行います。

なんだか温室に間借りしているような気分になってきました。

 

33.アウェー戦二つ

 私の住まいは東京の辺境・青梅市ですが、埼玉県飯能市とは隣り合わせ。

青梅市のさらにはずれの我が家は、最寄り駅が青梅ではなく、西武池袋線の飯能駅です。

その辺境にある飯能市民会館で、4月19日風間杜夫と立川談幸の落語会があるというので、車を飛ばして出かけました。

うちからだと青梅市民会館より飯能市民会館のほうが近いし、古くて狭い青梅より、飯能のほうが新しく、座席もゆったり。

なぜ風間杜夫の落語会?とは思いましたが、彼の一人芝居より安い2500円という木戸銭。

まあどんなもんだか、もしセコでもこの値段なら腹も立つめえ。二人会なら、談幸のほうは間違いないだろうしね。

前座もなくいきなり高座に風間杜夫。2席ずつやるらしい。先月の『国民の映画』にも出てたから、2ヶ月連続で見ることに。

出てくるとやっぱりスターらしい華がある。マクラのトークも軽妙だけど、落語家のしゃべりとはちょっと違うな。

何が一番違うか。トークの内容が、去年演じた舞台の話なんだけど、あれもほめられた、これもほめられたと、自慢話なのね。

あえてゴーマニズムで行こうというコンセプトなのかもしれないけど、プロの落語家はたとえ自慢話をしても最後は自分を落としてみせる。

しょせん我々芸人なんてぇ者は、というへりくだった姿勢が必ずあるんだけど、そこが芸人と俳優の違いなのかな。

ちょっとカチンときたものだから、いざ噺に入るとアラが気になってしょうがない。

手ぬぐいや扇子の扱い、所作全般、やたらと多い「あー」だの「うー」だの、人物の演じ分けができてなくて誰が誰だかわからなかったり。

先にへりくだっておけば「素人だからな」と温かい目で見られたかもしれないんだけど、ゴーマンかましてきたので、意地悪くなってしまいました。

まあ、隣で見ていたあまり落語に詳しくない姉も「ちょっとハラハラするね」と言っていたので、私だけの感想ではないようです。

亭号を名乗ってないので、特定の師匠はいないようだけど、柳家花緑だか立川談春だかにやたらほめられたので落語をやるようになったと言ってたな。

あいつら、ヨイショもてえげえにしとけ。さもなくばちゃんと指導しな。

役者としての風間杜夫は好きな方だけど、ちょっとアウェー戦のやりかたを間違えたかな。演目は『風呂敷』と『宿屋の富』。

談幸は『鹿政談』と『試し酒』。こちらはきっちりとした正統派の芸。料金分はしっかり楽しませてくれました。

客席のほうも場慣れしてないようで、遅れて来るは、私語は多いは、飴の袋をばりばり破るは、携帯やアラーム鳴り放題…ちょっと疲れた。

終わってもまだ陽が高かったので、会場のそばの能仁寺をぶらり。

ここは幕末、戊辰戦争の戦場になったところ。上野で敗れた彰義隊の残党が立てこもり、飯能一帯火の海になった時に全焼したそうな。

今は紅葉の美しい静かな寺です。この時期、楓の新緑が美しい。

 

さて、次は23日。三谷幸喜の新作、池袋の東京芸術劇場で『酒と涙とジキルとハイド』。

池袋なら飯能駅から快速急行で45分。うちからは一番近い都内の繁華街です。

この日はオバマ大統領の来日で、銀座辺りはピリピリしてたようですが、池袋にはなんの影響もありませんでした。

こちらは何がアウェーかというと、歌舞伎の片岡愛之助が三谷作品に初出演、しかも赤毛もの、さらにコスプレ。

愛之助はドラマ『半沢直樹』ですっかりオネエ官僚というイメージが定着してますが、歌舞伎じゃ実力派の花形立役なんだぜ。

まあ、若い頃は女形もやってた(しかも綺麗だった)けどね。

ストーリーは『ジキル博士とハイド氏』のパロディ。(ここから先ネタバレにつき、これから観る人は読まないで下さい)

人間を善悪二つの人格に分ける薬の研究をしているジキル博士(愛之助)、明日が学会発表だというのに、薬は失敗作。

困った博士は売れない役者(藤井隆)をスカウトして来て、薬を飲んだあと悪の権化に変身したハイドを演じさせようとする。

なんやかんや出入りしている博士の婚約者・イブ(優香)は、役者が演じるワイルドなハイド氏に一目惚れ。

思い込みの強いイブは、薬が本物と信じて、ワインに混ぜて飲み、自身もビクトリア時代のお嬢様から莫連女のハイジ(笑)に変身する。

ところがイブが好きなのはハイド氏で、ハイジが好きなのは生真面目なジキル博士。

博士の助手(迫田孝也)がタイミングよく薬と解毒薬を差し出して、イブとハイジは目まぐるしく入れ替わる。

その度に「博士を出せ!」「ハイドを出せ!」と要求が変わり、博士と役者はてんてこまい。

そのうちこの猿芝居がバレ、思い込みで人格が入れ替わっていたことに落ち込むイブ。そこで助手のD難度な言い訳は

「この薬は飲むと誰でも“ハイジ”になってしまう薬なんです!」

薬を飲んだ博士と役者はあばずれなオネエキャラを演じるはめになる…

って、ここをやらせたくて愛之助をキャスティングしたんかい! と思うほどの大ウケ。黒崎管理官がそこにいた。

万策尽きた博士、薬のフラスコを手にがっくりうなだれ、涙がぽとりと薬に落ちる。

フラスコからもうもうと煙が上がり、今度こそ完成か!?と博士は薬をあおるのだが…。

ま、やっぱり失敗なんですね。『酒と涙とジキルとハイド』ってタイトルは単なる語呂合わせかと思いましたが、一応つじつまも合わせてるのね。

愛之助は生真面目な博士を生真面目に演じてました。

生真面目にやるほどおかしい役だし、もともと声も口跡もいい役者なので、アウェー感はまったくなし。

「実験は、ネズミでは200回成功したんだ! 記録ノートはまあ…(もにょもにょ)」と、時事ネタもタイムリー。

優香はお嬢様役はいかがなものかと思ったけど、莫連女はサイコー。さすが元ヤン(?)。声にもっとふくらみがあるとさらにいい。

藤井隆はいい喜劇役者ですね。三人の中では最もプロフェッショナルだった。

地の役はまじめな熱血漢なんだけど、ハイド氏に(仕方なく)変身する演技がもう吹っ切れてる。ちょっとナイロン100℃の大倉孝二っぽいな。

で、助手の迫田孝也。実質的には彼が狂言回し。三谷作品の常連らしいのですが、舞台では初見。

最初に登場するのが彼なんですが、あたしゃあ市川海老蔵がサプライズ出演してるのかと思いましたよ。素顔は似てないんだけどね。

まあとにかく全編ドタバタで、アハハと笑って後腐れも何もなく、ああ面白かったと劇場を出ました。喜劇や落語って、それが一番だよね。

ここんとこ三谷作品は妙に肚にこたえるものが多かったので、久々にくっだらねえ話を楽しみました。

劇場を出ると、前庭の西口公園で古本市が開催中。なにげに立ち寄って、青蛙房刊の東大落語会編『増補 落語事典』を格安でゲット。

ネットの密林で本なんか簡単に手に入る時代だけど、こういう楽しみはやっぱり古本市。たまに都会に出るといいこともある。

ホクホクしながら特急レッドアローで帰宅しましたとさ。

 

スタッフN村による着物コラム

「オキモノハキモノ」 に戻る