スタッフN村による着物コラム

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明けまして、というにはいささか間抜けな時期になってしまいましたが、まずはおめでとうございます。

当地は連日氷点下の冷え込みですが、それでも季節は少しずつ春に向かっているようで、今年も早々とふきのとうが芽を出しました。

毎年春の便りというとこればっかりで恐縮ですが、季節を感じるものって、たいてい同じものですよね。

前回ご紹介した子ヤギもすっかり大きくなって、今や母親と同じものを同じくらい食べるので、一日中お腹をすかしています。

人の顔を見れば「ハラヘッタ、ナンカクレ」とべーべー鳴きわめくのでうるさいったらありゃしない。

春になったらそこらじゅう餌だらけになるから、もう少しの辛抱じゃぞよ。

 

30.初春歌舞伎鑑賞

このコラムもなんだかんだで30回目。

毎度駄文におつきあいいただき、ありがとうございます。

今年もゆるーい感じで更新して行きますので、生ぬるくチラ見していただければ幸いです。

年初の第一回は正月恒例の国立劇場初春歌舞伎『三千両初春駒曵(さんぜんりょうはるのこまひき)』です。

歌舞伎界は昨年も波瀾万丈で、おめでたもあったけど病気や怪我で休演の役者が続出。

私も贔屓の仁左衛門が休演中だし、見物料は値上がりするし、当分歌舞伎はいいや、と思ってましたが、

友人から誘われて、国立だから少し安いうえに会員割引もあるし、コラムのネタも欲しいし、正月だし、と腰を上げました。

出かけてみれば正月(といっても12日ですが)だけあって、客席やロビーは和服姿の男女でにぎわってます。

私も滅多に着ないやわらか物の小紋(正月らしく宝づくし)に袋帯。羽織は紬地に紅型風の模様を染めた着物の仕立て直し。

色も柄もぼんやりしてイマイチ似合わなかったので、思い切って羽織にしちゃいました。白っぽいので濃い色の着物に重宝してます。

友人のTさんは総絞りの着物に袋帯、伊達政宗の陣羽織写しの羽織です。

二人ともたまたま袋帯ですが、実はともに裏技使いです。

私は二重太鼓がうまく結べなくて、何本かある袋帯がタンスの肥やしになってましたが、甥の結婚式の機会にえいやっと全部2部式に改造。

京都の帯仕立て屋・カクマさんオリジナルの2部式なので、見た目はまったくわかりませんし、優れた工夫で名古屋より簡単なくらいです。

帯を切ってしまうのに抵抗がある場合は切らずに作る文化帯もできます。Tさんはこの方式。詳しくは「帯の仕立て専門・カクマ」でググってみて。

劇場も普段地味な国立劇場もおめかしして、紅白の繭玉がわんさと垂れ下がり、役者絵の羽子板が飾られたり、それなりに華やか。

さらに眼福だったのは座長の菊五郎夫人・富司純子さん。ロビー奥のコーヒーショップで1度、それからトイレで(!)1度お見かけしました。

じろじろ見ては失礼と思い、チラ見しただけですが、モノトーンの墨流しのような大胆柄のお着物がよくお似合い。帯はよく見えなかった。残念。

トイレでは幕間の開演5分前、ほとんど人がいなくなってから入って来られました。役者の女房の心得なんですかね。つか、富司純子もトイレに入るんだ(笑)。

 

さて、芝居ですが、国立の初芝居はもう何年も尾上菊五郎が座長の、いわゆる「菊五郎劇団」による、埋もれた脚本の復活上演というのが続いてます。

このやり方は賛否、というか否のほうが多い(笑)。やはり埋もれた脚本というのは埋もれただけの理由があるらしく、

復活しても大体しっぱなしで再演もないし、今年もまあご多分に漏れないだろうなと初めからあんまり期待もしてません。

話の骨格は三谷幸喜の映画『清洲会議』と同じ頃の話で、織田信長(芝居では小田)死後の跡目争いが主眼。

柴田勝重(勝家)は信長三男の三七郎信孝、真柴久吉(羽柴秀吉)は信長の孫・三法師丸を立ててにらみ合う。

この跡目争いになぜか高麗の姫と羽柴家臣の恋やら、勝重の弟や隠し子や妻らの世話場がからみ、

信孝は出奔して浪人となり、さらに小田家の重宝・蛙丸の剣の行方やら、どっかで聞いたようなエピソードは満載。

しかし柴田と真柴の善悪もはっきりせず(実際、近くの席で休憩時間に「どっちがワルモンなのー」という声あり)、

座長の菊五郎演じる三七郎信孝が、何をしたいんだか、何のために小田家の家督を捨てて浪人したんだかさっぱりわからない。

お家の重宝の剣にはどういう意味があったんだっけ?

菊之助演じる高麗の姫の恋の行方もえーと、結局どうなったっけかなあ?

まあ、このへんの問題は演劇評論家・渡辺保氏のHPに詳しいので、そちらでじっくりご覧いただくとして…

それでも一年半ぶりの歌舞伎は楽しかったです。

とくに若手の成長が著しく、あら、あの子もこの子もこーんな立派になっちゃってえ!と親戚のオバちゃん気分。

除幕の高麗国浜辺の場で最初に出てくる漁師二人、どちらも実は真柴・柴田の家臣で、高麗の情勢を探りに来たスパイ。

白塗りの若者は染五郎ばりの二枚目で、誰だろうと思ったら今は亡き名脇役・尾上松助の忘れ形見、松也。

三枚目風の赤っ面は口跡も発声も朗々として、ベリベリと手強い芝居で目を引く。これは坂東彦三郎の長男・亀三郎でした。

二人ともちょっと前まで後ろの方で頭下げてるだけか、「御注進!」と言って駆け込んでくるくらいの若侍だったのにねえ。

特に亀三郎は、それっくらいの役でも声と口跡の良さは目立っていたので、大きな役がついてオバちゃんもうれしいです。

高麗の公女に扮する菊之助はもう結婚して父親にもなり、ちょっとふっくらしてすっかり立女形の貫禄。

おとっつぁん(菊五郎)にもおっ母さん(富司純子)にもよく似てる。おねいちゃん(寺島しのぶ)にはぜんぜん似ていない(笑)。

恋する男を追って、舟で日本へ向かう公女、花道脇の席だったので、首を巡らしてガン見しましたが、眼福、眼福。

お肌がぱっつぱつに張って、人形のように皺一つない首筋。こんなキレイな立女形を見たのは初めてかも(笑)。

それから、公女の侍女の役で出て来たキレイな若女形が尾上右近と知ってこれもビックリ。

天才小学生・岡村研佑として大人役者を喰いまくっていたのがついこの間のことと思えるのに。

このあと若侍でも出て来たけど、パンフのごつい素顔写真見てまたビックリ。あのぷくぷくしたお子ちゃまの面影まるでなし。

この子は清元の家元の生まれだけど、六代目菊五郎の外ひ孫ということでは中村勘九郎や七之助と同じ代なんだよね。

(ちなみに菊之助は祖父の梅幸が六代目の養子なので、ひ孫だけど血縁はないというややこしい関係)

さて、舞台は日本へ移り、本筋へ。今回の大敵役・柴田勝重は尾上松緑なんだが、これがまったくのミスキャストなんだな。

つか、菊五郎劇団だったら、このクラスの役は本来、坂東三津五郎の役どころ。おそらく予定ではそうだったんじゃないだろうか。

病気療養中の三津五郎の不在で、若手立役の役がひとクラスずつ上がってる気がする。

松也や亀三郎はそれがいい目に出てるけど、松緑はちょっと気の毒だった。

女房小谷は時蔵で見るからに姉さんだし、実は菊之助二役の大工与四郎の父ってのも無理がある。ま、松緑の責任じゃないんですけどね。

三津五郎がいないだけで座組のバランスがこんなに悪くなるなんて。

勘三郎亡き後、この年代の立役は三津五郎だけが頼りです。頼んます、必ず元気に戻って来てください。

菊之助は勝重の隠し子で、養子に出されて大工となった与四郎の時はきりっといなせで、立役もなかなか。

おとっつぁんほど愛嬌はないが、綺麗事でいいやね。養父で勝重の双子の弟(ここ笑うとこじゃない)田郎助は松緑の二役。これもちょっと無理だわ。

二人が義理に迫られ二階と階下で同時に腹を切り、その血が樋を伝って池に流れる仕掛けはちょっと面白かった。

けどその霊験で池から名刀蛙丸が現れ、それからどうなったかはストーリー上ほとんどどうでもいいので、二人は腹の切り損だな(笑)。

与四郎の恋人・お豊は時蔵の長男、梅枝。これまた古風で可憐ないい若女形になってきました。

まあ、結局今回の芝居は、主役の三七郎信孝がなんだか性根がよくわからず、大して活躍もしないし、

本来立女形の時蔵もたいした役じゃなくて、ひたすら菊之助を筆頭とする若手の成長ぶりしか見どころはなかったですね。

それから今月だけで東京4座、大阪1座と馬鹿な開きようなので、三階(脇役)の数も足りないんだか、なんか座組が薄い薄い。

若手は侍女だ並び侍だと大忙しだし、信孝の(唯一の?)見せ所の立ち回りもなんだか間延びしてかったるい。

芝居もどっかで見たようなエピソードのつぎはぎで(まあ凡作脚本はたいていそうなんだけど)、

大詰めの大徳寺の場ときたら、時蔵二役の真柴久吉は勧進帳の富樫、松緑の勝重は先代萩の仁木弾正、菊之助の公女は国性爺合戦の錦祥女、

ずらりと並ぶと名作歌舞伎のパロディを見てるよう。俳優祭かっつうの。

税金使って企画立てるんだから、もうちょっとどうにかしろよ国立劇場、と渡辺保先生でなくてもそう思う舞台でした。残念。

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