スタッフN村による着物コラム
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唐突ですがこれなーんだ?
クラフト紙のオブジェ? 出来損ないのチョコレートケーキ?
答えは文末に。
ところで、またまたお向かいのヤギに子供が産まれました。
ちょうどお向かいの一家が長野へ帰省中、「餌だけお願いします」と頼まれていた、まさにその日の夕方。
メスヤギがヘンな鳴き方をしていて「うっるさいなあ!」と見に行ったら、
もうぽっこり産まれてました。
お隣のおじさんに協力してもらって、小屋に藁を敷いてやったり、小屋にブルーシートで風よけをしてやったり。
いや、あせりましたが、当の本人(本ヤギ?)たちは、一時間もすると立ち上がってフツーに歩き回ってました。
写真は生まれて1週間ほどたったもの。男の子です。名前はまだないのですが、勝手にチビと呼んでます。よろしく。
★問題の答え・スズメバチの巣。もう冬なので完全に空き家です。ユズの木に突き刺さるように鎮座してました。
直径20センチはあります。あぶねえあぶねえ。
29.最近の木綿着物事情
いささか遅ればせで恐縮ですが、今秋もkimono gallery 晏の東京展に、多数ご来場いただき、ありがとうございました。
リピーターの方も多いのですが、毎回「今回初めて来ました」という方もたくさんいらっしゃって、うれしい限りです。
私も東京展にスタッフとして参加して、ずいぶん回数を重ねましたが、時の流れとともに、木綿着物を取り巻く状況も少しずつ変化して来ました。
今回は、客でも経営者でもないやや斜めな目線から、感じていることのあれこれをお話ししようかと思います。
店長の冨田と「もめんで楽しむおしゃれ着物」という最初の本を作ったのが2003年(出版は2004年)ですからかれこれ10年、まさしく光陰矢の如し。
価格変動や欠品やお店の存廃、栄枯盛衰は世の常ですが、それにしても、「意外と着物ブームはブームに終わらずに定着したな」というのが正直な感想。
町中でも、古着も木綿も紬もフォーマルもそして浴衣も、普通に洋服の群れにとけ込んでいるような気がします。
夏になると、花火大会に出かける若いカップルの、特に男性のぎこちない着付けが微笑ましかったものですが、最近ではなかなかみんな堂に入ってます。
私の外出先が伝統芸能の会場が多いこともあるかもしれませんが、女性の着物姿なんぞは別に珍しいものでもなくなってきました。
おしゃれの選択肢の一つにすぎないというか。少なくとも「着物着るなんて変わってるね」とは思われなくなったと思います。
東京展を手伝い始めた頃、木綿着物はこれから着物を始めようというお客様が、入門用に購入されるケースが圧倒的でした。
手頃な価格の保多織や川越唐桟が人気で、「ええっ、こんなお値段で買えるんですかあ!?」と驚かれたり、
お母様がお嬢さんに買ってあげたり、和裁を始めたばかりの方が練習用に生地だけ求めたりってことも。
当時はまだまだ着物といえば絹、高い、手入れが大変、着付けが難しい、というイメージが一般的でしたから、
木綿、手洗いできる、新品でワンピース並みのお値段、半幅帯で楽ちん着付け、というのがとても新鮮だったんですね。
また、保多織のほか、片貝木綿や伊勢木綿もポップな色使いの格子や縞柄が洋服感覚で、着物の敷居をぐっと低くしてくれました。
Kimono gallery 晏でもそうした着物に合う、洋服地やアジアンファブリックの帯を数多く提案し、好評をいただいてきました。
帯も木綿が多く、従って絹より低価格。ご予算より安く済んだからと、帯揚げや帯締めもいっぺんにコーディネイトされる方もおられました。
(そういっちゃナンですが、けっこう皆さん舞い上がってるというか興奮気味の方が多かったです)
さて、早いものでそれから10年。最近のお客様はだいぶ落ち着いてこられたように思います。
着物ライフをぐるっと一回りされて、アイテムも増えたし、ちょっと面白いものないかしら? という感じでしょうか。
そうなってくると、織元も売り手も、ただ漫然と十年一日という訳にはいきません。けっこう面白いものが増えてきました。
今秋の東京展で私がおっ、と思ったものは、阿波しじらの織元の新作2点です。
ひとつは「阿波木綿」ないし「阿波つむぎ」という、無地の木綿。
ちょっと節があってそれが微妙なニュアンスになっています。藍、グレー、ベージュの3色があり、ちょっとジーンズっぽい印象。
紬のニュアンスもあるので伝統的な帯合わせも洋服っぽいコーデもどっちでもいけそう。
もちろん男性もイケるので、カップルで色違いなんてのも楽しそうです。
もうひとつは、しじらの織り方でシボがあるのですが、素材がウール60%、綿40%という混紡の着物。
しじらは本来サッカー地のような夏向きの生地ですが、これがウール混だとエアイン構造になってあったかそう。
そしてウール混なのに手洗いできて、お値段は木綿着物の中でも低価格ライン。
どっちにしようか数日悩んで結局こっちを購入しました。茶の縞柄です。先日仕立て上がって来たので、年末の忘年会に着るつもり。
もう木綿着物は買うまいと思っていた私ですが、思わずその気にさせられました。ヤラレタ。
新作だからかまだ色柄が少ないですが、厚さ20センチほどもある見本帳をもつ阿波しじらの織元のこと、きっとこれから増えてくるでしょう。
それから、へええと思ったのは久留米絣です。
今回とくに品揃えも多かったのですが、藍や黒地ばかりでなく、白地や赤、緑、また藍や黒の地に赤や黄や緑の模様を織り出した絵絣、あげくは縞や格子まで。
縞や格子は「絣」と呼べるのだろうか。いや、無地の唐桟があるくらいだから、そのへんはまあおいといて、と。
久留米絣は以前から東京展でも置いてはいましたが、それほど人気商品とは言えませんでした。
伝統工芸的なイメージが強く、本藍手織りだと数十万から百万クラスのものも。
化学染料機械織りでお手頃価格のものもありますが、一歩間違うと北の海女さんか戦前の子供みたいになりかねない。
生地も分厚いし、なんだかもっさりした印象。
最初の一枚としては手が出にくい、むしろ上級者向けの着物だと思ってました。
それが今回大量の久留米絣を見て、へええ、こんなのもあるんだあと、ちょっとイメージが変わりました。
かわいいリンゴや椿や動物柄の絵絣や、絣というよりドットのような水玉、市松格子や矢羽。
そして一番驚いたのは「60双」。通常久留米絣は30番手という太い糸の平織りなので、分厚く、ざっくりした手触りです。
60双というのは保多織にもありますが、30番手の半分の太さ、すなわち60番手(糸の番手は数が多いほど細い)の糸を、
二本縒って(またはそろえて)織った双糸織です。総じて双糸織は単糸織よりしなやかで、手触りが柔らかいのが特徴です。
触ってみたら久留米とは思えないほど薄くしなやかで光沢すらあります。
色柄から材質まで、産地も日々努力してるんですね。
そしてお客様たちも、もはや「初めて買う着物」ではない方が多いので、あらっ、こんなのも面白いわね、と手に取ってくださった模様。
それから、混紡方面も面白いことになってます。ウール綿のことはお話ししましたが、綿シルクもいろいろなものが出て来ました。
綿シルクは、関東地方では古くから「絹綿交織」として普及していたようです。私も祖母の若い頃の着物を羽織に仕立て直して着ています。
綿より光沢があってしなやかですが、正絹より当然安価だったんでしょうね。
今回展示していた綿シルクは見た目手触りがシルク寄りのと綿寄りのがあります。あ、お値段はどっちも綿寄りですw。
薄い綿シルクは露芝や麻の葉、ドットや個性的なプリント柄など後染め系。好きな色に染めることもできて、着物にも襦袢にもイケます。
なんといっても手洗い可能。夏物や襦袢としてはありがたい特性です。
一見木綿風のやや厚地の縞物は、やはり手触りや光沢がシルクインだなという印象。着込んでいくといい感じになじんできそう。
その他、定番の木綿着物についてもちょっこし。
晏といえばまず保多織。すっかりスタンダード化して、東京展にもあえて着て来られる方が多く、うれしい限りです。
色柄が多すぎてあんまり目立ちませんがw、常にマイナーチェンジは怠らず、それなりに新色や新柄が加わっています。
最近は着物としてもさることながら、襦袢に仕立てる方が増えて来ました。
胴は白生地で、袖は豊富な色柄からお好きな物を選んで、半襦袢になさる方が多いです。替え袖を複数作る方も。
着物としては無理目な色柄も、襦袢としては程よいアクセントになります。
なんといっても半襟をつけたまま洗濯機にポイ、という手軽さは魅力です。
それから毎度好評なのが白生地のステテコ。私も夏は汗止め、冬は防寒ともう手放せない愛用者。熱心にオススメしてますw。
そんなこんなも、一反売りでなくメートル売りという保多織ならではの特徴のなせる技。
この特徴を生かして、二種の色柄を組み合わせた片身替わりに仕立てるお客様もいらっしゃいます。
川越唐桟は、一時織元の事情で機械織りの普及品が絶滅を危惧されましたが、元気に存続しています。
新柄も増えて、先月ご紹介した双子織の唐桟もご好評いただいてます。
片貝木綿、伊勢木綿、阿波しじらなど、おなじみの木綿着物も健在。
阿波しじらは新商品については冒頭でご紹介しましたが、従来品も夏着物として人気が出て来ました。
5月頃から秋口まで、真夏も着られますから案外活躍時期が長いです。先染め、後染めともに色柄が豊富で、お財布に優しい価格も魅力。
他にも全国にまだまだいろいろな木綿着物があると思いますが、それについてはまた勉強して参ります。スミマセン。
年末年始は着物を着る機会も多いことと思います。皆さんの着物ライフに幸あれ。どうぞよいお年を。
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