スタッフN村による着物コラム

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うっかりしてたら季節がさっさと進んで、すっかり秋が深まってました。

10月に入ってしまい、ちょっと間抜けなんですが彼岸花です。

お彼岸より早く咲いてしまったり間に合わなかったり、微妙にずれる年もありますが、

今年はぴったりお彼岸に合わせて咲きました。

去年に較べて残暑が長引かず、暦通りに季節が進んでいる気がします。

栗や柿など、秋の実りも今年は豊かです。

いい栗が手に入ったので、渋皮煮を作ってみました。

鬼のようにめんどくさかったのですが、それだけの価値はありました。ウマー。

 

27.キャラ立ちの話 

『あまちゃん』、終わっちゃいましたねえ。

最後の一週間、毎朝号泣してました。薬師丸ひろ子はやっぱり歌うまいですね。

キョンキョンとはまた違う『潮騒のメモリー』。

今も頭の中でリピートしてます。〽三代前からマーメイド〜。

そして怒濤の伏線回収。宮藤官九郎の脚本の巧さに毎朝感服つかまつってましたよ。

あのドラマの主人公は、夏春秋の親子三代、そして北鉄だったんだな(ユイちゃんは=北鉄。だから決して東京へは行けない)。

ありがとう、半年間楽しかった。忘れないよ!

それはともかく今回はシブいです。

知人が行けなくなったと譲ってくれた「市馬・三三二人会」。

って漢字で書くとなんだかわかりにくいですね。

落語協会副会長の本格派・柳亭市馬と、小三治の弟子で若手随一の実力派・柳家三三(これでさんざ、と読む)の二人会です。

チラシもモノクロとシブい。ま、主催が民音だしな。

しかしこのシブいメンツでよみうりホールがほぼ満席。落語ブームもすっかり定着してきた、ってことでしょうか。

9月8日、まだ夏と言っていい時期ですが、雨も降りそうだし、一人だし、とんぼ返りなので着物は着ませんでした。

会場も年配の、しかも男性が多く、天気も天気なのでほとんど着物姿はなし。

浴衣姿の女性を一人見かけましたが、うーん、9月の第2日曜、雨模様の午後、浴衣はちょっと寒々しいかな。かんかん照りならアリかもですが。

そゆわけで、着物の人が高座の上だけ、というのも最近では珍しい光景です。

前座は市馬の弟子で市助の『子ほめ』。師匠ゆずりの明るく折目正しい高座。

そういえば私のお気に入りだった市馬の弟子・市也君は二つ目に昇進したんだよね(市弥と改名)。

ウェンツ瑛士似の「なんであんたが落語家に!?」と言いたくなるようなお兄さんでしたが。

昇進はめでたいが、前座で出てこないのはサビシイ、って勝手なこと言ってすいません。

さて、先攻は三三から。

背筋はまっすぐなのに腰を落としてひょくひょくと独特のリズムで歩く、何度見ても不可思議な出。

まだギリギリ30代とは思えないじじむさ…、もとい、シブさ。

賭場の使い走りなどろくでもない世過ぎをしていた熊が一念発起、八百屋を始めようと大家に相談。

大家は奉加帳を持って回って寄付を集めろと言う。真っ先に質屋の徳力屋に出かけた熊が、額から血を流して戻って来た。

聞けば、昔祖父がいささか恩を売った徳力屋なら、と思って行くと、ドケチな主人は一文しか出さない。

馬鹿にするなと銭を叩き付けると逆に額をキセルで割られてこの始末。野郎ぶっ殺す、と息巻く熊に、

「こりゃ面白えことになるかもしれん」、と奉行所に訴え出るようそそのかす大家…。

(うーん、あんまりよく聞く噺じゃないが、一回くらい聞いたことがあるような…)

時の奉行はかの大岡越前、ところが一文銭を投げ捨てた熊に過料五貫文(五千文)、徳力屋はおとがめなしの厳しい判決…

(このあたりまで来てやっと思い出した。『五貫裁き』だ! 一度志の輔で聞いたことがある)

しかしその五貫文は、貧しい熊のこと、日掛けを許す。一日一文ずつ徳力屋に届け、徳力屋はそれを毎日町内五人組を伴い奉行所に届けるべし。

俄然張り切る大家、その毎日一文は自分が払うから、熊は夜も明けぬうちに届けに行き、必ず半紙に受け取りを書かせて持ってこいと言う。

大家の徳力屋いじめはどんどんエスカレートし、しまいには夜半から明日の分、明後日の分と届けに行かせる。

徳力屋は夜もおちおち寝られず、一文の受け取りに半紙一枚ずつ取られ、五人組にもタダでは頼めず、これが十何年も続く計算ではやってられない。

ついに降参し、熊の八百屋の開店資金を出すことで一件落着。

一同、立ちませいというわけで、チャリティに目覚めた徳力屋は貧しい人に施しまくり、ついには店を傾けたという、大岡政談の一席。

講談ネタの大作っす。長いっす。熊と大家が悪ノリし、徳力屋と番頭がへとへとになるあたり、本来聞き所なのに不覚にも眠くなっちゃった。

うーん、なんでだろう。口跡もよく芸も確かなのに面白くない。

志の輔の時はとにかく登場人物のキャラが立っていて、へとへとになって困り果てる番頭や、目立ちたがりの奉行がやたらおかしかった記憶が。

やはりホール落語専門の立川流は、長丁場を持たせるテクニックにたけてるんだなあ。長時間を飽きさせないサービス精神に徹している。

寄席をホームグラウンドとする柳家本流の本格派・三三ですが、キャラの立て方がいささか不足かな。

最近のテレビドラマでもヒット作はキャラ立ちがスゴイですよね、『あまちゃん』にしろ『半沢直樹』にしろ。

脇役の隅々まで、演じてる役者を飛び越えてキャラが躍動してる。

キャラを立てろ、というのは漫画の制作現場で合い言葉のように言われることですが、それがあらゆるジャンルに広がって来たような気がします。

「漫画チック」と言われる危険性もはらみますが、落語でも演劇でも、とんがってる連中は漫画的な要素をどこかしら持っているんじゃなかろうか。

そういう意味で、三三には漫画的要素が薄い。ご通家の皆様はそれが本寸法の芸、と言うかも知れないけど、私にはちょっと物足りないなあ。

 休憩はさんでお次は市馬。いつもながら大柄で陽気で、出て来ただけで高座がぱあっと明るくなる感じ。

 この日は東京でのオリンピック開催が決まった日。マクラでその話を振って、「東京オリンピック音頭なんか歌ったりしてね」と言うと客席大拍手。

「いやあそんな…」と照れながらやっぱり歌ったね。つか、歌いたいんだね。

三波春夫の歌を歌わせたら、並みいる歌手をおしのけて今やこの人が一番と私は信じてます。

〽4年経ったらまた会〜いましょう、固い約束夢じゃない、ちょいとこ〜りゃ夢じゃない、オリンピックの顔と顔、ソレととんとととんと顔と顔〜

一番をフルコーラス歌い終えると割れんばかりの大拍手。まあこれ、市馬の高座ではお約束です。

ソラで全歌詞覚えてる私もアレですが。メロディーは50代半ば以上の人なら誰でも知ってるでしょう。

まあ、わがるやつだげわがればいいんですけどね。

コワモテのおアニイさんが長屋を訪ねると、弟分のらくだがフグにあたって死んでいる。

酒乱で乱暴者のらくだは町内の嫌われ者。アニイは通りがかりの屑屋をつかまえて、らくだの葬式を出すから月番にそいって香典を集めてこいと言う。

(おお、『らくだ』だ、大ネタだ!)

いやがる屑屋から商売道具の笊と天秤棒を取り上げて、次は大家のところへ行って上等の酒三升と辛めの煮しめを届けさせろ、

断ろうもんなららくだの死骸を持ち込んでカンカンノウを踊らせるぞとそいってやれと言う。

ろくに店賃も払わなかったらくだのこと、案の定大家が断ると、アニイは屑屋に手伝わせ、死人のカンカンノウを実行。

さらにこの手で八百屋から漬け物用の四斗樽を巻き上げてらくだの死体を納め、大家からせしめた酒と煮しめで酒盛りを始める二人。

最初は逃げ腰だった屑屋、酒が入るとだんだん強気になり、ついにはアニイを圧倒してあごでこき使うようになる。

普通はこのへんで終わり。屑屋とアニイの立場が逆転していく様子が聞きどころ。

しかし今日はまだ続く。屑屋の知り合いの落合の焼き場で焼いてもらおうと、酔っぱらった二人は樽詰め死体を二人差しでかついで焼き場へ運ぶのだが、

途中で荷を落っことし、いざ焼く段になって死体がない。もと来た道を引き返し、酔っぱらって寝込んでいた願人坊主を代わりに担ぎ込む。

火をつけられて目覚めた坊主、「あちちち、ここはどこだ!?」

「火屋(火葬場)だ」「ヒヤでいいからもう一杯」がサゲ。

いやあ、サゲまで聞いたの初めてだわ。こうやって文章にすると実にイヤな話なんだけど、市馬の芸風だとちっとも暗くないんだな。

演じ手によっては陰険で凶暴な男に描かれるアニイですらヤなヤツじゃない。

ずーっとそばに死体が転がってる話なんだが、そういう陰惨さがみじんもないのね。

逆にそういう芸風だから、通常カットされがちな後半もさらりと演じられるのかもしれません。

屑屋がやけくそで「かんかんのう、きゅうのれすー」と歌う声も実に美声。

先ほどのキャラ立ち、ということで言えば、登場人物それぞれのキャラというより、市馬という噺家のキャラが立ってるんですね。

こういうキャラだから三遊亭圓朝の『牡丹灯籠』や『真景累ヶ淵』なんかは合わないかもしれないけど、別にそんなのやんなくてもいいしな。

柳家のお家芸は滑稽話だそうだし、圓朝ものをやりたがる噺家はほかに掃いて捨てるほどいるし。

見た目も芸風も明るくて大きい、そして美声で威勢がいい。もちろん上手い。こういう噺家さん、なかなかいないよ。

あ、それからものっそい歌がうまい、ってこともつけ加えておかなくちゃ、です。チケット譲ってくれたNくん、どうもありがとう!

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