スタッフN村による着物コラム
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9月になったというのに、鬼暑い日が続きます。
〽9月になったのにいー♪(by初期のRCサクセション)
という歌が清志郎の声で脳裏にリピートされる日々。
皆さんいかがおすごしですか。
写真はバイト先のお客様にいただいたおもちゃカボチャ。
自然の造形とは思えない冗談みたいな物体ですよね。
この猛烈な日差しを利用して、ゴーヤのかりんとうを製作中。
甘く煮たゴーヤを天日干しするだけ。
レシピはクックパッドのゴーヤのかりんとうでググってください。
ヒマとゴーヤをもてあましてる方におすすめです。
結構ハマるので、少量だと干してる間に食べちゃいますよ。
14.8月の落語U
というわけで、2日連チャン落語会の2日目。
年末に閉館となる前進座劇場で、急遽企画された「前進座にわか演芸場」。
当コラムでも何度かご紹介した前進座劇場が寄席に変身、前座や色物を含めて15組が高座にあがる長丁場。
メンツは人気中堅の菊之丞、市馬、喬太郎をはじめ、実力派ベテランの権太楼、さん喬、志ん輔ら錚々たる顔ぶれ。
これは行くでしょう、2日連チャンでも。
この日は野暮用もなく、夜までゆっくり友人と楽しめるので、着物着てみました。
実は今、頭の前方に円形脱毛ができてしまって、帽子が必需品。
なんとか帽子と合わせられないかと悩んで、思いついたコンセプトが「昭和のオヤジ(笑)」。
麻のハンチングにこの日を逃すと着る機会のなさそうなグレーの小千谷縮。「オヤジ」なので、みんさーの半幅帯を低めに締めて。
扇子も男物ですが、これはもともと小さな女物がまだるっこしくて嫌いなので、男物しか持ってないんですね。
竹皮を張った下駄は左右色柄違いの鼻緒。水引っていうんですと。
「納涼祭り」を謳っているので、劇場のスタッフは全員浴衣姿。縁日風の売店も出て、祭り気分を盛り上げます。
劇場スタッフと言ってもみな劇団員で、役者さんもいますから、浴衣の着こなし、身のこなしも慣れたもの。かっこいいです。
さて、総勢15組の演目は以下の通り。
前座/林家なな子(間に合わず)、柳亭市也「手紙無筆」
春風亭朝也「新聞記事」
古今亭朝太「壷算」
古今亭菊之丞「幇間腹」
柳家はん治「鯛」
ロケット団(漫才)
柳亭市馬「七段目」
柳家喬太郎「孫、帰る」
林家正楽(紙切り)
柳家権太楼「青菜」
入船亭扇遊「不動坊」
柳家さん喬「天狗裁き」
柳家小菊(粋曲)
古今亭志ん輔「唐茄子屋政談」
どうです、定席の寄席の3倍増くらいの内容でしょ。
全部の演目に触れてるヒマはないので、印象に残った高座だけにしますね。
前座の市也は市馬の弟子。ウェンツ瑛士似のイケメンで、初めて見たときは「なぜこのルックスで落語家に!?」と思ったものです。
ずいぶん巧くなってました。客に覚えてもらえるという点でやっぱルックスは大事ですね(私が面食いなだけか?)
菊之丞は巧い巧いと聞いてましたが、なぜか縁がなくて初見。
こちらはちょっと女形ふうの優男で、歌舞伎役者の故・嵐徳三郎と篠井英介を足して二で割ったようなルックス。
黒紗の紋付とはなんとも凝った衣装です。透け感がやけに色っぽい。
ネタは「幇間腹」、ヒマを持て余す若旦那が鍼灸に凝り、人間に打ってみたくて仕方ない。
そこでお呼びがかかったのが幇間の一八。若旦那のためならたとえ火の中水の中、とやってきたのはいいが…。
優男ですから、若旦那、茶屋の女将のやりとりが実に柔らかく、大きな目を剥いてパニクる一八との対比が絶妙。
声よし姿よし、品がよくって口跡がいい、弱体化が心配な古今亭のホープ。
これからもっと聴いてみたい人です。
漫才のロケット団は、テレビじゃ見かけませんが、寄席でよく見る正統派のしゃべくり漫才。
ボケが知的で、たとえばツッコミがヒントを出して漢字四字熟語を答えるネタ、
誰もが「疑心暗鬼」と思うところで「東京電力」と答える。思わず拍手しちゃいました。
まあ、こういうセンスは、今のテレビじゃ受けないのかもしれません。
時節柄オリンピックネタもありましたが、一番笑ったのは「康介さんをノーブラで帰す訳にはいかない」というギャグでした。
市馬は「七段目」。歌舞伎狂いの若旦那、今日も芝居の物まねで大旦那を怒らせ、二階に追いやられる。
一人で芝居ごっこを続ける若旦那、大旦那の言いつけで様子を見に来た丁稚の定吉、これがまた芝居マニアだからたまらない。
妹の長襦袢を定吉に着せ、自分は本身の脇差をたばさんで、「仮名手本忠臣蔵」七段目の「一力茶屋の場」ごっこを始める。
声、口跡のいい市馬ですから、歌舞伎の台詞のやりとりが実に巧みで心地よい。
平右衛門に扮した若旦那、おかるに扮した定吉に、つい興奮して本身を抜いて斬り掛かる。
慌てた定吉が階段を転げ落ち「どうした、てっぺんから落ちたのか」「いいえ、七段目から」というのがサゲ。
いつ見ても安定していて楽しくて、明るい市馬の高座、ホント、次代の名人候補ですね。
さて次は喬太郎。昨日の端正な「次期名人」ふうの高座から一転、延々ウルトラマン話で勝手に盛り上がる。
お年寄りも多い前進座の客席をやや置き去り気味に、夏の東映まんが祭り、東宝の特撮祭りの思い出から
「おじいちゃん、おじいちゃん、ボク来たよー」お、やっぱり来たな、「孫、帰る」。
夏休み、祖父を訪ねてきた小学生の孫。涼を求めて屋根に登った二人、「向こう」に行ってからの四方山話。
「どうだ、ママとふたりきりで息が詰まることもあるだろう、なにか言いたいことがあったらおじいちゃんに話してごらん」
「うん、あのねえ、ボクねえ、やっぱり死にたくなかった。もっと生きていたかったよ!」
ここで初めて孫とその母が交通事故で死んでいることがわかる。それまでのん気に笑っていた客席がしん、と静まり返る。
祖父は悲しい事故が二度と起きないように、事故現場で「緑のじいさん」を続けている。
それまでの何気ない会話が、「そういうことだったのか」とすべて腑に落ちてきます。
これは喬太郎の作ではないのですが、短くまとまったいい作品です。たしか作者は女性だったと思います。
マクラでは暴走気味だった喬太郎、さらりとサゲのひとことで一礼。古典中心のメンバーの中で存在感を示しました。
柳家の大御所、権太楼は「植木屋さん、ご精が出ますね」おお、「青菜」キター!
この噺、夏の定番でよく出る演目なんですが、なぜかまだ一度もナマで聴いたことがなかったのよね。
一仕事終えた植木屋が「柳陰」という冷酒を鯉の洗いでごちそうになっていると、旦那が「植木屋さん、青菜はお好きか」と、
奥に言いつけると奥様が「鞍馬山から牛若丸が出でまして、その名を九郎判官」旦那は「そうか、では義経にしておけ」
きょとんとしている植木屋に旦那が、「菜を食ろう判官」「ではよし(経)にしておけ」、菜を切らしているという隠し言葉だと言う。
すっかり感心した植木屋、例によって家でも真似てみようとするが…。
ちょっとくどいくらいの爆笑派・権太楼なので、植木屋夫婦のやりとりが実に騒々しく、腹を抱えて笑いました。
それにしても「柳陰」とは焼酎と味醂を混ぜた酒だと言うのですが、想像するだに強烈な気がします。
オンザロックならともかく、井戸水で冷やしただけですからねえ。昔の焼酎も味醂も、もっと水っぽかったのかなあ。
ここまでが第二部。すでに普通の落語会2回分です。休憩はさんで、第三部。扇遊の「不動坊」はサゲまで行かないショートバージョン。
さん喬は寄席でもよくかける「天狗裁き」。
マクラで大暴れの弟子・喬太郎とは反対に、マクラはいつも淡々と、品よく始めるのがさん喬師匠。
前進座劇場での思い出を静かに語りながら、すっと噺に入ります。
うたたねをしていた亭主が、あまり楽しそうな顔で寝ていたので、さぞや楽しい夢を見ていたのだろうとしつこく尋ねる女房。
夢なんざ見ちゃいねえと壮絶な夫婦喧嘩となり、友達や大家が仲裁に入る。ところで女房友達にも言えない夢ってどんな夢?
と尋ねる大家に、あっしゃあ本当に夢なんぞ見ちゃいねえんで、と言い張る亭主、怒った大家は奉行所に訴え出る。
犯罪でもないので奉行は取り上げないが、ところでどんな夢なのだとまた尋ねる、亭主拒否、ついに縛られ、松の枝につり下げられる。
これを見ていた高尾山の大天狗が亭主をさらって、どんな夢か話さなければ取って食うぞと脅されたところで夢から覚める。
女房、「お前さん、どんな夢見てたんだい?」
さん喬師匠の得意ネタ。寄席でも何度か聴いてますが、持ち時間の短い寄席にちょうどいいコンパクトな噺です。
さてこのあたりで開演から4時間ほど経過、そろそろ席を立つ人もちらほら。
小唄端唄都々逸と、なかなかふだんは聴く機会のない粋曲の小菊をはさんで大トリは志ん輔。
いいかげん胃にもたれてきたところで、うわあ、「唐茄子屋政談」かあ、大ネタもってくるなあ、頼むからさらっとやって。
道楽の限りを尽くして勘当された若旦那の徳は路頭に迷い、大川に身を投げようとするところを叔父さんに助けられる。
心を入れ替えて、カボチャ(唐茄子)売りの棒手振りからやり直せと、天秤棒かついで町へ出されるが、恥ずかしくて売り声も出せない。
見かねた親切な衆が、道行く人に声をかけてくれ、カボチャはほぼ完売。残ったカボチャを貧しい長屋のおかみさんにおまけしてやり、
弁当を使わせてもらおうとすると、おかみさんの子が2日も食べていないという。
弁当と売りだめを母子に渡して帰るが、徳の話を叔父さんが信用しないので、一緒に長屋を尋ねると、
因業大家に金を取り上げられ、徳に申し訳なく思ったおかみさんは首をくくる騒ぎ。
怒った徳は大家に怒鳴り込むが、おかみさんはなんとか命をとりとめ、大家はきついおとがめ、徳の勘当も許される。
という、いい話なんですが、聴く方は疲れてるのに演者は大熱演。しかもちょっと芸風のくどい志ん輔。
売り声が出せずに吉原を望む田んぼで、楽しかった遊びの記憶を延々と語られた日にゃあ、こっちのお尻もむずむず。
頼むから客席の空気を読んでくれという願いもむなしく40分あまり、たっぷり演じてくれましたよ。
いや、巧いんですけどね、なんつうかもう、お腹いっぱいで。
一緒に行った友人の「俺、志ん輔みたいな落語家ばっかりだったら、落語にハマることはなかっただろうなあ」という感想がすべて。
ちなみに彼がハマったきっかけは志ん輔ならぬ志の輔。一字違いで大違い。
広瀬和生さんの「初心者は志の輔を聴け!」という理論はやっぱり正しかった。
まあ、最後はへとへとになりましたが、これだけたっぷり堪能できれば、しばらくは落語会に行けなくてもガマンできます。
たぶん、今度こそ最後の前進座劇場。長いこと楽しませてくれてありがとう。忘れないよ!
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