スタッフN村による着物コラム
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H24.5.25更新
五月はなにかと忙しいです。
夏野菜の種を蒔いたり、苗を植えたり、
タケノコを茹でたり、きゃらぶきを煮たり。
さやえんどうは毎日採らないと、
どんどんグリーンピース化してしまいます。
今年は寒いせいかモンシロチョウが少ないです。
おかげでキャベツに青虫がつかず、大助かり。
モンシロチョウがもはや害虫にしか見えない私(笑)。
庭のシャクナゲがみごとに咲きました。
この花が終わるともう夏ですね。
9.歌舞伎『絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)』鑑賞
いやあ、待って待って松嶋屋、でしたよこの一年。
『絵本合法衢』、仁左衛門の得意演目はほとんど観たと自負する私も未見の大作。
しかも得意中の得意の鶴屋南北もの。
それが国立劇場で上演されることになり、勇んでチケットをゲットした1年前。
新聞やネットの劇評も絶賛で、否が応でも期待高まる3月11日、それはやって来ました。
被害のほとんどなかった自宅で、翌日のチケットを握りしめ、劇場のHPを確かめると「12日は上演いたします」との情報。
それを信じて、私はのこのこと国立劇場に出掛けました。
今思えば信じられないほど呑気な話ですが、まさかあれほどの大惨事だとは、その時点で思っていなかったのです。
交通機関もなんとか動いていたし、のほほんと電車に揺られていた私に、友人からひんぴんと安否確認のメール。
「これから歌舞伎観に行きます」と返信すると「ホントに上演するの!?」「無理なんじゃね?」と返ってきます。
そのうち、歌舞伎の後、夜は渋谷で落語の予定だったのですが、こちらが中止になったとの知らせ。
あれえ、なんだかヤバイかも、と思いつつ、半蔵門駅から国立劇場の裏手へ入っていくと、いやに閑散としてる。
表に回るとほとんど人がいません。
遠くに劇場の職員が見えたので、手で×サインをだすと、深々と頭を下げる。
あー、やっぱり中止か、とがっかりしながら近づくと、
「劇場としては上演したかったのですが、政府から中止要請がありまして…」との説明。
民主党政府め、あれだけ支持してやったのに、タバコの値上げに芝居の中止とろくなことをしやがらねえ!と怒り心頭。
実はその時、それどころじゃない事態が福島の海岸で不気味に進行していたわけなんですが。
振り替えチケットを発行してくれるというので、チケット売り場に行くと、
そこでは仁左衛門の長男・片岡孝太郎さん(『白い巨塔』の佃医局長W)が
お客さん一人一人に深々と頭を下げていました。好感度↑。
仕方がないのでそのまま家に帰りましたが、今思えばよくも帰り着けたものです。
前夜の帰宅難民がやっと帰り着いたような時間帯だったのですから。
テレビをつければ映しだされるのは怖ろしい津波の映像と、進行しつつある福島第一原発の惨状ばかり。
そして私にとってのリアルな被害はそれから数日たってからでした。
計画停電が実施され、テレビもパソコンも使えない時間帯があり、電車もまともに動かなくなりました。
結局1週間後に振り替えてもらったチケットも、公演そのものが中止になり、払い戻しに。
月末にチケットが取れていたパルコ劇場の『国民の映画』は、上演はされたのに電車が動かず、行けませんでした(払い戻しはしてくれました)。
今夏も電力不足が叫ばれていますが、悪いけど足りないところは計画停電やればいいんじゃね?と思います。
1日2時間くらい、案外なんとかなるもんです。
実際に計画停電を体験した者としては、ぜひ全国津々浦々(被災地を除く)で実施していただきたい(笑)。
みんなでちょっとずつ我慢すれば、無理に原発再開しなくたっていいと思うけどなあ。
そうそう、歌舞伎の話でしたよね(笑)。
すっかり諦めていただけに、秋頃「来年4月再上演」と聞いたときには飛び上がって喜んだものです。
そしてこの日、4月22日、思えば長い道のりでした。
当日はまたまた着物仲間のMさんと。この日は夜に雨になるという予報で、Mさんはポリエステルの小紋。
私は矢絣のお召しか薄いグレーの久米島紬を着たかったのですが、雨とあっては断念せざるを得ません。
汚れの目立たない濃紺地の、櫛引織という付下げ風の紬に、パールトーン処理の白い帯。雲と雷の柄です。履き物はもちろんカレンブロッソ。
桜はもう散り果てていたので、今年も桜の着物は着損なってしまいました。
雨の予報が出ているのに、着物姿は多かったです。
ことに男性の着物姿を多く見かけました。日曜日だったせいかもしれません。
写真中央、正面向きの着物の女性は某役者の奥様です。いつもステキな着物姿。
遠目ですが撮らせていただきました。スイマセン。
さてお芝居の方は、おそらく歌舞伎の演目の中でこれ以上ないだろうというくらい残忍無比な主人公、佐枝大学之助。
大名多賀家のお家乗っ取りを企む分家筋。こいつがほとんど趣味・殺人、とでもいうようなサイコパス。
さらにその配下で、顔つきがそっくりという(笑)小悪党・立場の太平次、これもまた人の命を毛筋ほどにも思わぬ人非人。
この二役を演じるのが当代きっての立役者、天下の二枚目・片岡仁左衛門。
いや、ファンだから言うんじゃじゃなくてね、各劇評でも、この芝居の内容で、昨今の不穏な世相の中、
仁左衛門のスター性や愛嬌無しにはとても上演できなかっただろうと書かれてました。
ストーリーはまあ、ありがちな武家のお家騒動に庶民がからみ、仇討ちで終わるお約束パターン。
以前やはり国立劇場・鶴屋南北・仁左衛門というセットで上演された『霊験亀山鉾』とほとんど同じ話。
何が違うかというと人死にの数(笑)。
登場人物のほとんどが大学之助と太平次の手にかかり、また奸計にはまって死んでゆく。
そしてしまいには太平次が大学之助に殺され、その大学之助も仇を討たれて死亡。
主要登場人物が3人くらいしか生き残らないという凄惨な話です。
主人公があまりのモンスターで感情移入できず、お話はパターンの域を出ないので、南北ものとしては正直あまり面白くなかったなあ。
『霊験亀山鉾』のほうがまだ主人公に一分の理があったような気がする。
しかしナマの仁左衛門を観るのは2年ぶりくらい。やっぱかっこええわあ。
序幕、下手から編み笠をかぶって殺人現場にこそこそ出てきた時は「え?あれ、仁左衛門?」って感じでしたが、
花道七三で笠を取ると、そこは千両役者、ぱあっと劇場が明るくなったよう。
「松嶋屋あ!」「十五代目え!」の声が乱れ飛びます。
白塗りに金襴の衣装、無表情な大学之助に、二役の太平次は愛嬌たっぷりの小悪党。仁左衛門得意のパターンです。
周りを固めるのは左団次・男女蔵親子と時蔵・梅枝親子、高麗蔵、秀調以外はほとんどが松嶋屋の一家一門。
太平次に利用され、哀れその手にかかる女芸人のうんざりお松は時蔵。一番好きな女方ですが、その長男・梅枝くん、
しばらく観ないうちにすっかりいい若女方になっていて感心。
太平次女房に秀太郎兄さんというのも、舞台に厚みが出ます。
ちょっと役が軽いので、もったいないくらいでしたけど。
去年チケット売り場で頭を下げ続けていた孝太郎は、大学之助に妾奉公を強いられるお亀。ずいぶんキレイになってました。
その夫で大学之助を敵と狙う与兵衛は愛之助。こちらも安定した力量。
演舞場での『女殺油地獄』の与兵衛も好評だったようで、お金と時間があれば観たかったなあ。
総体に、安心して観ていられる役者ばかりで、ひと舞台に必ずいる「あれえ?」という人がおらず、バランスのいい舞台でした。
心残りは、国立劇場で珍しく舞台写真の販売があったらしいこと。
気がつかなかったよorz.
最後の写真は大劇場のロビーに飾られた『鏡獅子』の像。
六代目菊五郎をモデルに、平櫛田中が彫り上げた巨大な木彫作品。
これを見るのも国立劇場の大劇場へ行く楽しみのひとつです。
さてしばらく歌舞伎観劇の予定はありません。
次に仁左衛門を観られるのはいつの日か…。元気でいてねえええ。
あ、ちなみに夜はばっちり雨に降られました。
雨仕様で出掛けて大正解でしたよ。
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