スタッフN村による着物コラム
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H24.5.2更新
春の東京展が無事終了しました。
遠路はるばる、また冷たい雨の降る中おいでくださいました方々、
もちろん天気の良い日のご近所の方も(笑)、
皆様ほんとうにありがとうございました。
コラムの感想を聞かせて下さった方もあり、
あ、この欄を始めてよかったな、と思いました。
秋にまたお会いしましょう。
お向かいのヤギにまた子供が生まれました。
実はこれ、先だってご紹介した子ヤギが産んだんです。
しかも2頭! 去年2頭だったヤギはこれで3代5頭。
細胞分裂みたいに増えていきます。
生まれる瞬間に立ち会いましたが、
ビニール袋詰めの鶏肉のようなものが出てきたかと思うと、
あっというまにその袋状の](えな)を破って立ち上がりました。
この写真は生まれて15時間後くらいです。
すばらしい生命力ですね。今はもうお向かいの庭を飛び跳ね回ってます。
男の子と女の子で、名前は「にい」と「ねえ」だそうです。安直ですいません。
8.百花斉放
「よのなかに絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」by在原業平
桜の季節になるといつも思い起こすのがこの歌。
いつ開花? いつ満開? ああ、もう散り始めた、もう葉桜、とNHKのニュースまで大騒ぎ。
いっそ桜などなければこんなにやきもきすることもないのに、というこの反語的な歌、好きですねえ。
桜といえばおしなべてソメイヨシノばかりがもてはやされますが、私はどうもあれはお腹いっぱいな感じで、あまり好みません。
まして安っぽいプラスチックのぼんぼりが張り巡らされた下で、酔っぱらいが奇声を上げている図がイヤでイヤで。桜に罪はないのにね。
ワシントン・ポトマック河畔の桜並木の下は、飲酒禁止だそうです。日本もそうすりゃいいのにとさえ思います。
また、青空と満開のソメイヨシノと菜の花、という子供の折り紙のような配色も、なんだかなあと思うクチです。
どちらかというと、びっしり植林された濃緑色の杉山に、置き忘れられたように咲く山桜や、
芽吹き始めた落葉樹の薄緑の間に、パフではたいたように点在する山桜のパステルトーンが好き。
だって、着物の配色だと思って見て下さい。水色地にピンクと黄色の花が描かれた着物、着れますか?
濃緑地にしゅっと立つ一本桜の訪問着、また、薄緑に白っぽいピンクの花を散らした小紋を想像して下さい。
それが大人の好みってもんでしょう、って自然の花を見ていちいち着物に置き換える必要もありませんが(笑)。
とはいいつつ、花見はしました。
立川で柳家小三治の独演会を聴いた帰り、国立へ回って、駅前の桜並木を散策しただけですが。
4月7日でまだ花は7分というところ。ここは一橋大学の学生街で、騒々しいぼんぼりや露天がないのが好ましい。
よく見ると桜の間に銀杏や楓が植えてあり、秋の紅葉も楽しめるよう、よく考えられています。
着物で言うと、桜と楓が入っているので、春も秋も着られてお得ですよ、な付下げみたいですが(笑)。
続いては、わが山里の古刹(開基は奈良時代)・安楽寺。
ここは広大な桃畑を有し、梅や桜も植えられた花の寺として、近在では有名。
画面奥の老杉は都の天然記念物です。
撮影日は4月8日で、桃が8分咲き、桜はソメイヨシノがまだで、ヒガンザクラ越しに桃を撮りました。ピンクの濃淡がきれいでしょ。
こんな段染めの裾模様なら着物にしてもいいかもです。
お次はやはり近所で有名な「レンギョウ屋敷」。
どうです、レンギョウの海に浮かんだようなこのおうち。
韓国では「ケナリ」といって、春を代表する花だそうです。
かの国で好まれそうな、ビビッドな黄色ですね。
着物としてはどうでしょう。着こなす自信はまったくないなあ。
そうそう、レンギョウのような鮮やかな色をまとった鳥の写真もご紹介します。
我が家の屋根で賑やかに歌っていたキセキレイ。
なんとまあキレイな黄色でしょう。自然の造型って時々驚くような配色を見せますよね。
お次はご近所の土手に咲いたカタクリの群生。
花期の短い、ホントにはかない花です。万葉集では「堅香子(かたかご)」と呼ばれているそうです。
カタクリ、って呼ぶよりロマンチックですね。
こんな落ち着いた色の小紋や付下げなら着てみたいかも、です。
最後は我が家の庭です。撮影日は4月18日、まさに百花斉放。
左下から時計回りに沈丁花、雪柳、木蓮、コブシ、山桜(遠景)、すもも(遠景)、紅梅、木瓜(ボケ)、中央が三つ葉つつじ。
左端はハナミズキですがさすがにまだ咲きません。
私は木蓮もコブシもハナミズキも白が好きなんですが、残念ながらうちのは全部色つきです。
早春に咲く木の花の中では、コブシが一番好きです。
以前、春に長野の山奥を訪れたら、いまだ芽吹かない落葉樹の間に点在する、白いコブシが全山満開。すばらしい眺めでした。
ベージュの地に白いコブシを散らした付下げ、あったら欲しいな。
それにしても、この庭の美しい眺めが、私にはいささか禍々しく感じられます。
いつもの年なら、こんなにいっぺんには咲かないのです。
沈丁花、梅、コブシ…と順に咲いていって、木瓜、ツツジ、最後にハナミズキ。
今年はいつまでも寒いので、沈丁花は霜にやられ、梅やコブシは遅れ、木瓜やツツジが追いついてしまったのです。
こんないっぺんに何もかもぶちこんだ着物なんてありえねえっす(笑)。
順番に、少しずつ春が闌けていくさまを、来年は見られますように。
最後にひとつ訂正を。
第4回で触れた、ドラマ「ゲゲゲの女房」についてです。
主人公がお見合いの席で銘仙を着ているのはおかしい、と書きましたが、ドラマの再放送を見た友人から指摘がありました。
主人公は一度縁談が破談になってるんですね。
そのために用意した着物は縁起が悪いと言うことで、あり合わせの銘仙を着ていたようです。
なにもかも間に合わせの結婚だった、という表現だったんですね。
演出のミスかと思いましたが、じつは緻密にそこまで計算された脚本だったんです。
手元に総集編しかなかったので、そこまで確認できず、脚本家、演出家ほか、制作者の皆様には失礼をいたしました。
それにしても「ゲゲゲの女房」はやっぱりいいドラマだったんだなあ!
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