スタッフN村による着物コラム
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H24.4.7更新
あちこちで桜の便りが聞こえてきて、ようやく春本番です。
とはいえ、青梅ではやっと梅が満開。
前日の春の嵐に打たれながら、健気に咲きそろいました。
今朝はその梅の香にひかれてメジロがいっぱい集まってきました。
かわいいのが一枚撮れたので、御覧にいれます。
このあとメジロは図体の大きいヒヨドリ軍団に追い払われてしまいました。
ヒヨドリ、うるさいっす。
7.キモノ東西・東蝦夷の関西着物考
いやあ、把瑠都の綱取りが騒がれた大相撲春場所も、終わってみれば白鵬の優勝。
優勝を争ったのは伏兵の鶴竜、アレよという間に大関になっていましたね。
これで一横綱に六大関。早く誰かが横綱にならなければ大関のバーゲンセール状態です。
私は稀勢ノ里を応援しているのですが、クンロク(九勝六敗)ではいかんともしがたい。
それにしても白鵬は立派な人ですね。こんな尊敬できる27歳の若者なんてどこ探してもいやしません。
あ、それから、前から気になっていたイケメンの呼出さん、今、念のため調べたら、芝田山部屋の啓輔さんっていうんですね。
彼の姿を見るのも大相撲中継の楽しみのひとつです。
ま、大相撲の話じゃなく、ここは着物のコラムでしたね(笑)。
イケメン呼出のほかに、私が楽しみにしているのは、枡席に陣取る女性客の着物姿です。
テレビにガン映りするので、男性はともかく女性は砂まみれもものかは、ばりばりに着飾ってます。
東京なら銀座赤坂、大阪なら新地、博多なら中州あたりのきれいどころが多いんでしょうが、これが場所ごとに非常に特色があるんです。
今回の春場所は大阪です。
何日目だったか、俳優の大村昆さんも着物姿の女性と一緒にいらしてました。
大阪の特徴は、まず派手、そして襟元が実にこの、ユルい。
これは、とくに新地のお姐さんたちに限ったことではなく、一般客らしき人たちも、東京に較べてゆったりめです。
で、やわらかものが多い。相撲見物にやわらかもの、ってなにかと大変じゃないかと思うんですが、気張ってはりますなあ。
かつて歌舞伎の追っかけでせっせと京都大阪に遠征していたときに、いろいろ驚いたことを思い出しました。
というわけで、今回は以前予告した、「東蝦夷の関西着物考」です。
私は着物を着るきっかけが「着物で歌舞伎見物」でした。なので、本格着物デビューが京都だったんです。
いやあ、モノを知らないというのは怖ろしいもんで、今から思えば身の縮むようなことをいっぱいやらかしてましたね。
当時、手持ちの絹物は、先日当欄でもご紹介した、祖父の(つまり男物)村山大島を仕立て直したアンサンブルだけでした。
帯はkimono gallery 晏で合わせてもらった紬の八寸。
これで京都南座の顔見世に乗り込んだんですから、いい度胸ですわ。
京都の顔見世と言えば、祇園や先斗町の芸妓が桟敷に並び、着道楽の京都人がここぞと気合いを入れる着物の聖地。
しかも、当時は自分でお太鼓が結べず、着付けも怪しかったので、移動中は対丈に半幅帯。
しかもその対丈はやはり前回2.26事件を知る羽織としてご紹介した祖母の着物の仕立て直し。それに村山大島の羽織。
一緒に行った友人のあとをくっついて、宝飾品のギャラリーや、ゑり善の本店なんかにその格好で出入りしてました。
(ちなみに友人はたしか桜を散らした高そうな結城紬)
確かにギャラリーのご隠居や、道行くお年寄りがなにかぎょっとしたように振り返るのがわかりました。
むろんゑり善の店員さんはそんな不作法はしませんが、内心びっくりしていたかも。
あげく、錦小路市場ですれちがったオバサンに「いやあ、あれ、男物やわあ!」と指さされましたよ。いやマジで。
あとで、麻生圭子さんのエッセイで「京都の女性はわざわざ男物を仕立て直して着るようなことはしない」と読んで納得。
さらにその後、日本橋育ちの日本舞踊家に取材させていただいたとき、
お召し物が男物の大島。お兄様の遺品の仕立て直しとうかがって、意を強くしました。
しかも繰り越しゼロ!(これ内緒ね、と言われたんですが、もう時効でしょう。舞踊家としてはあるまじきことらしいです)。
襟元はぴしっと、衣紋はほとんど抜いてません。
さりながら、白地にピンクと墨で花を描いた塩瀬の帯で優しさをプラス。いや、参考になりました。
要するに文化の違いだったんですね。東京では当たり前のことが京都では非常識(に見えることもある)ってこと。
まあ、10年も昔のことなので、今の感覚は変化しているかも知れませんが、
当時の自分を思うとイタくもいじらしくもあります(笑)。
その後学習もし、ワードローブも増えた私は、「関西の劇場ではやわらかものを着る!」と心に決めました。
京都顔見世に続き、繰り出したのは大阪松竹座の正月公演。
いやあ、もう華やかでビックリ! 訪問着に袋帯がデフォルトで、東京ではとんと見ない佐賀錦の草履もいっぱい。
衣紋もぐうっと抜いて、エスカレーターの上から見ると、肌襦袢見えてませんか?と心配になるくらい。
半衿は縮緬や刺繍で、襟元ふっくら。さすがは「細雪」の土地柄です。
たまに見かける大島紬に塩瀬の帯、なんて人は、よく観察すると東京言葉で、おそらく私同様遠征組。
ちなみに私は変わり縮緬に絞りと銀糸の刺繍で桜の花びらが少しだけ入った小紋に、古典尽くしの織名古屋帯でした(進歩したでしょw)。
皆さん正月公演だから気合いが入ってるのかな、と思い、今度は7月の公演に出掛けました。
夏だし、一人旅の一泊だから、サマーウールの黒地に十字絣の着物、麻の八寸帯でした。
ところがところが。夏なので着物の人こそ少ないですが、着ている人はばっちり絽の訪問着や付下げ。
はああー、と感心して、夜はガイドブックで見つけた心斎橋あたりのレストランに入りました。
そこでいきなりシェフに「東京の人?」と聞かれて驚き、「なんでわかるんですか?」と聞き返しました。
ほとんどしゃべってないので、言葉でわかったわけじゃなさそうです。
「だってこっちの人はそういう着物あんまり着てないから」というお答え。
聞けばシェフも東京出身だとかで、なんだか懐かしくなったんだそうです。
そうかそうかとなにやら再び納得。
衣紋の抜き方については、そもそも繰り越しが大きいのかなと思ったらさにあらず。
京都先斗町のお茶屋バーで、元芸妓の女将に訊くと、女将の繰り越しは六分とのこと。
私は襟元きつきつ派で五分ですから、あまり変わらないんですね。
でも女将はしゅっと衣紋を抜いてます。もう着付けそのものが違うようです。
もっとも、京都の方が大阪よりは衣紋を抜かないように思いますが。
その後、kimono gallery 晏も登場する「うきうきお出かけ着物術」(河出書房新社・刊)という本を企画したとき、
東京の「青山みとも」さんと京都の「ゑり善」さんに、銀座好み、京好みというテーマで、着物コーディネイトをお願いしました。
いやあ、ものの見事に違うんですね。銀座好みは色数が少なく、素材もしゃりっとしたものが中心。
京好みはパステル調が多く、しっとりはんなりしています。帯も袋帯が多いです。
実際には本を御覧になってください(とさりげなく宣伝w)。
同書の取材で、着物スタイリストの大久保信子先生にうかがったんですが(先生は日本橋育ちの江戸っ子)
「東京はコンクリートの町だから、すっきり3色でまとめるといいの。京都は緑も多くて自然が豊かだから、華やかな着物が映えるのね」
このお話を聞いてますます納得。
以後、私はなるべく3色(3系統、というくらいですが)を心がけています。
なぜなら! 私は生粋の東蝦夷ですから。
いろいろ試して、京都風のはんなりは逆立ちしても似合わないとわかりました。
人はそれぞれ、生まれ育った土地の文化を背負っているものです。
べつに京都にケンカ売るわけじゃないですが、今度は自信を持って堂々と、男物の着物で京都に出掛けてみようかと思います。
「無塩の平茸(by木曾義仲@平家物語)」かもしれませんが。
もちろん、慎重にコーディネイトを考え、TPOをきちんとわきまえた上で、ですけどね(笑)。
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