スタッフN村による着物コラム

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12月に入ってまっさかさまに秋から冬になってしまいましたね。

ほんの半月前、青梅が紅葉真っ盛りだったある日、ご近所さんを誘って御岳渓谷に紅葉狩りに出かけました。

ホントは青梅の誇る地酒・澤乃井の小澤酒造が経営する「ままごと屋」の

アウトレット店「豆らく」にランチに行ったんですがね。

写真はままごと屋の庭園から吊り橋を望んで。

小雨模様の寒い日でしたが、川には元気なカヌーイストたちも。

これで好天なら紅葉渋滞が起きるところ、悪天候のおかげで車はスイスイ。

家から20分の快適ドライブでした。

 

17.財産としての演目

1020日、下北沢の老舗小劇場、ザ・スズナリに東京ヴォードヴィルショーの『竜馬の妻とその夫と愛人』を観に行きました。

10月になったのでようやく袷の登場。韓国大島にヘビロテのみんさー半幅帯。

頂き物なんですが、私のワードローブにはよく合うので、ついこればっかり。

保多織半襦袢に足袋は川越唐桟製。川越の「かんだ」さんで買いました。

さてこの芝居、鈴木京香の主演で映画にもなっていますが、もともと三谷幸喜がヴォードヴィルに書き下ろしたもの。

再演・旅公演(ニューヨークも!)を重ねて、東京では今回三演め。

登場人物は4人だけで、坂本竜馬の妻・おりょう、元海援隊士の菅野覚兵衛、おりょうの再婚相手・西村松兵衛、そして唯一の架空の人物・虎蔵。

おりょうのあめくみちこ、覚兵衛の佐藤B作、虎蔵の佐渡稔は不動のキャスト。

松兵衛は客演の役者が演じ、今回はワハハ本舗の綾田俊樹。初演・再演は平田満でした(映画では木梨憲武)。

なんだかんだで初・再演とも、映画も見ていて、ヴォードヴィルの芝居、いや、三谷幸喜の芝居としても一番好きかもしれません。

幕末オタクとして有名な三谷氏のこと、同じく幕末歴女の私には痒いところに手が届くような脚本なのです。

この不思議なタイトルは、坂本竜馬の妻・おりょうが竜馬の死後再婚し、さらに愛人をもったという設定からきています。

愛人云々はさておき、それ以外は史実に基づいており、再婚相手の西村松兵衛は貧乏な露天商。

みじめな暮らしの中でおりょうは酒に溺れ、酔っては「あたしはあの坂本竜馬の女房だったんだ!」と叫んでいたらしい。

ちなみに史実ではおりょうの死後、松兵衛は「坂本龍馬妻龍子之墓」と刻んだ石碑を建てたそうです。

この異常ともいえる夫婦のありように興味をひかれた創作者は多く、小説では阿井景子さんの『龍馬の妻』があります。

(ちなみに「竜馬」「龍馬」と書き分ける理由は、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」では竜馬、史実は龍馬。三谷氏は司馬遼準拠なので以下竜馬で統一します)

開演前、ニューヨーク公演で流したという前説ビデオを上映(といっても大型テレビw)してました。

英語のナレーションで、ジョン万次郎を「マンジロー・ジョン」と言ってたのには笑った。

そこはそのままジョンマンジローか、マンジロー・ナカハマとすべきではないだろうか。

スズナリはとても小さな劇場なので、八畳ほどの正方形の舞台に薄汚い長屋のセットが組まれ、その三方ぐるりにも当日券の客を入れてます。

三谷戯曲の人気は高く、客席は満員。舞台を取り巻く客も見づらいだろうが演者もやりにくかろう。

そういえばミュージカルマニアの姉が初日に観に行ってびっくりしてました。

そりゃ普段帝劇や日生しか行ったことないんだから、いきなりスズナリを見たら驚くでしょうよ。

舞台の両横では今回の新演出として、ギターとアコーディオンの生演奏が。

ギターの千葉和臣は海援隊のメンバーで『贈る言葉』の作曲者。竜馬の芝居で海援隊が演奏するのも一興か。

さて舞台は明治12年の夏。坂本竜馬の十三回忌の法要を行うため、政府から派遣された菅野覚兵衛がおりょうの陋宅を訪ねてくるところから始まります。

西南戦争も終わり、西郷隆盛ら明治維新の立役者がほとんど世を去った現在、維新直前に暗殺された坂本竜馬の評価はうなぎのぼり。

その十三回忌に元妻のおりょうを呼ばない訳にはいかないが、おりょうの評判は政府の要人たちの間では最悪。

覚兵衛はおりょうの妹の夫で、今は海軍少佐に出世しているが、竜馬の生前、おりょうのわがままにさんざん振り回されたクチ。

暮らしも荒れ、愛人までいるというおりょうの生活態度が改まらなければ斬れ、という密命を帯びている。

最初は留守宅を訪れた覚兵衛が、室内で飛び回るセミに悩まされる一人芝居が続く。しまいにはサーベルを抜いてセミを斬ってしまう。

そこへ松兵衛が帰ってくる。覚兵衛はおりょうの振舞いを容認している松兵衛を責めるが、松兵衛はどこ吹く風。

佐藤B作はいつものように暑苦しくクサい芝居ですが、対する綾田俊樹がひょうひょうとして実にいいのです。

平田満は実直で小心な男と言う感じだったけど、綾田はもと京都の大店のどら息子、という設定にぴったり。

いいかげんで、甘ちゃんで、なるべくしてこうなった、という風情が全身に漂ってる。

伏見の船宿・寺田屋におりょうがいたころから、竜馬とおりょうを争っていた、という設定も説得力があります。

また綾田がところどころ台詞もあやしく、B作が本気でひっぱたいたり、思わず吹き出したり、天然ボケがかえって人物造形にプラスしています。

ちなみにくだんのセミは松兵衛がペットとして飼っていたミン太郎だと知ってあせる覚兵衛。三谷脚本らしい小ネタです。

やがておりょうが帰宅するが、やはり昼間から大トラ。

竜馬の死後、手のひらを返すように冷たくなったかつての同志に恨みを抱いているので、十三回忌のことなど聞く耳を持たない。

あめくみちこはこの劇団の看板女優で、テレビでは地味なオバさん役が多いですが、舞台ではじつに色っぽく、三演めとあって、自家薬籠中の役。

おりょうはこのあたりのテキ屋の元締め・虎蔵を愛人にしていて、それは松兵衛も黙認している。

しかしおりょうはそれをいいことに、北海道へ渡る虎蔵について行くと言い出す。

ご挨拶に、と土佐名物・酒盗を手に現れた虎蔵は、あろうことか竜馬に生き写し。

敵対するテキ屋たちをまとめあげた手腕、それを語る土佐弁、太い眉にぼさぼさ頭、よれよれの袴にブーツと、竜馬をよく知る覚兵衛さえ愕然とする。

おりょうに惚れきっている松兵衛は、虎蔵と決闘する決意をする。覚兵衛もおりょうが虎蔵についていっては困るので、松兵衛の後押しをする。

実は覚兵衛も、妻の姉であるおりょうにひそかな恋心を抱いていたのだ。

この虎蔵、決闘となったとたんに尻込みしだす。実はただの竜馬オタクで、眉はつけ眉、言葉から身なりまで、徹底的に研究したあげくのモノマネ。

演じる佐渡稔はこの劇団の二枚目俳優ですが、常にうさんくさい二枚目なので、この芝居でも出てきただけでウロンです。

失望したおりょうは結局竜馬の代わりなどいない、と虎蔵を見捨て、松兵衛とのあてどない暮らしに戻って行く。

と、ストーリーを説明するとなんとも切なくシリアスに見えますが、そこは三谷脚本、セミやつけ眉以外にも笑える小ネタが随所に仕込まれています。

最大のネタは剣の達人である竜馬がなぜあんなにあっさり斬殺されたのか、ってことですが、そのへんは観てのお楽しみ。

劇団メンバーの3人は役をさらに磨き上げ、客演の綾田俊樹がこれ以上ない松兵衛役を造型し、実に完成度の高い舞台でした。

ヴォードヴィルには三谷幸喜の書き下ろしが他にも3本あり、この『竜馬…』と『アパッチ砦の攻防』は「またかよ!」と思うくらいw上演しています。

三谷モノはドル箱でもありましょうが、書いてもらった脚本を大事にして、ブラッシュアップを重ねていくヴォードヴィルはエライと思います。

それが劇団の財産というものでしょう。

先だって、三谷文楽の回で苦言を呈しましたが、こうした努力は他のジャンルも見習うべきではないでしょうか。

三谷幸喜は自分の劇団が休止中なので、新作のたびに新しいカンパニーを組みますが、いつも豪華メンバーなので再演がめったにない。

見逃すとそれっきりになりがちなんですよね。

こうして再演を重ねてくれる東京ヴォードヴィルショー、来年はもう一つの三谷脚本『その場しのぎの男たち』を上演。

さらに2015年には三谷幸喜の新作が予定されているとのこと。実に楽しみです。

鬼が笑うどころかあきれて肩をすくめそうな先の話ですけどね(笑)。

 

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