スタッフN村による着物コラム

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秋も深まり、我が家の庭および上空は野鳥の楽園。

カラス、スズメはもとより、ムクドリ、ジョウビタキ、セキレイ、ドバト、モズ、ヒヨドリ、

さらに上空高くトンビが輪を描き、時折サギがバッサバッサと羽ばたいて行きます。

ヤツら、特に写真に撮りたいような珍しいヤツほど、カメラを取りに行ってる間にいなくなってしまいます。

しかし先日の早朝、テラス近くの電線に止まったジョウビタキの激写に成功!

腹側と背側から撮れました。どっちも同じ個体の前後ろ。

翼の白い斑がダンディなニクいヤツです。

 

16.9月の落語

9月はけっこういろんな会に行けたんですが、着物を着ていかなかったり写真を撮り忘れたり。

にぎやかしに国立で高校時代の友人と食事をしたときの写真をアップしておきます。

背景は朝ドラ『梅ちゃん先生』のロケにも使われた一橋大学のキャンパスです。

茶縞の保多織にみんさーの半幅帯、竹籠と扇子と下駄も茶とグリーンで統一してみました。

この日は9月の初めで蒸し暑く、夕方から激しい雷雨でしたが、オール木綿なのでまったく問題なし。ただし翌日着物は洗濯しました。

さて落語。

まずは9月6日の「立川談春独演会〜アナザーワールド18」です。

立川流は家元があんまり好きじゃなくて、お弟子さんたちもあんまり追っかけてない(チケット取りも難しい)んですが、

談春追っかけの友人夫妻が行けなくなると回してくれて、この毎年行われる会もなんだかんだでよく行ってます。

この会は、世田谷の成城ホールで談春が普段あまりやらないネタをかけるという趣旨で、前座も二つ目も出ず、本当の独演会。

いきなり真打ち登場、談春は見た目もコワモテ(堀尾正明キャスターにドスを利かせた感じ)ですが、師匠ゆずりの気難しさで、

客席で携帯が鳴ろうものならその場で帰りかねないおっかない人。客席も落語会らしからぬ張りつめた空気。

マクラはAKB48のライブに行った話を延々と。久々に見たけど、ますます偉そう…もとい、重厚になってるな、この人。

あっかるい喬太郎ばっかり見てるせいか、舞台も客席もなんか空気が重く感じられます。

しかし噺に入ればやはり当代の実力者、ぐいっと引き込まれるのはさすが。

長屋の吉さんが大家に呼ばれ、嫁をもらわないかともちかけられる。相手というのは同じ長屋のお滝さん。

美人で気だてが良くて、長屋じゅうの憧れの的のお滝さんとの縁談に舞い上がる吉さんだが、待てよ、お滝さんは講釈師の不動坊火焔の女房では?

聞けば夫の不動坊は旅先で借金を残して急死、そこで借金肩代わりを条件にもらってくれないかという。

長屋に独り者は数あれど、借金を返せる甲斐性があるのは吉さんだけだと白羽の矢がたったというわけ。

お滝さんなら否も応もないとその日のうちに輿入れが決まり、まずは湯に行って男っぷりをあげようと湯舟で浮かれまくる吉さん。

つい独り言で長屋の独り者たちをこきおろし、それを聞かれてしまったからさあおさまらないのはこきおろされた連中。

あわよくばとお滝さんを狙っていただけに腹立ちと嫉妬が相まって、なんとかこの縁談ぶちこわそうと相談がまとまる。

なけなしの金を出し合って芸人を雇い、不動坊の幽霊に仕立て上げ、新婚の吉さん宅にぶら下げるが…。

立川流の特徴はテーマがはっきりしてる、ってことですかね。この『不動坊』では「男の嫉妬は怖い」ということらしい。

声よく、テンポよく、口跡よく、ひっかかるような言い間違いや表現もない、いつものように流れるような高座。

ああ、落語聴いたなあ、と大満足させてくれる人だと再確認。

休憩あって2席目、マクラもなしにいきなり噺に入ります。

歌舞伎の『小猿七之助』に材を取った噺らしいのですが、歌舞伎では御殿女中の滝川とならず者の中間七之助とのエロエロな物語。

調べたらこの歌舞伎ももとは講談らしい。落語では船頭の七之助に岡惚れしている芸者のお滝。

間違いがあってはいけないのでひとり船頭とひとり芸者での乗船は御法度だが、お滝のたっての頼みで舟を出す七之助。

橋から身投げした手代を助けた七之助、聞けばいかさま博打で店の金を三十両巻き上げられて申し訳なさに身を投げたという。

なにを隠そうそのいかさま師こそ七之助の父親、それを知った七之助は無情にも手代を川へ突き落とす。

それを見ていたお滝をも手にかけようとする七之助だが…

なんとも暗く、重く、オチもなく、「『小猿七之助』の抜き読みでございます」と頭を下げて終わり。

いやあ、重いよ。もうお腹いっぱい。1席目が比較的明るくて軽い噺(それだって他の噺家より重い)だっただけに、よけい腹にこたえる。

悪党にも女にも凄みと色気があり、まるで芝居を見ているようだけど、これは果たして落語なのか? これも落語、というべきなのか。

 

そういうわけでずっしりと腹持ちのいい会の次は9月15日、地元青梅市民会館での林家たい平独演会。

家から車で10分ほどですが、駐車場が込み合う前にと早めに出かけたので、レトロ商店街として売り出し中の青梅の町をぶらり。

要はさびれた宿場町をなんとかしようと、昔ながらの町家に古い映画の看板をあっちこっちに取り付けただけのユルイ町おこしなんですが。

その中心となっている昭和レトロ商品博物館と、なぜ青梅にあるのか誰も説明できない赤塚不二夫会館が並んで建ってます。

このへんのことはいずれ改めてレポートしますね。

さて、会場は地元の老老男女でいっぱい。

笑点メンバーの知名度は高く、発売日をうっかり忘れて翌日買いに行ったらもう2階の袖席しか残ってませんでした。

以前春風亭昇太の会も即日完売だったけど、立川志○くの時はガラガラで困ったと関係者談。

開口一番は二つ目の林家ぼたん。

女性の落語家は、前座のときは男物の木綿や化繊の着流しですが、二つ目になると絹物の訪問着や色無地にお太鼓を締めるようです。

ネタは…ええと、忘れた。記憶力には自信があったんですが、最近どうも頼りないです。

そして真打ちのたい平師匠登場。マクラからなにから笑点ネタの連発。

笑点を見ていない人にはなにがなんだかわからないんじゃないかしら。

たい平は笑点でもさかんに秩父出身をネタにしてますが、青梅と秩父は地理的にも文化的にも近いので、ここでも秩父出身をアピール。

一席めは『お見立て』。ほう、この観客に廓ネタをぶつけてくるか。

吉原の花魁・喜瀬川は、田舎の杢兵衛大尽に惚れられて大迷惑。今日も登楼した大尽に会うのがいやで、若い衆の喜助に断りを頼む。

杢兵衛はたいてい栃木や群馬や千葉あたりの設定が多いのですが、ここでは山梨の大月。

もちろん笑点の三遊亭小遊三を意識してのこと、これも見てないとわからない。

花魁は病気だというと見舞いをさせろと言う。たまりかねて喜瀬川はついに大尽恋しさに焦がれ死にしたと喜助に言わせる。

すると大尽は墓参りをさせろとせがむ。仕方なく喜助は適当な寺の適当な墓地に連れて行き、適当な墓にもうもうと線香を焚いて、大尽を案内。

ところが墓碑を見ると子供だったり軍人だったり、うまい墓がみつからない。

いったい喜瀬川の墓はどれだと怒りだす大尽に喜助、「へえ、ずらりと並んでおりますので、どうぞお見立てを」がサゲ。

先日の談春とはガラリと違う、軽くて明るくてスピード感のある芸風。

廓噺は難しいかなと思ったけど、客席は大喜び。秩父出のたい平が語る、大月の杢兵衛大尽の田舎者ぶりが、青梅の客には親しみやすいのかな。

休憩はさんで翁家勝丸の曲芸のあとに2席目は『井戸の茶碗』。大ネタであります。

正直者の屑屋の清兵衛さんが、裏長屋の貧しい浪人・千代田卜斎から二百文で預かった古ぼけた仏像。

これが細川家の若侍・高木作左衛門の目に留まり、三百文で売れる。高木が仏像を磨いてみると、中から五十両の小判が出てくる。

高木は清兵衛が通るのを待ち受けて、自分が買ったのは仏像だけだから、中の小判は持ち主に返せという。

しかし持ち主の千代田は三百文で売ったものだから、受け取れぬといい、清兵衛は二人の押し問答の取り次ぎで困り果てる。

長屋の大家が間に入り、高木と千代田に二十両、清兵衛に十両で手を打とうとするが、頑固な千代田はなおぐずる。

そこで千代田家のぼろ茶碗を二十両で売ったことにしてその場を納めるが、この話を聞いた細川の殿様が興味を持ち、その茶碗を見せろという。

これが世に二つとない井戸の茶碗という名器で、殿が三百両でお買い上げになる。

高木は先例に習って百五十両を千代田に届けるが、またもただでは受け取れぬと、一人娘を高木に嫁にもらってくれぬかと申し出る。

清兵衛も「いい娘さんだからおもらいなさい、磨けば光る玉ですよ」と勧めると高木、

「いや、磨くのはよそう、また小判が出るといけない」。

登場人物がすべて清廉潔白で無欲で善人という、落語では珍しい(笑)噺。

仏像から小判が出たことなど黙っていればわからないと懐に入れてもいいところを、頑固者二人の間を何往復もする清兵衛さんがいじらしい。

ハッピーエンドだし、これも落語では珍しいのだけど、登場人物のこれからがちゃんと展望できるので後味がよく、好きな噺です。

たい平の明るい芸風にもよく合って、楽しく聴けたのですが、いくつか気になる点が。

歴とした細川家家臣の高木が「故郷のオフクロも喜ぶ」と言ったのは、いかがなものか。そこは「母者」とか「母上」では?

他にも敬語の方向とか、侍らしからぬ物言いが気になりました。

スピード感があってテンポがいいので、いちいち引っかかっていられないのですが、そのあたり、いささか雑な印象。

たい平師匠、ちょっと忙しすぎるんじゃないかいな。

最後は休憩中に女子中学生からリクエストされたという、得意の「花火のモノマネ」で終わり。

まあ、これで1500円はまったくお得なんですけどね。

3つめは9月29日、よみうりホールの「よってたかって秋らくご12」昼の部。

この日は着物で行ったんですが、写真を撮り忘れました。ちなみに二子織木綿の無地にバティックの半幅帯。

自分の写真はないので、ロビーで見かけた着物姿をパチリ。渋いけどモダンな帯が素敵でした。

開演にちょっと遅れたけど、前座はパスでもいいかとドトールしてから行ったら、柳亭市也くんが上がってたぜ。

演目は『一目上がり』。前座ネタとしては珍しいんじゃないかな。初めて聞きました。

次は三遊亭兼好。マクラで「昼の部はしっかりしてる方の部」と言ってました。ちなみにこの会は昼と夜で出演者が違います。

昼が兼好、喬太郎、柳家三三、柳亭市馬。夜が春風亭一之輔、春風亭百栄、桃月庵白酒、三遊亭白鳥。

夜はなにがしっかりしてないかというと、ひとえに白鳥が出ているから。落語を超えた落語家・白鳥いじりはもはやお約束のよう。

ネタは『だくだく』。夜逃げのあげくに無一物で引っ越した八つぁん、絵描きに頼んで長屋の壁に豪勢な家財道具の絵を描いてもらう。

これを見た目の悪い泥棒が夜中に忍び込むが、豪華な家財がすべて絵と知って愕然、「そっちがあるつもりならこちらもごっそり盗んだつもり」。

起きだした八つぁんは「長押の槍を取って突いたつもり」、泥簿「痛ててと突かれたつもり、血がだくだくと出たつもり」というつもり合戦。

兼好は初めて聞きましたが、なんかねちこい円楽門下にしてはあっさりと明るくて好感度大。

続いて喬太郎。「あとの二人がしっかりしてるんで、あたしはしっかりしてなくてもいいかと」、で、今日はグダグダモード。

ネタは『中華屋開店』、初めて聞く噺です。心理学の大学教授がなぜかラーメン屋を開店することに。

教え子の富豪令嬢がこれを追っかけ回し、ドタバタのあげく二人は結ばれる…となんだかこうして書いていてもどうでもいいような噺。

喬太郎の新作としてはあんまり出来のいいほうじゃないなあ。

続いては柳家三三。これで「さんざ」と読みます。

小三治の弟子で、まだ三十代なのにすでに老成の域に達しているしっかり者。

ネタは『五目講釈』、これも初めて聞くネタ。

トリはたぶん今一番「しっかりしてる」柳亭市馬・落語協会副会長。

ネタは『猫忠』。これもお初。

二人とも素晴らしかったんだけど、このあたりで記憶メモリの限界が来たようで、内容が全然思い出せないのです。

まあ両ネタとも、わがアンチョコ・矢野誠一さんの『落語手帖』(講談社刊)に載っていなくて、噺を復習できないせいもありますが。

あんまりスムーズで圭角のない芸って、聞いてると心地いいんですが結局覚えてなかったりするもんなんだなあ。

というわけで、最後は駆け足になりましたが、9月の落語レポでした。

帰りがけに「kimono gallery 晏のN村さんですよね?」と声をかけられてしまいました。東京展にいらしてるお客様でした。

うひゃー照れくさ。こんな粗末なレポートですみません。またどこかの落語会でお会いしましょう。

 

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