スタッフN村による着物コラム
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10月に入ってだいぶ日も短くなりました。
青梅じゃもう朝晩はちょっと冷えます。
先日の台風でなぎ倒されたコスモス、刈り取って捨ててしまうのはかわいそうなので、どかっと生けてみました。
これだけの量を生ける花瓶がなかったので、ブリキのゴミ入れで代用です。
たった2、3日の延命ですが、十分に目を楽しませてくれました。
15.三谷文楽『其礼成(それなり)心中』
すっかり秋も深まりましたが、まだ8月のネタですみません。
今回は8月20日観劇の三谷幸喜書き下ろし文楽『其礼成心中』です。
場所も渋谷のパルコ劇場と、文楽にはまったく不似合いな劇場。
真夏のことで、着物は夏川唐に博多の半幅帯。
ちなみに夏川唐は、シボのある夏物の川越唐桟で、すでに生産中止ですが、川越の呉服屋さんならデッドストックがあるかも。
今回のミソは帯留にあります。
わっかるかなあ? 赤塚不二夫キャラの「べし」と「ケムンパス」のピンバッジです。
先だってKimono gallery 晏の夏合宿を我が家で行った際に、一行をご案内した青梅の赤塚不二夫会館で買ったもの。
合宿の模様や青梅のことはまたいずれご紹介するとして、さて三谷文楽。
文楽というと、近松門左衛門をメイン作家とするガチガチの古典芸能と思われがちですが、実は結構実験的なこともやります。
何年か前にはシェイクスピアの『テンペスト』に材をとった『天変斯止嵐后晴(てんぺすとあらしのちはれ)』を観ました。
どんなもんだか怖いもの見たさだったんですが、これが案外NHKの人形劇みたいで楽しかったんです。
その前に観た北条秀司作の『狐と笛吹き』はいただけなかった。これは昭和20年代に歌舞伎脚本として書かれた作品。
恋愛観や貞操観が古くさくて噴飯もの。おおむねこの頃の新作が歌舞伎でも今一番ダメダメであります。
他にも近代の衣装で演じる織田作の『夫婦善哉』もあるそうなが、これは観たことがありません。
果たして三谷幸喜の文楽初挑戦、いかがなものと相成りますか。
開幕前、客席に三谷幸喜そっくりの人形が登場し、三谷氏自身のナレーションで、携帯電源切りのお願いを含めた口上。
本人のエッセイによれば口上は録音で、プロの人形遣いがそれに合わせて身振りをする。
これが、本当に本人が遣っているように見えるのがご愛嬌。かしらもわざわざ三谷氏に似せて作ったとか。
そして開幕、床はどこにいるのかと思ったら、以前のパルコ歌舞伎と同じように、舞台面の上方(つまり二階)にしつらえてありました。
三味線はベテランの鶴澤清介に若手3人、太夫は中堅の実力派・千歳太夫と呂勢太夫に若手2人。
人形遣いは今回出遣い(顔を出して遣うこと)をせず、全員黒衣なのでわかんないけど、なかなか主役を遣うことのない若手たち。
舞台は大阪・曾根崎の森。近松門左衛門の『曾根崎心中』大ヒットのおかげで、ここで心中する男女が跡を絶たない。
森のはずれで饅頭屋を営む半兵衛とおかつ夫婦は客足が途絶えて大弱り。半兵衛は毎夜心中阻止のためにパトロールに出る。
いや、実際に「パトロール」という単語を使ってます。他にも「タイミング」「カップル」「ネイルサロン」「ブーム」などなど、カタカナ連発。
太夫は語りにくそうですがその度に客席は沸きます。
太夫と言えば、ほとんどの語りを二人の太夫が語るので大変。本公演なら多くの太夫が入れ替わり、一人で30分語れば長い方。
美声で鳴る呂勢太夫が、声を枯らしてしまっていてちょっと気の毒です。
さて、半兵衛夫婦は心中ブームを逆手に取り、カップルの悩み相談を受けながらその名も「曾根崎饅頭」を売って大もうけ。
ところが近松の新作『心中天網島』がヒットすると、舞台となった網島の天婦羅屋が「かき揚げ天網島」を売り出して大当たり。
あっという間に曾根崎はさびれ、饅頭は売れ残る、店は傾く。半兵衛は近松に曾根崎を舞台に新作を書いてくれと頼みに行く。
「わしが書きたくなるような、それなりにおもろい心中事件を起こしてみろ」
と言われてすごすご帰る半兵衛。
半兵衛夫婦の一人娘・おふくは実は網島の天婦羅屋の息子・政吉と恋仲で、許してくれなければ心中するとまで思い詰めている。
おかつのとりなしで二人の仲を認めた半兵衛、もうこうなったら自分たち夫婦が心中するしかないと思い定める。
夫婦は淀川に飛び込むが、あまりの苦しさに死にきれず、濡れ鼠でとぼとぼ帰るさ、かつて心中を阻止したカップルに呼び止められる。
紆余曲折を経て晴れて夫婦となった二人は、あのときのお礼と小判を差し出す。
これで一息ついた半兵衛、懐にあった水浸しの饅頭をおかつと分け合い「今度は心中に水さす水饅頭として売り出そか」と語り合う。
と、いうお話です。
主人公の半兵衛は通常悪役に使われる「虎王」というかしら。娘のおふくも「お福」というコメディリリーフのかしら。
二枚目の「源太」はあくまで脇役。こうしたことも本公演ではまずありえないことです。
また、おふくは「お前の器量は心中に向いてへん」と言われて、手足をバタバタさせて悔し泣き。文楽の女人形に足はないのですが。
半兵衛夫婦の入水場面では、舞台全面にビニールの幕を張り、二体の人形が浮きつ沈みつ、スカイダイビングのように動き回る。
パンフで三谷氏が書いている「あり得ない動き」というのはこれのことのようです。
あり得ない尽くしの三谷文楽、大いに笑い、驚き、その才気にうなりもしましたが、ここであえて苦言。
三谷幸喜はやはり数年前、ここパルコ劇場で書き下ろしの歌舞伎を上演しています。
市川染五郎主演の『決闘!高田馬場』。共演は、いまは勘九郎になった中村勘太郎、猿之助になった市川亀治郎など。
この時も、役者の熱演もあって、大いに笑い、楽しみましたが、脚本的には練り込み不足も感じられました。
遅筆で知られる三谷氏ですから、どうしても新作はストーリーの整合性に疑問があったりします。
しかし、せっかくの新作歌舞伎なのに、上演はこの時こっきり。
主要な役者が今やどんどんビッグネームになってしまったので、同じ配役は難しいでしょうが、別キャストででも再演できないものでしょうか。
このときの演出は、コンパクトなパルコ劇場の特性をフルに活用していたので、大劇場では演出を変える必要がありますが、
脚本を整理して、新しい歌舞伎座ででも上演してほしいもの。
そうでなければ「三谷幸喜の財産」にはなっても、「歌舞伎の財産」にはならないと思うのです。
今回の文楽も同じこと。これが文楽劇場で上演され、何度も再演を重ねて、初めて「文楽の財産」になるのだと思います。
行政からもなにかと突き上げがキビシい文楽協会にぜひご一考願いたいもの。
「三谷幸喜の新作」といえば、あの橋下サンも理解できるんじゃないかしらw。
ちなみにこの日、客層はやはり若く、文楽公演なのに着物は私も含めて2、3人。真夏のことでもありましたし。
着物レポとしてはちょっぴり寂しい夜でした。
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