スタッフN村による着物コラム

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1.「歌舞伎座下駄禁止」伝説  H24.1.1更新

編集者時代、着物の本の編集に何冊か携わりました(本職はマンガ編集者だったんですがね)。

そこでよく出くわす質問、疑問が、どこに何を着ていけばいいのか、

特に歌舞伎や能など、伝統芸能を見に行くときのTPOについてでした。

私も最初は悩んだものですが、なんのことはない、ジーンズとTシャツの人だっているのだから、見苦しくなきゃあいいんです。

しかし、伝統芸能の会場には着物の中級者・上級者が多いので、

着物で行くとかえってその人らの眼がキビシイ、痛い、という恐怖があります。

そのため、洋服の時よりちと気構えが必要なだけなのです。

ところで、上級者によくある誤解の代表的なものが「歌舞伎座は下駄禁止」という都市伝説。

これは本作りの取材で直接劇場に確かめましたが、歌舞伎座をはじめ、国立劇場、名古屋御園座、

京都南座、大阪松竹座、博多座、また国立能楽堂、国立文楽劇場、いずれも「どうぞお気になさらずにおいで下さい」

という答えでした。考えてみればお金を払って見に来る客の履物にあれこれ指図する劇場があったらおかしいですよね。

その時唯一NGだった新橋演舞場も、今回電話で確かめたら「全く問題ありません」とのこと。

現在歌舞伎座は建て替え工事中ですが、まさか新築なので禁止、なんてことにはならないと思います。

もし見知らぬオバサンに「あなた、ここは下駄禁止なのよ」などと言われたら、そういう事実はないということを、にっこり笑って教えてあげてください。

 

では次に、浴衣はどうでしょう。むろん劇場側が入場を断るようなことはないと思います。しかしこれはむしろ「衣服の常識」に関することです。

いうまでもなく浴衣は「湯帷子(ゆかたびら)」が転じたもので、いわばバスローブ。本来は湯上がりに、素足で下駄をつっかけて夕涼みをするものです。

洋服ならばアッパッパ(と言っても若い人にはわかんないか。朝ドラ「カーネーション」で主人公が最初に縫った洋服)。

アッパッパで歌舞伎座の1階席に行く人が、まずいないだろうというのと同じことで、いけないとは言いませんが、私は「着ていかない方がいい」と思います。

どうせ78月だけに着るものなんだし、夏着物を持っていないなら、なにも「浴衣でも大丈夫かしら」などとびくびくしながら和装で歌舞伎に行くことはないのです。

そして花火大会や夏祭りで、思いっきり着倒せばいいじゃありませんか。

でももし、コーマ地のペラペラのではない高級浴衣、いわゆる紅梅や絽や奥州なんかの小紋風の浴衣を持っているなら、

衿付きで足袋をはき、お太鼓を締めればまあなんとか許容範囲かも。ちなみに落語会なら私も浴衣で行ったことあります。

 

さて、そうした劇場に私自身はどんな格好で行くか、参考までに。実はイヤらしいようですが、基本的にはチケット代に比例させる、と言っていいでしょう。

私は1公演につき「1等席1回派」です。

3等席で何度も見る人もいるし、いや、お金があれば1等席連日って人もいるでしょうけど、歌舞伎座の通常公演で1等席は1万6千円。

いやはやとてもとても。

これが京都南座の顔見世は2万数千円、歌舞伎座でも襲名披露などの特別興行は2万円近くなります。

チケットを気張る以上、着物も気張っていこうというわけ。反対に、文楽は一等でも6千円ちょいです。

場所も東京ではあの殺風景な三宅坂の国立劇場ですから、よっぽどのこと(襲名とか)がない限りは紬に下駄。木綿で行くこともありますが、

別に文楽を歌舞伎より低く見ているわけではありません。念のため。

大阪文楽劇場の正月公演も何度か行きましたが、これは正月公演と土地柄を考慮してやわらかものにしてました。

土地柄についてはいずれまた詳しく触れようと思いますが、東京と関西の感覚の違いは相当なものです。

京都や大阪の伝統芸能公演(顔見世や正月のせいでもあるでしょうが)で、紬を着ているのは確実に東京からの遠征組。

だって標準語しゃべってるもん。

地元の人ほどやわらかもの。かつて毎年行ってた京都南座の顔見世興行は、(チケットが高いこともありますが)やわらかものを基本にしてました。

いや、その方が無難なもんで。

東京の歌舞伎座、国立、演舞場の歌舞伎公演ではどうかというと、私は訪問着や付下げは持っていないので、小紋か紬、お召あたりです。

木綿はまず着ません。

真夏は小千谷縮しか持ってないけど納涼歌舞伎のメンバーに興味がないので歌舞伎はお休みです。

東京の劇場の特徴は紬が多いことです。とくに大島紬の多さは群を抜くでしょう。しかもすごーく高そうなヤツ(笑)。

結城もちらほら。帯は染めや綴のしゃれ帯が多いかな。

紬でもこういう上等なものになると、おのずから下駄ではなく草履になります。

下駄が禁止だろうとそうでなかろうと、結果的に「下駄で歌舞伎見物に行く」ということはほとんどなくなるのです。

そういう流れで「下駄禁止」という都市伝説が生まれたのではないでしょうか。

ここでCM。カレンブロッソの花緒サンダルならこんなシーンにぴったり。適度にカジュアルで雨にも強い。長く歩いても疲れない。おすすめですぞ(笑)。

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