スタッフN村による着物コラム

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H24.1.15更新

全国的に寒い寒い新年となりましたね。

豪雪地帯にお住まいの方のご苦労をお察しいたします。

四国も雪が降ったようですが、関東地方は年末からずっとカラカラ天気。

年末に蒔いた小松菜が芽は出たのですがまったく育ちません。

水を撒いて、ビニールの覆いをかけてやりましたが、さてどうでしょう。

写真はお向かいの家で飼っている山羊の母子。ご家族が新年帰省のあいだお預かりしました。

子山羊は昨秋生まれたばかりの女の子です。この寒さの中でも元気に飛び跳ねています。

さて、当コラムも第2回、どうぞご笑覧くださいますよう。

 

2.歌舞伎ナニ見ル?ナニ着テク?<役者編> 

歌舞伎を見たことがなく、これから見たいという友人に、「何を見るのがいいか」と相談を受けることがあります。

これはもうそこらじゅうで言われてることですが、「好きな役者を見つけること」と答えます。

好き嫌い以前に歌舞伎役者なんて知らない、と言う人でも、鬼平@吉右衛門やアノ海老蔵や、松たか子の父や兄はテレビで見たことがあるでしょう。

また、今年は中村勘太郎や、香川照之親子&バラエティでおなじみ亀治郎の襲名披露もありますね。

そんなんでいいんです。「テレビで見たあの人が歌舞伎やってる」のを見に行けば。

 

さて、私はと言えば、きっかけは15代目片岡仁左衛門の襲名披露巡業でした。

ほんのおつきあいで、歌舞伎座ですらない、荒川あたりの小さなホール。

かつて文楽で見てちっとも面白くなかった「吉田屋」でノックアウトされ、以来10年以上にわたり追っかけは続くよどこまでも。

かつては着物姿で京都だ大阪だと遠征も辞さぬほどでした。

最初に追っかけて歩いたのが襲名披露でしたから、必ず披露口上があります。

襲名や追善などの記念興行では、役者は自分の家の紋が入った、家の決まり色の裃姿でずらりと並びます。

これがなかなかカラフルで楽しいものなんですね。

歌舞伎役者は、血筋・師匠筋でなにかしらの一家一門に属しています。

芝居の節目節目で「松嶋屋!」「成田屋!」とかかかるアレがお家の屋号。

このお家に決まった家紋と裃の色(市川一門は髪型まで)があります。

われらが片岡家は松嶋屋。

紋は七つ割丸に二引きといって丸の中に横2本線というあまり面白みのない紋。

ちなみに足利将軍家や新選組の近藤勇もこの紋ですね。

ややこしいのですが、 家紋には「替え紋」というのがあって、こちらは「追っかけ五枚銀杏」。

銀杏の葉が丸く追っかけるように五枚繋がっています。裃の色は独特。

他家はほぼ無地の一色なんですが、松嶋屋は裃・袴の上下から深い緑のぼかしが入り、白をはさんで茶色のぼかしが腰回りに来ます。

舞台上に役者がずらっと並ぶと非常に目立って結構。

で、こうしたお家のモチーフを、ファンというものは俄然着物のコーディネイトに取り入れたくなってしまうのですね。

私はというと、まず江戸小紋の洒落紋(自分の家紋ではなく、遊びで入れる紋)に銀杏の葉をを入れました。

 

ちょっと遠慮気味に小さく入れたので、離れてみると糸くずがついてるようにしか見えないかも(泣)。

それから、松嶋屋カラー・深緑の無地帯を2部式リバーシブルに作ったとき、裏に自分で下絵を起こし、5枚の銀杏の葉と松葉を描いてもらいました。

これを茶と黒の市松の小紋に合わせ、白い帯締めを締めて11月の顔見世に出掛けました。

見る人が見るといかにも「松嶋屋の追っかけでーす」と看板ぶらさげているようなコーデなんですが、一歩歌舞伎座を出りゃわかんないからいいんです。

 

銀杏が黄色く色づいているので、秋にしか使えないのが難ですが。

銀杏と松葉は古典模様の「吹き寄せ」の定番柄なので、(楓なんかも入ってくるけど)既製品でもたくさんあります。

扇子やハンカチ、手ぬぐいなんかで、常にどこかに銀杏があることが多いですね。

ただ、中村屋(勘三郎・次の勘九郎・七之助親子)の紋は「角切り銀杏」です。

これと区別するためには深緑の色と松葉が必須アイテムになります。

まあ、中村屋ファンだと思われて困るわけではないんですがね。

そういうわけで、松嶋屋ファンとしてはこんな感じで遊ばせていただいていますが、他の役者についても触れておきます。

銀杏つながりで中村屋からいくと、まずはこちらはお家の色が明るいオレンジ色。

中村屋ファンは銀杏モチーフ使用時にオレンジ色を基調にすると松嶋屋と区別出来ます。

中村屋と松嶋屋は共演が多いですからね。

替え紋は舞鶴だから鶴もアイテム

2月の松竹座と3月の平成中村座は勘太郎の勘九郎襲名。2月は松嶋屋も共演です。

成田屋(市川團十郎・海老蔵親子)は超名門だけあって、アイテムがいっぱいでうらやましいです。

紋は三升といって三つの升を重ねて上から見た図。つまり三重の正方形。

裃の色は柿色。替え紋は杏葉牡丹。髪型も鉞髷という独特の形に結います。

それ以外にも浴衣の模様の「かまわぬ」(鎌の絵と○とぬ)、荒磯に鯉、とか、蝙蝠もそうだと聞きました。

あと海老蔵関係じゃ壽の字を海老に見立てた「壽の字海老」なんてのも。そもそも海老は成田屋アイテムです。

成田屋に匹敵する名門といえば音羽屋(尾上菊五郎・菊之助親子、松緑も弟子筋の音羽屋)。

こ ちらは重ね扇に抱き柏紋、裃は梅幸茶と言われる緑とも茶ともつかぬ微妙な色。。

浴衣の模様は「かまわぬ」に対して「よきこときく」。

斧(よき…古語)琴(絵は琴柱)菊の連続模様。菊五郎格子という格子柄もあります。菊の花もアイテム。

亀治郎、香川照之(今年中車を襲名)は澤瀉屋。紋はオモダカ(水草の一種)ですが、成田屋の弟子筋なので、裃や髷は成田屋と同じ。

これは松たか子の実家・松本幸四郎家も同じです。

6月の襲名公演では亀治郎が猿之助になるのですから、亀と猿が同居する柄があったら奇跡的ですね。

香川さんの息子さんが團子になるので、団子の柄もあったらカワイイでしょう。でも6月は単衣なのでハードル高いなあ。

吉右衛門の播磨屋は紋は揚羽蝶。

歌昇が又五郎を襲名したので、 歌六・又五郎兄弟とその息子たちが萬屋から播磨屋に移籍して播磨屋人口はどっと増えました。

3月の京都南座と4月の金比羅歌舞伎は又五郎襲名披露ですから、さぞや揚羽蝶の柄が客席に乱れ飛ぶことでしょう。

あ、ちなみに琴平座は入り口で履き物を脱ぎますから、下駄でも草履でもサンダルでも無問題(笑)。

その他幸四郎・染五郎親子なら花菱紋に高麗屋格子とか、坂田藤十郎なら梅鉢紋と藤の花とか、きりがないのでこのへんにしますが、

こうしたことを調べるのはお勉強でするんじゃなく、好きでのめりこんでいくものでして、まさに歌舞伎と着物はオタク腐女子向きなんであります。

そういうわけなので、まずは役者に狙いを定め、その役者にちなんだコーデや小物で出掛けてみる。これで歌舞伎通いが楽しさ倍増です。

むろん最初は手ぬぐい一本でいいんです。

東京銀座は三原橋交差点角にある大野屋には役者の紋入り手ぬぐいが常時ずらりと並んでいます。

銀座にお出かけの際はぜひお立ち寄りを(大野屋さんからなにか頼まれたわけではまったくないので悪しからず)。

 

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